幼馴染みとデート?③
ペットショップを離れた俺達は、次に本屋さんへと寄った。どうやら、桜には見たい本があるらしい。
「あった、あった!」
桜はお目当ての本を見つけたようだ。料理コーナーの本棚で……。
「桜……何の本なんだ?それ?」
俺は青ざめながら桜には質問した。桜は得意げな顔をして、両手で本を持ち、表紙に書いてある本のタイトルを、俺に見せつけてきた。
本のタイトルは、『究極料理ベタの人でも簡単に作れちゃう、至高のお菓子の作り方』と言うタイトルだ。長ったらしいタイトルだが、要するに、初心者用のお菓子作りの本だ。
「お前、まさか……。また、お菓子を作るつもりか?」
「何よ?その言い方。そのまさかよ。この前あげたクッキーは、ちゃんと美味しく出来ていたでしょ?」
「いや、それはそうだけど……」
確かに、体育祭の次の日にくれた、市松模様のクッキーは上手に出来ていた。学校の友達達にも配っていたが、結構評判もいい。
しかし、恐らくだが、咲太兄ちゃんの介入があって、あのクッキーは出来上がったはずだ。桜一人ででお菓子を作るとなると、話は別だ。
「お前、一人でお菓子を作るつもりか?」
「そうですけど?」
「辞めとけ」
「なんでよ!?」
「いや、なんでよて……。お前さ、あのクッキー一人で作ったの?咲太兄ちゃんが手伝わずにさ?」
「うっ……」
やはり、あのクッキーには、咲太兄ちゃんの力が介入されているらしい。桜は俺の指摘にたじろいでいる。
しかし、何も絶対に作るなよと言っている訳では無い。だが、普通に「カレーライス」くらい作れるようになってから、お菓子作りとか始めてみてもいいはずだ。
咲太兄ちゃんにこの前聞いたが、桜はカレーライスをとんでもない劇物に作り変えたらしい。普段、料理をしない俺だって、カレーライスくらいは簡単に作れる。まずはそこをクリアするべきだ。
しかし、桜にとっては一人で作る事に意味があるらしく……
「でも、この前のクッキーは、体育祭で迷惑をかけた人達へのお礼で、まだお義兄ちゃんにはお礼出来ていないし……」
「お礼?」
「うん。あのクッキーは、お義兄ちゃんに手伝ってもらって出来たのに、そのクッキーをあげてお礼です、ってのも変な話じゃん」
確かに、それは桜の言いたい事もわかる。あの体育祭で、桜を前向きにさせたきっかけを作ったのは咲太兄ちゃんだ。俺は所詮、桜の責任を軽減させたに過ぎない。
それで、俺がお礼を貰えて、咲太兄ちゃんがお礼を貰わないのも変な話だろう。
しかし、桜が一人で作ったお菓子を貰っても、咲太兄ちゃんの胃袋が可哀想な事になるだけだ。そう、一人で作るなら……。
「じゃあ、誰かと一緒に作れば?要は、咲太兄ちゃんの力が介入してなければいいんだから。お菓子作りが得意な人に手伝ってもらったら?綾香とか、そういう女子っぽいの得意そうじゃん?」
「綾香は料理とか全然駄目だよ?私よりヒドイかも」
「え?」
綾香が桜より?いや、そんな事は無いはずだ。桜よりヒドイものを作るならば、それは、細菌兵器クラスの破壊力を持つ料理を作らないといけない。
あの綾香が……?確かに、アイツの手料理なんか見たこと無いけど……。
俺が綾香について考えを巡らしていると、桜は「あっ、そうだ!」と言って、何かを考えついた素振りを見せる。どうせ、ロクな事を考えついて無さそうだけど……。
「稲葉君に一緒に作ってもらおう!!」
「なんで稲葉!?」
はい、やっぱりロクな事を考えてませんでした。まぁ、俺にとってはロクな事では無いと言う話なのだが。
そんな俺の心境はつゆ知らず、桜は笑顔で話を続ける。
「この前、稲葉君にも当然クッキーをあげたんだけど、その時に稲葉君も、よくお菓子を家で作るんだって話をしてくれたんだ。それで、今度一緒に作ろうか?みたいな話になって……」
「マジで辞めてください。桜さん」
「なんで敬語!?」
いや、マジで勘弁してほしい。アイツ、隙なさすぎだろ?なんでお菓子とか作れちゃう訳?そんなん作れる全国トップスプリンターています?アイツ、桜と遊ぶ口実を作る為に、嘘をついてるんじゃないだろうな?
まぁ、嘘にしても何にしても、そんな事を易々と見逃してやる俺では無いのだけど……。
「うちの母さんが、そういうお菓子作りが得意だから、うちの母さんと一緒に作れば?桜もうちの母さんのお菓子を食べた事があるだろ?」
「うん!そう言えば、おばさんもお菓子作りが上手だったよね!凄く美味しかった!」
「だろ?それに、稲葉は陸上の大会が始まって、練習で大変な時期だ。今の稲葉にお菓子作りを手伝わせるのは、正直迷惑な話かもしれないな」
「あぁ~、それもそうかも。……わかった!今度おばさんにお願いしてみる!」
よし来た!俺は拳を握りしめ、軽くガッツポーズをした。俺は稲葉に発破をかけられたおかげで、前向きな気持ちで今日この日を迎えられている。稲葉は本当にいい奴だ。
しかし、俺は稲葉と違って、敵に塩を送らない。その変わりに、遠くから投石してやるけどな。
そんな下衆な俺を、桜は「へぇ~」と言いながら、感心した様子でこちらを見つめていた。
「公平って、案外、気遣いっていうか、人の事をちゃんと考えて、気にかけられるんだね?」
「案外てなんだよ?俺は気遣いの人だろうが?」
どうやら、俺の好感度は上がったみたいだ。悪いな、稲葉。踏み台にしてしまって。
取り敢えず、これ以上桜がロクでもないやり方を閃く前に、話を別の話題に変えよう。
「それより、そろそろ映画館に向かってもいいんじゃかいか?放映時間まで、あと15分くらいだし。移動や飲み物を買ったりしたら、丁度いい時間になるだろ?」
「そうだね、そろそろ行こうか」
俺は料理の話題を終わらす事に成功し、本屋を出て、再び映画館へと向かう。よし!上手く事が運んだな。
……しかし、今から観る映画が『クレパスしんすけ』かぁ……。いや、俺も小さい頃はよく観てたよ?でも、この歳で、わざわざ映画館で『クレパスしんすけ』を観るのはなぁ……。
桜と人気の少ない映画館で、映画を観るというシュチエーション自体は悪くない。観る映画が恋愛映画とかなら、それなりに雰囲気も作れるかもしれないし。だが、子供向けアニメの『クレパスしんすけ』で雰囲気も何も無いよなぁ~。
しかも、上映時間は二時間近くある。観たくも無い映画を強制的に二時間観させられるのだ。それは結構な心理的苦痛を伴うものと予想される。
映画館へと向かう俺の足取りは重く、時折「はぁ~」とタメ息を漏らす。対照的に、お目当ての映画を今から観に行ける桜は、時折鼻唄を奏でながら、足取りは軽く、とてもご機嫌な様子だ。
あぁ……俺、映画を観てる最中に眠らないでいられるかな?寝たら桜怒るよな?頑張れ!俺!睡魔に負けるな!




