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私は全力で走りきる……そして…

 入場行進が終わり、出場する生徒は各自配置についた。入場門に集まってた時はフランクな空気が選手達の間で流れていたが、基本的にスポーツ少女達が選ばるこのレース。グラウンドで配置につく頃には、皆レースに向けてピリピリした雰囲気を醸し出している。

 特に、学年優勝を争っている私達一組と、三組、四組は更に気合いが入っている様子だった。

 第一走者達がスタートラインにつく。私達一組の先陣を切る第一走者は陸上部の西野にしのさんだ。

 普段は物静かでよくオドオドしている西野さんだが、さすがは陸上選手だ。スタートラインについた西野さんの表情は凛々しく、軽くストレッチをして体を伸ばす。ルーティンのような事をしているその様は、とても絵になっていてカッコいい。


「位置について!」


 スタートの号令をかける先生が、第1走者の皆にスタートの用意を促がす。第1走者の皆はクラウチングスタートの体勢を取り、スタートの準備に入る。


「よーい!……」 バンッ!!


 スタートを告げる銃声がグラウンドに鳴り響き、第1走者達は一斉にスタートをした。

 西野さんは最高のスタートを切り、スタートから一位に躍り出た。凄く綺麗なフォームで走る西野さんは、二位以下を徐々にではあるが差をつけていく。

 そしてコーナーを曲がりきり、第2走者で女子バスケ部副キャプテンの倖田こうださんへとバトンを渡そうとする。


「倖田さん!」


「っしゃあ!ウチに任しとき!」


 西野さんから倖田さんへとバトンが渡された。倖田さんは快調に飛ばして走っている。

 しかし、二位でバトンを受けた三組の女の子も足が速い。コーナーに入る頃には倖田さんとほとんど差がないくらいに距離を詰めていた。


「なんやて!!」


 コーナーを曲がり終える頃には倖田さんは三組の女の子に抜かされており、最後のストレートでその差がどんどん開いていった。


「かごめ!すまん!後は頼んだで!」


あかね!これで負けたら私にジュース驕りなさいよ!」


 倖田さんから第3走者で女子バスケ部キャプテンの持田(もちだ)さんにバトンが渡された。

倖田こうだ あかね」と「持田もちだ かごめ」。この二人はバスケ部コンビでいつも一緒にいる仲良しさんだ。倖田さんのやられた借りを返すが如く、持田さんは怒涛の追い上げで首位を走る三組の女の子に追い付いた。

 しかし、三位を走ってきた四組の女の子も追い付いてきおり、トップ争いは一組、三組、四組の3チームに絞られていた。


椎名しいなさん!!」


「任せて!!」


 椎名さんが一位でバトンを受ける。それに続いて二位に三組の子、三位に四組の子とバトンを受けた。

 椎名さんは学年で四番目に足が速い。つまり、学年で一番から三番目に足の速い生徒がアンカーに集まっているこのリレー。今、走っているメンバーで椎名さんより足が速い子は存在しない。椎名さんは二位以下にどんどん差をつけていく。よし!このまま差を開けてくれたら勝てる!椎名さん!頑張って!

 私達最終走者は、レース展開を見守りながらレーンへと配置につく。一位と二位以下でどんどん開いていく差。しかし、その光景を見てメスライオン宇多田(うただ)は不適に笑みを浮かべながら一言ボソッと呟く。


「フッ、面白い」


 宇多田はそう言いながら自信に満ちた表情をしていた。宇多田のクラスの四組は、倉木くらきさんの三組に少し差をつけられて三位である。一位の椎名さんとは結構差が出来ている。

 しかし、これまでの走者はトラック半周(100メートル)を走るが、アンカーはトラック一周(200メートル)と長い距離を走る。それだけの距離があれば、私を抜いて一位になれる自信が宇多田にはあるのだろう。

 でも、今回の私はそう簡単には負けられない。いや、負けてはいけない。走る理由をくれた優しい人達の為にも。

 私はふとお義兄ちゃんのいる方へと目を向けた。お義兄ちゃんは優しい笑顔で私を見ていた。

 うん!お義兄ちゃんが私を見守ってくれている!私はだから頑張れる!


 パン!パン!「しゃああ!」


 両手でほっぺを二回叩き、私は大声を出して気合いを入れた。それに周りの皆は少しビックリしていたが、宇多田だけは動揺する様子は無く、笑みを浮かべて私を見ている。

 その頃、椎名さんは最終コーナーを周り終えており、自分の役目をしっかり果たして私にバトンを渡そうとしていた。


浜崎はまさきさん!頑張って!」


「椎名さん!ありがとう!」


 私は椎名さんの応援を受けながらバトンを貰い、スタートをした。渡されたバトンが熱い。皆の想いがつまっているようだ。

 私は今までに無いくらいに全力で走っている。少しでも早く、少しでも前に。私の意識は走る事に全集中していた。


「さくらちゃーん!頑張れ!」


「浜崎ー!いけるぞー!!」


 誰かの声援が聞こえてくるが、誰の声援かは分からない。それを認識できる余裕は無い。だが、確かにその声援は私の力になっていた。

 しかし、最初のコーナーを周り終える頃、後ろの方からダダダダ!っと走る足音が聞こえてきた。その音は徐々に、徐々に大きくってきている。

 しかも、その足音はどうやら二つ。きっと宇多田と倉木さんの足音だ。陸上部のエースで、学年で一番と二番目に速い二人が、私を追い抜こうと怒涛の走りで迫ってきているのだ。

 私はその迫りくる足音に恐怖を感じた。観客達はその二人のスピードに興奮しているのか、観客の声援もどんどん大きくなっている。

 ヤバイ!もっと…もっと速く走らないと二人に追い付かれる!

