幼馴染みとデート?④
時は流れ、二時間後…。
「うわぁ~ん!!!」
ショッピングモール内にある、某コーヒーチェーン店にて、とある中学生男女二人組の片割れが、とある映画を見終わって大号泣していた。……まぁ、俺の事なんだけど…。
「うわぁ~ん!『クレパスしんすけ』めっちゃ泣けるし、めっちゃ面白いじゃん!誰だよ!?子供向けアニメとか言ってた奴は!!」
「でしょ!!『クレパスしんすけ』の映画、凄く面白いでしょ!だから言ったじゃん!!」
二時間前までの自分が恥ずかしい。実際『クレパスしんすけ』を観てみたら、眠たくなってしまう所か、食い入るように観てしまった。
しっかりその作品を観ずに、批判的な事を言ってしまうのは、本当に愚かな事だと痛感してしまった。『クレパスしんすけ』は、笑い有り、涙有りの、最高のエンターテイメント作品だ。
「……グス、……ちくしょう……。もう一度『クレパスしんすけ』を見直したいぜ……」
「そうだね。でも、お小遣い的に少し厳しいかな?」
桜の言うとおり、月数千円くらいしかお小遣いを貰えない中学生にとって、一回の上映で1000円も取られてしまう映画を、二回も観てしまうのは懐的に中々厳しい。
しかし、どうしても『クレパスしんすけ』の映画をまた観たいという、この俺のクレしん熱は一体何処にぶつければいいのだ。
その疑問に、桜は話を続けて解決方法を教えてくれる。
「でもね!!そういう時はサブスクリプションの動画配信サイトだよ!なんと『クレパスしんすけ』の過去作が一気に見放題!しかも、登録後1ヶ月は無料なの!」
「何!?マジッすか?」
桜はスマホを見せながら、『クレパスしんすけ』の映画が見れる、サブスクリプションの動画配信サイトを教えてくれた。そして、『クレパスしんすけ』のオススメ映画も紹介してくれる。
『クレパスしんすけ』の映画の話をしている桜の顔は、凄くイキイキとしていた。
しかし、昔から桜は、『クレパスしんすけ』の事が好きだっただろうか?あんまり桜が、『クレパスしんすけ』が好きだった印象は無いんだけど?
どちらかと言えば、某猫型ロボットが登場するアニメの方が好きだったような気がするんだけどなぁ……。
「なぁ、桜?」
「ん?なぁに?」
「桜って昔から『クレパスしんすけ』が好きだったっけ?どちらかと言えば、某猫型ロボットアニメの方が好きじゃなかった?オモチャとか持ってたし」
「うん。そうだよ。咲太お義兄ちゃんがまだ高校生だった頃に、よく映画に連れていってもらったんだ。お義兄ちゃんが『クレパスしんすけ』大好きだったから。某猫型ロボットアニメもまぁまぁ好きだけど、オモチャはお父さんがよく買ってきてくれてただけ。お父さんは、某猫型ロボットアニメの方が好きだったから」
あぁ、やっぱり咲太兄ちゃんの影響か。そんな昔から、桜の趣味を調教していたんだな。そして、桜のおじさんの方は、娘を自分の趣味に染めるのに失敗したと……。なんだか悲しいな。
「ふ~ん。咲太兄ちゃんて、そんな昔から桜の面倒を見てたんだな」
「そうなんだよ!お義兄ちゃんは、私が物心ついた頃から、色々な所に遊びに連れて行ってくれたんだよ!」
咲太兄ちゃんの話題になり、桜の目に輝きが増す。あっ、しまった。これ、話が長くなるやつだ。
「私が小学一年生の時に、お義兄ちゃんは高校二年生だったの!その時にね、お姉ちゃんの高校の文化祭に連れていってくれてね!それでね…………」
桜は、『クレパスしんすけ』の話をする時よりも、更にイキイキとした表情で咲太兄ちゃんの話を延々と喋り続けた。
なんで、こんな話を延々に聞かされにゃならんのだ…。今、俺が聞かされている話て、「俺の好きな子がする、恐らくは好きな子が好きだと思われる人の話」だろ?どんな苦行だよ?これ?まぁ、自覚が無い桜に罪は無いんだけどな。
それに悔しいが、多分俺では、桜のこの顔を引き出す事は出来ない。咲太兄ちゃんの話だから、桜はこんなに目を輝かせ、イキイキとした顔をしているのだ。
あぁ、稲葉よ。せっかく発破をかけてもらったと言うのに申し訳ないけど、やっぱり俺とお前じゃ、桜と咲太兄ちゃんの間を付け入る事は出来ないよ。今はな。
でも、負け惜しみかもしれないけど、桜のこの幸せそうな顔を見れる事自体は、凄く嬉しい事なんだ。
俺は、この子の絶望をした顔を知っている。それは、両親が死んだ時と、姉が死んだ時にしていた顔だ。特に、桜の姉が死んだ時の顔は、とても見ていられないモノだった。
