私と体育祭。⑪
「咲太兄ちゃん。今年も父兄参加のリレーに出るんだよな。まぁ、怪我しない程度に頑張ってね」
「おう!任せとけ!今日こそ一位でゴールテープを切ってやるぜ!」
サンドイッチをムシャムシャ食べながらユルい激励をする公平に、お義兄ちゃんは右腕をまくって力こぶを作りながら応えた。
そうだった。私達はお義兄ちゃんの激励に来たのだった。ハンター安室さんのせいですっかり忘れていた。
私と綾香も遅ればせながらお義兄ちゃんに「頑張ってね!」と両手でガッツポーズを作り 、ぶりっ子をしながら応援した。
お義兄ちゃんはそんな分かりやすくあざとい私達の応援に、「よし!気合いが入るぜ!」と言いながら、喜んだ素振りを見せて応えてくれた。少しコントじみたやり取りだが、私達のそんなノリに付き合ってくれるお義兄ちゃんはやっぱり優しい。
場が和やかな空気でつつまれる。しかし、私達がそんなやり取りをしていると、私の背後の方から、少しからかったような口調で喋りかけてくる人物がいた。
「ハッハッハッ、気合いが入ってますなぁ。こりゃ、私も今年はウカウカしていられませんなぁ」
そのからかい口調で喋りかけてきた人物とは、お義兄ちゃんをリレーで二年連続負けさした、憎き宿敵であった。そして、その宿敵の隣にはメスライオン宇多田がいる。そう、なんの因果かお義兄ちゃんを二年連続で負けさした宿敵は、メスライオン宇多田のお父さんであった。
宇多田のお父さんは、少し嫌みな感じの笑顔をしていたが、メスライオン宇多田はもっと憎たらしい笑顔をしている。嫌な父娘だ。
「宇多田さん。お久しぶりです。言っときますが、今日は前までのようにはいきませんよ?」
お義兄ちゃんは不適な笑みを浮かべて宇多田の父親に応戦した。
「ほう、凄い自信ですね。これは楽しみだ。まぁ、リレーですからね。メンバーに恵まれれば一位になれる可能性はありますから。まぁ、祈っておく事ですね」
「はは、おまじないは得意なんでね。そうさしてもらいますよ」
お義兄ちゃんの言ってるおまじないとは、恐らく藁人形の事だ。だから、それはおまじないじゃ無くて呪いなんだって!!
『父兄によるリレー競技に出場希望の方は、入場門までお集まりください』
父兄リレーの案内のアナウンスが流れた。まだお昼休みは終わってはいないが、お昼休憩が終了後すぐに競技が始まる為、まだ休憩時間に余裕がある時間帯に受付を開始される。
お義兄ちゃんと宇多田のお父さんは、アナウンスを聞いて受付が行われる入場門の方へと向かった。
「お義兄ちゃん!頑張ってね!」
「お父さん!負けないでね!」
私とメスライオン宇多田の声援に、お義兄ちゃんと宇多田のお父さんは背中を見せたまま、握り拳を軽く上げて応えた。無駄にカッコいい。
しかし、これでは私とメスライオン宇多田の代理戦争みたいだなぁ~……私自身はメスライオン宇多田に対抗心は無いのだけど。まぁ、応援はしたものの、お義兄ちゃんの勝ち目は薄いのは明白だ。
お義兄ちゃんも足が速いけど、宇多田のお父さんは元実業団の陸上選手なだけあって、別次元に速い。日本代表にまでもうすぐの所までいったとの噂もある。それに、今でも大学でコーチをしながらトレーニングを続けている。
普通に戦ってお義兄ちゃんが勝てる要素なんかまったく無い。なんでお義兄ちゃんはそんな勝負に必死になっているのだろうか?さすがに本人には言えないけど、恥をかくだけなのに……私には理解が出来ない。
でも、全力でお義兄ちゃんを応援はしますけどね!そして傷ついたお義兄ちゃんを癒すのは私の役目!これだけはハンター安室に譲らないわ!
私は闘志の炎を目に滾らせて、安室さんに視線をやった。それに気づいた安室さんは私にニコッと笑いかけてきた。余裕ですね。
昼休みが終わり、とうとう父兄リレー対決の開始である。父兄参加リレーは赤組、青組、黄色組、緑組、白組の5チームに分かれて行われる。参加希望者をランダムに割り振って、人数が足りないところは先生が参加して埋める。
グラウンドに音楽が流れだし、競技に参加する父兄達が入場してきた。当然お祭り競技なので、皆リラックスした表情で入場していた。……ある二人を除いては……
入場行進が終わり、参加者は所定の位置で待機をした。お義兄ちゃんは赤組。宇多田のお父さんは青組のようだ。リレーは私達の対抗リレーと一緒で、5走者でリレーを行い、アンカー以外は100メートルを走り、アンカーは200メートル(トラック一周)を走るようだ。
当然、距離の長いアンカーには足が速い人が走り、お義兄ちゃんと宇多田のお父さんの二人は当然アンカーを務めていた。
私と綾香と公平の三人はクラスのテントに戻らず、健太お兄ちゃん達と一緒にリレーを観戦する事にした。
待機中、お義兄ちゃんと宇多田のお父さんは何やら会話をしている。
「宇多田さん、転倒には気をつけてくださいよ?もう年なんだから怪我されたらシャレになんないですよ?」
「ハッハッハッ、アンチエイジング!アンチエイジング!デスクワークでだらけている君より、健康的で若い体を維持しているから大丈夫さ!」
この距離では二人の会話は聞き取れないが、お互い貶しあっているのは遠くから見てもよく分かる。なんかオーラみたいなのも微かに見える気がする。
そうこうしているうちに、第一走者がスタート位置についた。もうすぐリレーが始まる。
「位置について、よーい……」 バンッ!!
スタートを告げる銃声がグラウンドに鳴り響いた。リレーが始まった。