 必死に二人から逃げるように、息を切らして足を前に進める。しかし、二人の足音はそれでもドンドン大きくなってくる。

 もうすぐ最終コーナーにさしかかろうとする頃、迫りくる足跡から判断するに、私と二人の間にはそんなに距離が無いように思えた。

 くそぉ……このままだと抜かれてしまう。負けなくないのに、負けてはいけないのに…負けてはいけないけど……だけど……。

 迫りくる足音の恐怖に、私の頭に敗北の二文字がよぎる。心も少し折れそうになる。やっぱり今年も宇多田に負けてしまうの?……

 しかし、そんな余計な事を考え、少し気落ちをしながら最終コーナーを入ろうとしたその時、



「桜ぁ!!頑張れぇ!!」



 最終コーナー付近にある入場門から、私への声援が聞こえてきた。さっきまでは誰の声援か判別がつかなかったが、この聞きなれた男子の声は、誰の声だかすぐに分かる。公平の声(・・・・)だ。

 声の方に首を向けると、やはり、その声の人物は公平であった。公平は必死に、そして少し悲痛な表情を浮かべながら、大きな声を出して応援してくれている。

 あぁ、大きな声を出すなんて柄じゃないでしょうに……ごめんね、公平。公平もずっと(・・・)私を心配してくれてたんだよね……

 私は首をそのまま後ろに向け、迫りくる二人の状況を確認した。二人はほぼ並んでおり、私との距離はそんなに無いが、私が想像していたよりは少し差があった。

 二人とも必死な顔をしている。つまりは、二人とも本当に全力を出さないと私を追い抜けないと判断し、必死になっているという事だ。


 私は……まだ勝てる!!!


 公平の声援を糧に、私は再び息を吹きかえす。そうだ、私は全力で走らないといけないのだ。

 最終コーナーを周り終え、最後の直線へと私達は入っていった。その頃には確認をしなくても、二人が私に並びかけようとしているのがわかった。

 私は歯を食い縛り、顎を上に向けて二人に追い付かれないよう、必死にゴールを目指す。

 後少し!後少しなんだ!

 ラスト10メートル辺り、ほんの少し私が勝ってるが、もう二人との距離はほとんど無い。ほとんど横一線だ。私は祈るようにして目を瞑った。

 そして……


 バン!!バン!!


 ゴールを告げる銃声が二回グラウンドに鳴り響く。私達はほとんど(・・・・)同時にゴールテープを切っていた。僅差の激戦で観客達は大いに湧いている。

 だが、当の私達三人は必死に走っていた為、誰が一位でゴールをしていたのかが分からず、息を切らしながら困惑していた。私達に観客は声援を送ってくれているが、それに応える余裕は私達には無い。

 私達三人は運営本部のテントの方を見ていた。運営委員の皆は、教師と共にゴール付近に設置していたビデオカメラをノートパソコンに繋げて、結果を確認していた。

 公式な大会で使われるようなカメラに比べたら、精密な確認は出来ないだろうし、そんなカメラが無いとわからないような差であったら、このレースは引き分けになるだろう。

 勝てればそれに越した事は無いけど、引き分けでも最悪構わない。一位は一位だ。学年首位もキープ出来て、最後の男子選抜リレーへ望みを託せる。綾香との約束も守れる。

 私は祈るような思いで結果発表を待った。

 運営委員がノートパソコンを閉じ、放送委員のアナウンスをしている生徒の元へと歩いていった。結果が分かり、報告に行っているのだろう。

 放送委員会の生徒がマイクのスイッチを押した。いよいよ結果が発表される。私は200メートルを全力で走りきったという事もあるが、結果発表を待つドキドキにより、心拍数は最高潮に達していた。


『只今のレースの結果を発表します!……』


「ゴクッ」と私は生唾を飲む。アナウンスが作り出す間に、観客達も静まりかえって結果に耳を傾ける。


 そして……


『只今のレース!一位、四組。二位、一組。三位、三組です!!』


「よっしゃぁぁぁぁ!!!」


 ワァァァァァ!!!