しかし、目は虚ろで、触れば崩れてしまいそうに、儚げな表情をしていた少女が、今は天真爛漫な笑顔を俺に向けてくれている。
それは、咲太兄ちゃんが、家族と変わらぬ沢山の愛情を、桜に注ぎ続けてくれていたからなんだ。。咲太兄ちゃんだって、桜と同じくらい絶望をしていたはずなのに……。
正直、そんな咲太兄ちゃんに敵う気がしない。稲葉の発破で、少しは頑張ろうかと思い直したけど、やっぱりそれは、桜の為にはならないんだろうなぁ……。少なくとも、今は……。
俺は、俺の事よりも、桜の幸せを願う人でありたい。
そんな事を考えていて、いつのまにか、ぼ~とした顔をしていたのか、桜が「どうしたの?公平」と尋ねてきた。
俺はそれに「へっ?」と、一瞬間抜けな声を出してしまうが、すぐに微笑を作り、「なんでもないよ?話を続けて?」と返事をした。
「そう?じゃあ話を続けるね!それでね、その時お義兄ちゃんが……」
あぁ、また話が長くなる……。咲太兄ちゃんの話と、桜の幸せそうな笑顔……。不幸と幸福が同時にやってくる……。一流のSM嬢でも、こんな巧みにアメとムチを使いこなせないぞ?もうSM嬢で天下目指しちゃいなよ。
そんな、しょうもない事を考えながら、桜の話をここから一時間以上聞かされ続ける俺であった……。
◇◇◇◇◇◇◇◇
桜の話も夕方の6時頃過ぎには終わり、俺達は電車に乗って地元へと戻り、歩いて桜の家に向かっていた。
好きな『クレパスしんすけ』を観て、更に大好きな咲太兄ちゃんの話をした桜は、こうして家に帰っている途中でも、終始ご機嫌であった。目はずっとキラキラ輝いている。
「あ~、楽しかった!もうお義兄ちゃん達、家に帰っているかな?」
桜は両手を上げて、背伸びをしながらそう言った。
「帰ってるんじゃねぇの?もうすぐ7時になるしな」
「そうだよね~。あぁ、楽しみだなぁ~!」
帰ったら、咲太兄ちゃんと健太兄ちゃん。それに、後輩の新藤さんがいるはずだ。この後、皆でワイワイ食事をする事が出来たら、桜の休日は、とても充実した1日となるだろう。
ウキウキとした桜と、それを見て微笑ましく思っている俺の二人は、適当な話をしている内に、桜が住んでいるマンションに到着した。
俺達は、マンションのエレベーターで七階まで上がり、桜の部屋の前へと着く。桜は扉の鍵を開け、元気よく「ただいま~!!」と言いながら、マンションの部屋の中へと入っていった。俺もそれに続き、「お邪魔しま~す。」と言って、部屋の中へと入っていく。
玄関の中に入ると、靴置き場には多数の靴が置いていた。咲太兄ちゃん達が、もう帰っているのだろう。
「ん?」
しかし、その靴置き場には何やら違和感を感じる。桜のモノとは思えない、女性用の靴が置いてあった。健太兄ちゃんや新藤さん以外にも、誰か女性が来ているのかな?
俺と桜は玄関の廊下を抜け、台所があるリビングへと向かった。すると、エプロン姿をした女性が、料理をしながら台所に立っていた。
「あら、お久しぶりです。桜さん、公平さん」
台所に立っている女性は、俺達に気づくと、ペコリと頭を下げて、丁寧に挨拶をしてきた。
このエプロン姿の女性は見覚えがある。体育祭の時に、咲太兄ちゃん達と一緒に居た人だ。名前は確か、安室さんとか言ったはすだ。
俺は、なんでここにいるんだ?と思いつつ、「どうも」と言ってペコリと頭を下げた。
すると、その時である。俺の左隣から、肌を突き刺すような冷たい空気が流れこんできた。俺はブルっと一瞬震える。
俺は恐る恐る、その冷たい空気が流れてくる方を確認する。その、確認した視線の先には、笑顔で安室さんの事を見つめている桜が居た。しかし、先程まで輝いていたその目は、まったく輝いていない。寧ろ、死んだ目をしている。
あぁ…、この桜の笑顔は何度か見覚えがある。これは、何かを我慢している時の、作り笑いをしている時の桜の顔だ。
桜は、その氷の笑顔を崩さず、口を開き始める。
「わぁ、安室さんも来てたんですね。こんばんは、安室さん。また会えて嬉しいなぁ~」
嘘をつけ……。絶対そんな事思っていないだろ……。
「私も桜さんに会えて嬉しいです。体育祭ではあまりお話が出来なかったから、もっと沢山お話をしたかったの」
「へぇ~……」
先程まで、今年一番の上機嫌だったと言っても過言では無かった桜だが、一気に今年一番の不機嫌へと、気分が落ちてしまった桜であった。
あぁ、この後の晩御飯は無事に終われるのかな?何故か胃が痛くなってきた……。




