幼馴染みとデート?
桜から映画に誘われた日から数日が経ち、とうとう約束の金曜日を迎えた。もうすぐ梅雨入りをする時期であるが、本日の天気は晴天である。
午前中にバスケ部の練習を終え、俺は一旦自宅へと帰ってきた。練習でかいた汗をシャワーで流し、軽く昼飯を食べた。そして、昼飯を食べ終えると、自分の部屋に行き、今日着ていく服をどうしようか考える。
気合いを入れすぎた服装をするのも、少し恥ずかしいので、紺色の襟つきのシャツに、タイトめな黒のジーンズという、無難にまとめた服装でいくことにした。
ピンポーン
今日着ていく服装が決まった頃に、玄関のチャイムが鳴る音が聞こえてきた。恐らく桜がやって来たのだろう。お昼過ぎに、俺の家に来る予定だ。
「こうへ~い!桜ちゃんがやって来たわよ~!」と言う、玄関から母さんの大きな声が聞こえてきた。
俺は「今からいくよ!」と大声で返事をし、部屋を出て、二階から一階へと降りていく。階段を降りて玄関を見てみると、桜はご機嫌な笑顔で玄関に佇んでいた。
「こんにちは!公平!!」
俺の姿を見るなり、桜は元気よく挨拶をしてきた。しかし、俺はその挨拶に返事をすることなく、ぼ~と桜の事を見つめていた。いや、見とれていた。
髪型は、前髪と揉み上げ部分は下ろしたままで、後頭部の上あたりにふんわりお団子を作っている。服は、袖口がふんわりと広がっいるタイプの、白いシャツを着ており、ズボンはゆったりとした感じで、少し裾が短いタイプの、紺色のズボンを履いている。
メイクもしていて、普段はかけていない、少し大きな伊達メガネをかけている。腕にもアクセサリーをつけており、服の上に垂らすようにネックレスもしている。
いつもと雰囲気が全然違うが、正直言って凄く可愛い。その姿は、しっかりとデートの為に、凄くお洒落をしてきた女の子そのものである。
まさかではあるが……桜も、今日のこの日をデートだと認識してくれているのか?
「どうしたの?公平?」
そんな事をボーとしながら考えている俺に、桜は両手を後ろで組んで、下から覗きこむような体勢を取って、俺に声をかけてきた。
そういう仕草の一つ一つも可愛く見えて、俺は顔を赤らめ、照れながら顔を少し背けてしまう。
「な、なんでもねぇよ」
「ふ~ん。そっか」
好きな女の子の、いつもとは違った雰囲気の姿を見てしまったのだ。思春期男子がそれを見て、冷静でいられるはずが無い。俺みたいな思いをしている中学三年生は、古今東西、全国津々浦々《ぜんこくつつうらうら》にいるはずだ。
俺は息を「ふぅ~」と吐き、落ち着きを取り戻そうとする。
「取り敢えず行くか」
なんとか平静を装えるくらいには、心に余裕を持てるようになったので、桜に家を出ることを提案する。
桜は、天使のような満面の笑みで「うん!」と言い、俺の提案に賛成してくれた。くっそ!そんな姿も可愛すぎるぜ!落ち着け!俺!!
俺達は家を出て、歩いて駅の方に向かった。家から歩いて15分くらいの所に駅がある。その駅から電車で4つ進んだ駅に、大手巨大ショッピングモールがある。そのショッピングモールの中にある映画館で、今日は映画を観るのだ。
しかし、今日観る映画は、桜から一切伝えられていない。そんな女の子らしいお洒落をして観に行く映画だ。きっと、今話題になっているような胸キュン映画でも、観に行くのだろう。デートらしくね!
現在放映されていて、女の子に人気のある映画と言えば、『貴方の心臓を召し上がりたい』だ。タイトルだけ聞いたら、サイコパスが主人公のスプラッター映画に聞こえるが、内容は恋愛映画だ。
心臓の病気で、余命幾ばくの少女の恋愛を描いた、正統派の泣ける恋愛映画だ。原作は、某ネット小説サイトに投稿されていた小説のようだが、今は書籍化されて、社会現象クラスでかなり大ヒットしているらしい。
他にも、『詐欺師マンNP』という、テレビドラマから映画化されて、話題になっている映画もある。この映画も女性に人気があり、主題歌は今年NO1ヒットクラスで売れている。
デートとして観に行くなら、この二つが無難だろうけど、一体今日は何を観に行くのだろう?
