幼馴染みからのデートの誘い?
「公平!!今週の金曜日は暇!?」
学校のとある休み時間に、俺は机に突っ伏して惰眠を貪っていると、幼馴染みの桜がいきなり大声で予定を聞いてきた。
俺は部活が忙しく、家に帰ったら弟が部屋のテレビを独占している為、基本夜更かしをしないと大好きなテレビゲームが出来ない。だから、基本寝不足である。
学校の休み時間は貴重な睡眠時間であり、(たまに授業中も)それを邪魔されるのは基本的には激怒案件である。しかし、その睡眠を邪魔してくるのが、片思いをしている幼馴染みの女の子であるなら怒るに怒れない。
俺は仕方が無しに幼馴染みの質問に答えてあげる事にした。
「今週の金曜日?」
「うん!」
「今週の金曜日は午前中だけ部活があるな。次の日が試合だから、疲れを残さないように午後は休みになっている」
「創立記念日なのに部活あるんだ!?」
「そうだな。次の日の土日で、県大会出場が決まる地区大会決勝があるからな。ハードには練習をしない予定だけど、休む訳にはいかないな」
去年はもうすぐ関東大会まで出場できるという所まで、うちのバスケ部は勝ち進んでいた。今年こそは関東大会、そして全国大会に出場するという目標で、うちのバスケ部は今熱心に練習を取り組んでいる。
しかし、桜はそんなバスケ部の話を聞いて「ふ~ん」と興味が無さそうに返事をした。なんだか悲しい。お前から聞いて来たよな?
「じゃあ、午後から暇なのね?暇なら遊びに行こうよ!観たい映画があるんだ!!」
予定を聞いてきたのは遊びを誘う為だったようだ。まぁ、俺だけでは無く綾香も誘っているんだろうな。
そんじょそこらの思春期男子なら、これはデートの誘いだと勘違いするだろう。普通、いきなり好きな女子に映画に誘われたら、舞い上がってデートだと良いように解釈してしまう。
しかし、俺はプロの幼馴染みだ。幼稚園の時から俺と桜と綾香はずっと三人で遊んでいた。さすがに中学生になってから、男女それぞれの友達と遊ぶ事が多くなったが、それでもよく一緒に遊んでいる方だと思う。当然、今回の映画も綾香と三人で行くに決まっている。
しかし、分かりきっている事ではあるが、念の為に確認だけしておくか。なんの念の為かは自分で言っていて分からないけど……
「綾香と三人でか?」
「違うよ?二人でだよ!」
「二人!?」
ふ、二人!?つ、つまりデートみたいなもの?えっ、二人ですか?
予想外の返答に、俺は困惑してしまう。二人で遊んだ事が無い訳では無い。しかし、それは主に小学生の時までの話であり、中学生になってから家でゲームとかして遊んだ事はあるが、外で二人っきりで遊びに行った記憶は無い。
思春期の男女が二人で遊びに行くのは中々ハードルが高い。しかも、デートの定番である映画だなんて。……まるでカップルのようじゃないか!?
桜だって、男女二人で映画を観に行く事がどういう事かの認識はあるはず。
まさか……まったく脈が無いと思っていたが、多少は男として俺の事を意識してくれているんじゃ?
桜の誘いに舞い上がってしまう、そんじょそこらの思春期男子の俺であった。まさしく意識はヘブン状態。
しかし、次に発せられる桜の言葉に、俺は現実へと意識を戻させられる。
「綾香も誘ったんだけど、綾香は家の用事で金曜日は無理なんだって」
「……ですよね~」
「ん?どうしたの?」
「いや、こっちの話だから気にするな」
はいはい、そりゃあそうですよね。俺より先に綾香に声をかけてますよね。でも、勘違いしても仕方がないよね?あの言い方なら。だから俺は恥ずかしい奴じゃないよね?
俺は恨めしそうな目で、二つ後ろの席にいるであろう綾香の方に目を向ける。すると、綾香は俺達のやり取りを見ていたのか、微笑ましい表情をしてこちらを見ている。アイツ、まさかわざと桜の誘いを断ったんじゃないだろうな?
桜は話の続きがあるようで、綾香の方を向いている俺の肩をチョンチョンと指で二回指す。俺はそれに反応し、桜の方へと顔を向けた。
「それでさ、映画を観た後はどこか別の場所で遊んで、その後晩御飯はうちで食べなよ?健太お兄ちゃんと新藤さんがうちでご飯を食べにくるみたいで、お義兄ちゃんが良かったら公平もどう?だって。」
「ふ~ん。健太兄ちゃん達がねぇ」
健太兄ちゃんの事はよく知っているが、新藤とかいう人はあまり面識が無い。この前の体育祭で顔を会わせた程度だ。
まぁ、綾香を誘っていたという事は、桜にデートという認識は無いという事だ。それは残念ではあるが、片思いの女の子に誘われて断る理由も無い。
「わかったよ。金曜日は空けておく」
「リョーカイ!それじゃあ、また連絡するね!」
そう言って、桜は少し駆け足で教室の扉の方へと向かって行った。どうしたのかな?トイレでも我慢していたのかな?
俺は桜が教室から出ていくのを確認して、おせっかいを焼いたと思われる綾香の元へと向かった。
「おい綾香。本当に金曜日予定があったのか?俺に気を使って断ったんじゃないだろうな?」
「ん?余計なお世話だったかな?」
綾香は首を少し傾け、ニコッと天使の微笑みを浮かべながらそう言った。それに対して俺は「とんでもございません、本当にありがとうございます。」と頭を下げて、丁寧に感謝の言葉を述べた。
持つべきものは気を使える幼馴染みだな。もう一人の幼馴染みが全く気を使えないので本当に助かる。本当に綾香はいい奴だ。
「桑田との事で協力出来る事があったら何でも言ってくれよな?」
俺は綾香の耳元でそう呟くと、綾香は「ハハハ」と笑いながら「その時はお願いね」と言った。
綾香は俺の友達の桑田の事が好きらしい。桑田は頭が良くて、この学校の生徒会長をしている。引っ込み思案の綾香が、皆の前に出る事が多い生徒会副会長をしているのは、桑田が生徒会長をしているからだ。
綾香はいつも俺と桜の事を心配してくれている。なんならうちの母さんよりも心配してくれている。
そんな優しい綾香の恋が実ればいいなと本当に思う。綾香みたいな子が幸せになれないなら、そんな糞な世界は滅びたらいいのに。




