幼馴染みとデート?②
そんなこんな話をしている内に、映画館がある、ショッピングモールへと向かう駅に到着し、俺達は電車に乗った。10分くらいで、電車は目的の駅に到着し、駅のすぐ近くに隣接している、ショッピングモールの中へと俺達は入っていった。
ショッピングモールに入った俺達は、そのまま映画館の方へと向かう。
「次の『クレパスしんすけ』の放映時間は、14時20分だって。」
「そうだな」
映画館の放映スケジューリングが載っているモニターを見て、桜は俺にクレパスしんけの放映時間を教えてきた。今が13時30分くらいなので、放映には50分くらい時間がある。
しかし、ここは幸いにもショッピングモールの中だ。時間を潰す事なんて訳が無い。
「じゃあ、チケットだけ買って、モール内でもウロウロしておくか」
「うん!」
俺達は取り敢えず、受け付けでチケットを購入する。うちの学校が創立記念日で、うちの学校は休みだが、今日はいたって普通の平日である。
金曜日の平日の昼間に、放映初日から1ヶ月くらい経っている、クレパスしんすけを観に行こうとするとする人はそうそう居らず、座席はほぼ選びたい放題だった。
桜は、その選びたい放題の座席表を見て、「凄いね!私達の貸切みたいだね!」と言いながら、興奮してはしゃいでいる。
「そりゃあそうだろ?誰が平日の昼間から、こんな子供向けの……」
「あぁ?」
桜は凄い剣幕でこちらを見てくる。
「い、いや、まぁ放映初日から1ヶ月経っているからな!どの映画こんなもんじゃないでしょうか?」
「そうだね。…公平、言葉には気をつけようね?」
桜はニコリと笑って、首を傾げながらそう言った。しかし、目の奥は笑っていない。俺は少し声を震わせながら、「は、はい」と返事をする。
なんだこいつ?クレパスしんすけ好きすぎだろ?
俺とクレパスしんすけのそれぞれに、「押したら、この世からから消えて無くなってしまうスイッチ」があるとして、それのどちらかを押さないといけないという状況になったら、こいつは迷わず俺のスイッチを押すだろうな。憎いな、クレパスしんすけ。
俺はクレパスしんすけに、そんな嫉妬心を抱きながら、桜と映画館を後にした。
「うわぁ~!可愛いい~!!」
映画館から離れた俺達は、ショッピングモール内のペットショップへとやってきた。ガラス張りの大きな飼育部屋を駆け回る子犬達を見て、桜は上機嫌な様子ではしゃいでいた。
そんな桜に尻尾を振って、愛想を振り撒いている子犬もいる
「ねぇねぇ公平!!ワンちゃん達可愛いね!ワンワン!」
「そうだな」
そう言うお前の方が可愛いよ。そんな臭い台詞は言いたくても言えないので、取り敢えず、桜の発言を肯定だけした。
しかし、ガラス張りの飼育部屋にいる犬達を見て、桜のよう純粋に楽しめる気持ちにはならない。子犬達が可愛くない訳では無い。だが、ここで売れなかった子犬達の末路を考えると、それを楽しめる気持ちにはならない。
今はペットショップ売れ残った犬猫を、保健所で殺処分なんて事は出来ないらしい。しかし、その変わりに、悪質な引き取り業者が売れ残った犬猫を引き取り、狭いゲージで充分な世話をされず、幸せとはいえない人生を送ってしまう犬猫も沢山いるらしい。
ここは大手ショッピングモールのペットショップだから、売れ残った犬猫をそんな扱いはせずに、里親を探してくれる動物愛護団体や、ちゃんとしたブリーダーに引き取ってもらっていると思う。
あくまで、そんなペットショップもあるという話だ。だが、ここのペットショップの売れ残った犬猫達の末路を確認する術など無い。
尻尾を振って、桜に愛想を振り撒いている子犬を見ていると、売れ残らないよう、まさしく文字通り命がけで、自分を必死にアピールしているようにしか見えない。
まぁ、そんな子犬を憐れんでいる場合じゃないんだけどな。俺も、桜に愛想を振り撒いている子犬のように、必死に桜にアピールをしないと。
桜は、しばらくガラスの向こう側にいる子犬達に、しゃがんで手を振ったり、いないいないばぁをしたりして、上機嫌で遊んでいた。
しかし、何か線が切れたかのように、ふと急に冷たい表情をなり、子犬達を見つめていた。
「おい、桜」
俺はそんな桜に声をかけ、桜はそれに少しビックリしたのか、「えっ!?」と言って体をビクつかせた。
「いや、ずっと隣にいたんだから、声をかけたくらいでビックリされても……」
「ハハハ。ごめん、ごめん。少し考え事をしてたから」
桜はそう言うと、「ヨイショ」という掛け声と共に、しゃがんでいた状態から立ち上がった。
「それじゃあ、そろそろペットショップから出ますか」
「もういいのか?まだ時間はあるぞ?」
まだ、映画の放映時間まで30分以上ある。楽しんでいたみたいだし、犬以外にも沢山ペットはいるみたいだ。その他の動物を見て回ってもよさそうなものだが……。
「いいのよ。よく考えたら、飼えないのにこれ以上期待させても可哀想だし。ほら、うちマンションだから」
「……そうだな」
桜もどうやら、俺と同じような事を考えていたみたいだ。ペット達の置かれている状況は過酷だ。どんだけ愛想を振り撒こうが、それが相手に届くとは限らない。相手にも事情があるのだ。
俺だって、あの子犬のように、いつかは桜に距離を取られる時がくるのかもしれない。俺の恋は、無謀な恋なのだから。届く望みは薄い。
しかし、それでも好きでいる事を辞める事は出来ない。たまに、無謀な恋心を抱き続ける事に疲れる時があるが、その疲れを癒してくれるのも、また桜の笑顔だったりするのだ。なんてアメとムチの使い手なんだ。