「なぁ、桜?」
「ん?何?」
「今日、何の映画を観に行くのか、俺聞いていないんだけど?今日は何の映画を観に行くの?」
俺の質問に、桜は「エヘヘ」と言って、少し照れくさそうな反応をした。え?何その反応?いちいち可愛いから辞めてくれ!
観に行く映画を聞いて、照れくさそうにするという事は、いかにもカップルで観に行くような恋愛映画で、桜さんも少し気恥ずかしいて事ですか?どうなんですか?桜さん!
「クレパスしんすけ!!」
「……ん?」
「『クレパスしんすけ』の映画を観に行くんだよ!」
「……はい?」
「公平?『クレパスしんすけ』知らないの?」
それくらいは俺も知っている。『クレパスしんすけ』とは、俺達が生まれるずっと前から放送されている、子供に大人気の国民的アニメだ。某猫型ロボットアニメと並んで、毎年ゴールデンウィークの定番アニメ映画として放映されている。
話題の人気映画には違いないが、中学三年生の男女二人が、おめかしをして観に行くような映画ではない。ましてやデートで観に行くような…………。
「クレパスしんすけて、子供向けアニメじゃん」
「はぁ!?」
俺の一言に、今までの上機嫌から一転して、桜はかなり怒った様子で、中々の剣幕を俺に見せてきた。え?俺、 そんなに怒るような事を言った?
桜は、俺が『クレパスしんすけ』を、子供向けアニメだと言った事に腹を立てたらしく、『クレパスしんすけ』の作品性について、怒涛の説明を始めた。
「『クレパスしんすけ』は、元々は成年雑誌で連載されている、大人向けの成年漫画なの!今では、色んな人に愛される作品になったから、アダルトや過激な表現を抑 えられて、ファミリー向けアニメとして作られているけど、決してただの子供向けアニメじゃないの!映画に関しては、映画マニアや評論家からも評価が高くて、特に『アダルト帝国の復讐』と、『いったれ!戦国大乱戦!』は大人が泣ける映画として、数々の賞を受賞してるのよ!『いったれ!戦国大乱戦』は実写映画にもリメイクされ……」
「はいはい!分かりました!俺の認識が間違っていました!ごめんなさい!」
話が終わりそうに無かった為、俺は桜の話を肯定する形で、桜の話を遮る。
それに納得してくれたのか、「分かればよろしい」とでも言いたそうな顔をして、桜はふんぞり返っていた。あれ?さっきまで、一つ一つの動作が可愛いとか思っていたけど、その動きはなんだかムカつくぞ?
桜は結構な漫画オタクである。漫画オタクと言っても、咲太兄ちゃんが漫画好きで、ジャンル問わず大量の漫画を持っている。その漫画を、桜も借りて読んでいる。
咲太兄ちゃんは、最近は電子書籍で漫画を購入しているらしく、桜はその電子書籍のアカウントを共有している。
桜の漫画趣味は、咲太兄ちゃんの影響なのである。咲太兄ちゃんと一緒に住む前は、少女漫画を少し読む程度だったはずだ。
まぁ、何にしても『クレパスしんすけ』でデートは無いよな……。つまり、桜には、この映画鑑賞がデートだと言う認識は無いと言う事だ。本当に、観たい映画に只誘われたという……。
俺は、自分の考えが勘違いだった事を認識し、トホホと肩を落とす。
そんな俺の姿を見て、桜は「どうしたの?」と尋ねてきたが、俺は低い声で、「なんでもないです」と、少し他人行儀な返事をした。
しかし、桜のいつもと違う雰囲気に舞い上がって、少し勘違いをしてしまったが、桜が今日の映画鑑賞を、デートだと思っていないだなんて、最初から分かっていた事だ。
その上で、今日は俺の事を少しでも意識してもらえるよう、頑張ると決めたんだ。何も落ち込む事は無い。
俺はそう自分に言い聞かせ、上がって落とされた気を取り戻す事にした。頑張れ!俺のメンタル!