 アナウンスのレースの結果を聞き、宇多田は全力でガッツポーズをして雄叫びを上げた。一旦は静まりかえっていた観客も、アナウンスの結果を聞いて再び沸き立っていた。

 アナウンスは続けて四位以下の着順を発表するが、観客の声でよく聞こえない。それ程に激戦だったのだろう。しかし……私は宇多田に負けて二位だった……

 また今年も、宇多田に逆転されて負けたのである。あんだけ必死に走ったのに……負けてはいけなかったのに……

 私はうなだれて膝に手をつき、中腰になって下を向いた。アドレナリンが一気に引いたのか、疲労の波が一気に押し寄せてくる。しっかりと立つことがままならない。そして、視界がだんだん滲むようにぼやけてきた……。


「はぁ、はぁ……浜崎さん!今年も私の勝ちね!!どうよ!!まぁ、最初から結果は分かっていたけどね!!…………でも、まぁ今回は貴方もなかなか…………って、ええっ!?」


「…グスッ!……っう、うわぁぁぁぁん!」


「ちょっ、ちょっと!」


 私は自然に涙が溢れてきて、人目をはばからず大泣きをした。レースに負けて恥ずかしい気持ちは無い。惨めな気持ちも湧いてこない。

 だけど悔しい!とっても悔しい!悔しくて悔しくて仕方が無い。私に走る理由をくれて、私を見守ってくれていた人達に報いれなかった事が悔しい。学年優勝の想いを私に託し、応援してくれたクラスメイト達にも申し訳ない……

 綾香と……綾香と一位になって笑顔でレースを終えると約束したのに……

 色々な感情がごちゃ混ぜになり、涙になって溢れて出てくるのが止まらない。


「うわぁぁぁぁん!!」


「は、浜崎さん!ちょっと、私そこまでのつもりじゃ!!…えっ!?ちょっと大丈夫!?」


 勝ち誇って私に近づきてきた宇多田も、さすがに私の大泣きには困惑しており、オロオロしながら私の事を心配している。

 しかし、その光景を見た倉木さんが走って近づいてきて、宇多田のお尻に飛びゲリをかました。宇多田はそのままぶっ飛んで倒れこんだ。


「はぁ、はぁ、…ちょっとユキ!あんた浜崎さんに何をしたのよ!浜崎さんに謝りなさい!」


「えっ!私何もしていないって!!……多分……」


 倉木さんは私の為に宇多田を怒ってくれているが、宇多田の言うとおり、宇多田は私に何もしていない。私は、私の不甲斐なさに情けなくて、悔しくて、申し訳なくて仕方が無いのだ。


「浜崎さん!」


 そんな私の姿を見て、リレーに出場したメンバー達が駆け寄ってきてくれた。皆凄く心配そうな顔をしてくれている。普段はクールであまり表情を変えない持田さんまでも……椎名さんなんか目に涙を浮かべている。

 本当に……本当にごめんなさい……


「…グスッ……ごめんね……せっかく…、せっかく皆がリードを作って私にバトンを繋いでくれたのに……私……」


「ウチはリードを潰したけどね!、ってグフっ!!」


 倖田さんなりに慰めてくれているのだろう。おどけた顔をして冗談めいた事を倖田さんは言った。しかし、持田さんの強烈なエルボーが、空気を読めと言わんばかりに倖田さんのボディに炸裂する。


「…グスッ……ごめんね!浜崎さん!……私がリレーのアンカーを浜崎さんに押し付けたから……グスッ…本当にごめんね!!」


「違うの……違うの椎名さん!……グスッ……本当に違うの!」


 椎名さんは涙ながらに私をアンカーにした事を謝罪してきた。しかし、それは違うのだ。私はこの優しい人達を代表してリレーのアンカーになれた事を、今は誇りに思っている。

 このメンバーだから、私は全力を尽くして走る事だ出来たのだ。だから…だからそんな顔をして謝らないで、椎名さん。


 三年女子選抜リレーは健闘虚しく二位で終わった。それにより、私達のクラスの順位は二位に陥落し、一位は宇多田の活躍により女子選抜クラス対抗リレーで優勝した四組が、学年一位に躍り出た。

 私は、このレースで全力を尽くした事に後悔はしていない。結果にも恥じていない。

 しかし、この素晴らしいメンバーで勝てなかった事、学年一位をキープ出来なかった事、そして…綾香との約束を守れなかった事は、一生後悔しながら生きていくのだと思う。

 だけど、それでも私は全力で走れて良かったと思う。お義兄ちゃんの言うとおり諦めずにやり切れたのだ。適当に走って皆の期待を裏切るよりかは、幾分マシだったと今は思える。

 失意の結果に終わった女子クラス選抜リレー。私は出場する全競技を終えた。しかし、まだ体育祭は終わっていない。この時の私は、静かに闘志の炎を燃やしていた二人の男子(・・・・:)がいる事を、まだ知らなかった。

 青空も少しずつ影を落とし、夕空に入ろうかとしている。女子選抜リレーの激戦の余韻が覚めやまぬグラウンドで、紅白戦、学年順位の明暗を分ける本日の最終競技、三年生男子選抜クラス対抗リレーが今始まろうとしていた。

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