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私と宇多田は狩る者。

 私は綾香あやかの元を離れ、一度水道へ顔を洗いにいった。泣いた顔を誤魔化す為だ。私は冷たい水を顔にかけ、さっぱりとした気分になった。そして、もうすぐリレーが始まる為、入場門の方へと向かう。

 入場門の方へ向かう途中、クラスのテントの方を通り、クラスメイト達から声をかけられた。


「浜崎!リレー頑張れよー!」


「リレーで勝ったら優勝は俺たちのクラスで頂きだぜ!人見先生からジュース貰おうぜ!」


 ついさっきまでの私なら、そんな応援はありがた迷惑だったのだろうけど、今は特別気にならない。むしろ気合いが入ってくる。


「大丈夫!任せておいて。私達が勝って学年優勝よ!」


 私はガッツポーズをして、応援してくれているクラスメイトに優勝宣言をした。その優勝宣言に対し、クラスの皆が盛り上がり、更に声援を私にくれる。


「いいぞー!浜崎はまさき!」


さくら!頑張ってね!」


 クラスの皆はいい人ばかりだ。そんな皆が、負けたら私にガッカリするなど考えていた自分は、本当に馬鹿だと思う。

 自分の馬鹿さ加減を再認識して、私はクラスのテントを後にした。

 入場門に着くと、リレーに出場する三年の女子生徒はほぼほぼ集まっているようだった。入場門から少し離れた所に椎名さん達を発見し、私は椎名さん達の方へと向かおうとした。しかし…


「あら、浜崎さん。遅い到着ね。負けるのが嫌でリレー

から逃げたのだと思ったわ」


 嫌な奴のテンプレートみたいな台詞を言って、メスライオン宇多田うただが私を引き留めてきた。


「よくそんな漫画みたいな台詞を恥ずかしげもなく言えるわね」


「うっ!?」


 メスライオン宇多田は私の突っ込み少し恥ずかしくなったのか、顔を赤らめて少し恥ずかしそうにしている。隣にいた倉木くらきさんはそんなやり取りを見て「ハハハハハ!」大爆笑をしていた。倉木さんて結構ゲラなんだよね。


「ふ、ふん。とりあえず、リレーで勝つのはこの私よ。そして、私が浜崎さんに勝ってクラスを学年一位へ導くわ!」


 メスライオン宇多田のクラスの四組は三位で、倉木さんのクラスの三組は二位である。一位の私達のクラスのはかなり僅差で、このレースで二人のどちらかに一位を取られれば、学年一位の座をもぎ取られてしまう。


「…まぁ、とは言っても、最初から私に負けを認めてしまっている浜崎さんなんて、相手にならないけどね」


 そう言うメスライオン宇多田は少しモノ寂しげな表情をしていた。メスライオン宇多田の言うとおり、私はメスライオン宇多田に走りで勝てる気がしない。

 当然だ。バリバリの陸上部の宇多田に、帰宅部の私が勝てるはずがないし、なんで私がこんなに張り合われているのか意味が分からない。まぁ、稲葉(いなば)君と一緒に登校したのが恨めしいのだろうけど…

 正直、メスライオン宇多田との対決なんてどうでもいい…だけど……。


「申し訳ないけど、宇多田さんとの勝負に興味は無いの。でも、リレーの一位と学年優勝はうちのクラス(・・・)が頂くわ」


 私は胸を張って宇多田を挑発した。そう、宇多田はどうでもいいが、私には負けられない理由があるのだ。いや、負けられない理由が出来たのだ。

 私は全力で走る、一位を取る、学年優勝をする。そして、笑顔でリレーを終えて綾香に会いに行かないといけないの。


「やっとやる気を出したみたいね!」


 私の挑発に、モノ寂しげな表情をしていた宇多田が生き生きとした表情へと変化している。その目はまさしく獲物を狙うメスライオン。どうやら眠れる獅子を起こしてしまったみたい。

 余計な事をしてしまったのかな?でも、私はただ補食されるだけの獲物では無い。


「油断して、お父さんのようにバトンを落とさない事ね!リレーはチーム競技だって事を教えてあげるわ!」


「ふん!私のお父さんはバトンを落としても貴方のお義兄さんに勝ったけどね!義兄妹揃って粉砕してやるわ!」


 私とメスライオン宇多田は言葉の応酬を重ね、額が当たりそうなくらい顔を近づけてにらみ合う。さながら格闘技の煽り会いみたいだ。

 そんなやり取りを見て倉木さんが、「二人ともなんか漫画みたいだね!」と笑いながらツッコミを入れてきた。

 私とメスライオン宇多田はそのツッコミを受け、顔を赤らめてお互い距離をとった。

 うわ!めっちゃ恥ずかしいんですけど!ってか、めっちゃ私ブーメランなんですけど!倉木さん、恐ろしい子!!

 恥をかいた私は、やる気を出した宇多田と倉木さんの元を離れ、一緒に戦う仲間のいる場所へと向かった。別に恥ずかしくてその場に居ても立っても居られなくなったわけじゃないよ!

 私が椎名さん達に近づいていくと、椎名さんは私に気づいて声をかけてくれた。


「浜崎さん!」


「お待たせ!」


 遅れてやってきた私に、皆は笑顔で迎えてくれた。私と一緒にリレーを走るこのメンバーは本当に最高のメンバーだ。

 この人達と一緒だから、私は全力でリレーのアンカーを全力で挑める。この人達だから、私達(・・)はリレーで勝つことが出来る。


「ねぇ皆!絶対勝とうね!」


 私の鼓舞に、皆が「うん」と応えてくれる。私達の気持ちは優勝に向けて一つとなっていた。それは凄く心地が良い事であった。

 私は帰宅部だから、チームの心が一つになるというような経験はあまり無い。私以外の皆は部活をしていて、こういった心地が良い体験を多分しているんだよね?

 そう考えたら、部活動をしとけば良かったと今更ながらに思うなぁ。もう三年生だから遅いけど。


『只今より、三年生女子による、クラス選抜リレーを行います。選手入場です』


 私達が出るリレーの入場アナウンスが流れた。いよいよリレーが始まる。私は今までに無い不思議な高揚感を胸に、戦いの舞台であるグラウンドへと入場していった。

 さぁ、いよいよリレーが始まるわ。お義兄ちゃん、見ていてね!私、全力で頑張るよ!


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