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義妹と実家。

 体育祭が開催された5月が終わり、とうとう(・・・・)6月を迎える。俺の嫁は去年の6月に事故で死んでしまった。つまり、嫁が死んでこの6月で丁度一年になり、初めて嫁の命日を迎える事になる。

 四十九日が過ぎた頃から、嫁のいない生活の悲しみや寂しさに徐々に慣れてきたつもりだった。しかし、命日が近づくにつれて嫁が生きていた頃の思い出を思い返す事が増えていき、まだ嫁が死んだ事に対する心の傷が癒えていない事を認識する。

 嫁の妹であるさくらも同じ気持ち……いや、俺以上に心の傷を負っているだろう。ふと物思いにふけっていると言うか、何か浮かない表情をしている時がある。桜にとっては唯一の肉親であった姉の死だ。その悲しみの程は察するに余りある。

 今日は朝から桜と一緒に俺の実家に行く予定であり、今はその実家に向かう道中である。実家に行くといっても、実家と俺の住んでいるマンションは近所であり、徒歩10分くらいの距離だ。三年前まで俺は実家に暮らしていて、今は両親と実の妹が三人暮らしている。


「ねぇ、お義兄ちゃん?」


 横を歩いている桜が、俺の名前を呼んで尋ねてきた。俺は桜の方を向き「ん?何?」と返事をする。

 今日の桜は6月になり、暑くなってきたという事で、ノースリーブの白いワンピースに薄手の青いカーディガンという涼しげな格好をしている。いつもはパンツスタイルが多いので、今日の格好は新鮮に感じる。

 そんな事を思っていると、桜は尋ねた内容を話し始めた。


「今日って八重やえは家にいるのかな?」


「あぁ、今日は部活も休みで家にいるらしいぞ?」


「やったぁ!」


 俺の返答に桜は笑顔になって喜んでいる。桜井(さくらい) 八重やえは俺の実の妹だ。桜とは同い年で小学校も一緒である。しかし、中学校は八重が私立に行った為、別々の中学校に行っている。

 二人は姉妹のように仲が良く、八重は部活が忙しくて中々会えない事が多いが、会うたびにいつも楽しそうにお喋りをしている。


「君たち本当に仲がいいね?いつも二人で何話してるの?」


「えぇ~とね、お義兄ちゃんの…………エヘッ!内緒!!」


 桜は途中まで言いかけて、わざとらしくおどけて舌を出しながら誤魔化した。

「お義兄ちゃんの……」って何だよ?そこで止まるなよ?はいはい、どうせ妹同士お兄ちゃんの悪口を言って盛り上がってるんですね?そうなんですね?ちくしょうめが。

 俺は、そんな気持ちを込めた疑いの視線を桜に送るが、桜は「ハハハ」と笑いながらその視線をいなす。

 そんなやり取りをしている内に、俺達は実家の前へと到着した。

 実家は住宅街にある縦長式の三階建ての一軒家であり、俺が中学生の頃にたてられた築10年程の家である。元々はマンションに住んでいたが、妹の八重が成長したら、兄の俺とは別の部屋が必要だろうと両親は考え、思いきって一軒家を購入したそうである。父さん!ローン返済頑張って!!

 俺はキーケースから実家の合鍵を取り出した。そして、玄関の扉の鍵を開けて、俺は「ただいまぁ」と言い、桜は「お邪魔します」と言いながら家の中へ入った。


「あら、お帰りなさい。早かったわね?」


 家の中に入ると母さんが出迎えてくれた。母さんはエプロン姿であり、昼御飯の準備でもしてくれていたのであろう。そんなエプロン姿の母さんは、桜に視線をやった途端にうれしいそうにプリプリしながら笑顔になっていた。


「桜ちゃ~ん!久しぶり!元気にしてたぁ?」


「はい!元気です!お久しぶりです」


 桜はそう言ってペコリと頭を下げる。


「いやぁ~!!桜ちゃんの今日の服装凄く可愛いじゃない!!キュートだわぁ!!」


「いやぁ~、照れますなぁ~」


 母さんの褒め言葉に、桜は右手で後頭部をくしくしかきながれ照れくさそうにしている。

 俺はそんなやり取りを無視して母さんのお腹をじっと見つめていた。あぁ……またお腹が大きくなっているな。会うたびに大きくなってきてやがる。ズボンにお腹が完璧乗っているじゃないか。エプロンもパツンパツンだし…。

昔はスリムで綺麗な人で、自慢の母さんのだったんだけどなぁ。あぁ、時はなんて無情な事なんでしょうか?

 母さんはそんな事を考えている俺に気づいたのか、笑顔から一変怪訝な表情をして俺の方を向き、「何よ?」と少し語気を強めて言ってきた。


「…別に、なんでもないよ」


 俺はそう言いながらも哀れな視線を母さんに向ける。


「なんかムカつくわね……。まぁいいわ。八重!!お兄ちゃんと桜ちゃんが来たわよー!!」


 母さんは上の階に向かって大声で八重に俺達の訪問を報告した。八重の部屋は三階であるが、母さんの大声は十分に三階まで届いたのだろう。「は~い」という声が微かに聞こえ、そのまま階段をかけ降りる音がダダダダダと聞こえてきた。

 そして、八重は階段を降り終わり姿を見せると、そのまま階段をかけ降りた勢いのまま桜に抱きついていった!抱きつかれた桜は少しビックリしている。


「桜!!久しぶり!!」


「八重!勢いが凄いよ!でも元気そうだね!」


「うん!元気にしてるよ!」


 八重は姫カットのサラサラロングヘヤーをポニーテールにしている。普段はクールて兄の俺にさけずむような視線を平気で向けてくるような奴なんだが、桜との久しぶりの再開が嬉しかったのか、嬉しすぎてポニーテールが犬のしっぽのように左右に揺れているように見える。


「桜!早く私の部屋にいこうよ!沢山お話しましょ!」


「駄目だぞ」


 八重の提案を、桜では無く俺が拒否した。八重は「なんでよ?」と威嚇した目線で俺に問いかけてきたが、俺はそんな八重に怯む事なく冷静に説明をする。


「まず、父さんに挨拶してからだ。当たり前だろ?桜が礼儀知らずだと思われるだろ?」


「エヘヘ、ごめんね?八重」


 俺の説明と、少し困ったように謝罪をする桜に何も言い返せない八重は、「うぅ~」と少し納得のいっていない声を思わせる様なうなり声をあげるが、「わかったわよ」と言って渋々了承した。


「お父さんへの挨拶が終わったらすぐに私の部屋にきてね!桜!」


 八重はそう言って、階段を登って自分の部屋へと戻っていった。

 はぁ~……日に日に八重の俺に対する当たりが強くなってきている気がする。反抗期てやつなのか?桜にも反抗期がきたらどうしよ!!桜にもあんな態度をとられたら、もう泣かないと決めている俺でもさすがに泣いちゃうよ!?……まぁ、桜に限ってそんな事は無いとは思うけど……、多分。

 そんな一抹の不安を抱えつつ、俺は桜と共に父さんがいる和室の方へと向かった。


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