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義妹と手料理②

「ただいま~」


 家には会社から電車を使い45分程で帰宅できる。時計を見ると丁度7時に針を指しており、ご飯時としては丁度いい時間であった。


「お義兄ちゃんお帰りなさい!!丁度ご飯出来た所だよ!!」


 玄関まで元気良く義妹が迎えにきてくれた。義妹の名前は浜崎はまさき さくら。俺の姓は桜井さくらいなので、義兄妹として二人暮らしをしているが、姓は一緒では無い。嫁と結婚した際に一緒に暮らし始めた義妹だが、家に養子縁組をした訳でもないので、当然生まれた時の姓のまま暮らしている。


「お義兄ちゃん!今日はお義兄ちゃんの大好きなカレーライスだよ!!」


「…あぁ。カレーライスなら大丈夫かな?ん?え?カレーライス?」


「何?お義兄ちゃん」


「いや…なんでもないよ…」


 カレーライスとは老若男女全てに支持される万能の料理である。カレーライスが別に好きでは無いという人はいるかもしれないが、カレーライスが嫌いという人はこの日本に置いて存在しない。辛いのが苦手な人には甘口まで用意されている、まさしく気遣いの料理。

 作り方も超簡単。水の分量を間違えてもルーを足せば万事解決。水が多めのシャバシャバカレーでもなんだかんだで美味しい。

 しかも匂いも特徴的であり、通りすがりでカレーの匂いを嗅いでしまったら、もうカレーの事で頭が一杯。家でカレーの作ろうものなら、玄関から家の隅々までカレーの匂いが充満し、人は皆ニコチン中毒を越えるカレー中毒者となる。早くカレーを食べないと震えが止まらない!!

 しかしだ……そのカレーを今日この2DKのマンションの一室で作られているにも関わらず、玄関までカレーの匂いがしてこないのだ。…何か強烈な匂いは玄関にも届いてる。しかし、その匂いはカレーの鼻を支配する心地よい匂いではなく、何故か鼻腔をくすぐるような酸っぱい匂いがするのだ…。いや、匂いでは無く臭いだ。


「さぁさぁお義兄ちゃん!はやく食べて食べて!」


「いや、先に服を着替えてくるよ…」


 俺はスーツに臭いが着くのを恐れ、すぐさま自室に向かい、クローゼットにスーツをしまいに行った。しかし、当然自室も臭いまみれになっていた。


「うぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


 俺は全力でファブリーズを部屋に振り撒いた後、クローゼットにスーツをしまい、クローゼットの中にもファブリーズを振り撒いた。次に、臭いが進入しないよう、クローゼットの隙間をガムテープで埋めた。そして、俺は高校時代に体育で使っていたジャージに着替え、死地へと向かう。


「はぁはぁ、お待たせ…」


「お義兄ちゃん凄い汗!美味しくカレーを食べる為に運動をしてお腹を空かせてたの?」


「まぁ、そんな所だ…」


 桜の言動に少し腹を立てつつ、俺はテーブルの椅子に座った。


「ふふふ~んふん♪」


 桜は鼻歌を唄いながら、カレーと思われるモノが入っていると思われる鍋をかき回していた。

 一体あれはなんの臭いだ?一体カレーに何を入れた?色は何色だ?絶対カレーの色はしてないだろ…

 どんな劇物が出てくるのか推理しながら待っていると、しばらくしてカレー皿に盛り付けられた何かがテーブルの上に置かれた。


「ハイ、お義兄ちゃん」


「うわ!目が!目が死ぬ!」


 カレーと思われるモノが目の前に置かれた事で、臭いは今日一番のピークを迎える。その臭いは目に刺激を与える程強烈なモノであった。しばらくして目が開けられるようになり、その臭いの元を確認しようとカレー皿に目を向けると、そこには信じられない光景が繰り広げられていた。


「カ、カレーだ…見た目は普通のカレーだと…」


 なんと、そのあり得ない臭いを発している劇物の見た目は、普通のカレーライスであった。人生で一度も体験した事無いその臭いは、普通のカレーライスの見た目を想像するには森羅万象を司る神でも困難であろう。

 見た目がヤバければ、それはそうであろうと納得する事が出来るが、見た目が普通のカレーなのに、カレーでは無い臭いを発する物体に頭の理解が追い付かない。寧ろ見た目が普通な事でより危険を感じる。見た目が普通である以上、「これはカレーでは無い」と拒否権を発動する事も出来ない。


「今日はシーフードカレーにしてみました!」


 意気揚々と目の前のカレーらしき劇物の説明を行う義妹だが、魚の生臭さだけではこの目にくる臭いの説明が付かない。

 見た目が普通である以上、何か調味料や材料の組み合わせの相性が悪くてこの臭いが発せられている訳では無いと推測できる。組み合わせが悪くてこの臭いを発するのならば、カレー本来の色である茶色を保てるはずはないからだ。少なくともルーの色を変える程、何種類も特別な調味料や材料は使ってないはず…。つまり、たった一種類の特別な劇物を混入した事により、このとてつもない臭いを発するカレーが生まれたのだ。


「…桜?」


「何?お義兄ちゃん?」


「何を入れた?」


「お魚さんだよ?」


 笑顔で答える桜に、俺はこれ以上質問を続ける事は出来なかった。

 俺は覚悟を決め、スプーンを手に取りカレーをすくった。しかし、スプーンは口に中々運ばれず、体は震えている。スプーンが口に近づくという事は、臭いを感じる器官である鼻に近づくという事でもある。スプーンが近づくにつれて強烈に強くなる臭いは、俺の覚悟を鈍らせる。


「お義兄ちゃん?どうしたの?」


 義妹は首をかしげ、可愛い無垢な声で俺を追い詰めていく。そのまま首をへし折ったろかい。


「ええい!やけくそだ!」


 俺はスプーンを勢いのまま口に入れた。



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