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私と体育祭。⑩

 クラブ対抗騎馬戦が終わり、お昼休憩となった。私と綾香あやか公平こうへい桑田くわた君の四人で、持ってきたお弁当をクラスのテントで食べる。

 私と公平がここ数日喧嘩をしていた為、このいつものメンバーでお昼を一緒に食べるのは久しぶりだ。仲直りをしたばかりなので少し気恥ずかしいが、話しも弾んで楽しくお弁当を食べていた。やっぱり喧嘩は良くないね。楽しくないもん。


「やっぱり皆で食べるご飯は美味しいね!ねっ!桜!」


「はいはい、わかりました!もう喧嘩はしませんよ。……なるべく……」


「雰囲気悪くしてすまなかった。二人とも」


 綾香は私と公平に、言外にもう喧嘩をするなよと伝えてきた。それは公平にもしっかり伝わっているようで、公平は軽く頭を下げて綾香と桑田君に謝罪をする。

 本当にこの二人には心配をおかけした。生徒会長の桑田君。副会長の綾香。二人は体育祭の準備で忙しかっただろうに……

 私は公平が軽く頭を下げた後に、私も「ごめんね」と言いながら頭を下げた。二人は私達の謝罪に何も言わず、笑顔で受け止めてくれた。

 さすが生徒会長と副会長コンビ。人の上に立つ人間は器が大きい。


「そう言えば、今現時点で俺達のクラスは一位だね。このままリレーで良い成績がとれたら学年優勝も夢じゃないね」



 桑田君は現状のクラス順位の報告をしてくれた。そうなのだ、お昼までの種目は中々健闘をし、うちのクラスは学年トップの得点をとっているのだ。

 しかし、倉木くらきさんがいる三組が二位。メスライオン宇多田うただがいる四組は三位で2クラスとも私達のクラスとかなり僅差の得点をとっている。リレーで一位を取れば余裕で逆転が出来る。

 午後からの競技は、父兄参加競技や組体操、女子のダンスなどがある為、クラス別の得点が入る競技は、男女別のクラス選抜リレーのみである。つまり、女子選抜リレーのアンカーである私に凄い責任がのし掛かっているのだ。

  ……あぁ~、私にとって一番嫌な展開(・・・・・・)だ……。これでメスライオン宇多田に負けて、クラス順位が抜かれたらまたメスライオン宇多田に勝ち誇った顔をされる……クラスの皆もガッカリするんだろうなぁ……。

 桑田君は私がリレーを走りたく無い事を知らないので、桑田君に罪は無いが、私は桑田君の現状報告を聞いて気が滅入ってしまった。


「そ、そう言えばお昼休憩が終わったら父兄参加のリレーだよね!桜のお義兄さん、今年もリレーに出るんだよね!」


 綾香は私の気持ちを察したのか、唐突に話題を変えてくれた。本当に綾香は優しくていい子だ。私も綾香みたいな女の子になれたら良かったのに。


「うん!そうだよ!お義兄ちゃん、今年は絶対に勝つんだって張り切ってるの!なんかネット通販で藁人形(・・・)も買っていたし!」


「いや、藁人形て……」


 桑田君は少し困ったような笑顔をして、兄の藁人形についてツッコミを入れてくれた。

 しかし、某大手ネット通販で藁人形が買えたとお義兄ちゃんから聞いた時は、さすがに私も驚いた。しかも「まとめて購入してる人がいます」の欄に、五寸釘が表示されていたみたい。今は呪いの道具もネット通販で揃えちゃう時代なんだね。


「じゃあ、ご飯を食べたらお義兄さんを激励しにいこうよ!久しぶりにお義兄さんに会いたいし!」


「そうだな」


 綾香の提案に、公平が同意した。この二人はお義兄ちゃんと面識がある。両親が死んだ後、私はお義兄ちゃんと綾香と公平の家によくお世話になっており、それがきっかけで家族ぐるみで交流がある。私と綾香と公平は、その時からお義兄ちゃんの事を慕っている。

 私達はご飯を済ませ、お義兄ちゃんと同僚の人達がいる保護者観覧スペースへと向かう。桑田君はお義兄ちゃんとは面識が無く、体育祭の運営の仕事があるみたいで、ここで私達と離れる事になった。


「お義兄ちゃーん!」


 遠くにいるお義兄ちゃんを見付けた私は、大きな声でお義兄ちゃんを呼んだ。それに気づいたお義兄ちゃんは手を振って応えてくれた。

 お義兄ちゃんと同僚の人達はサンドイッチを食べている最中であった。どうもそのサンドイッチは手作りのようだ。……アレ?お義兄ちゃんサンドイッチなんか朝作っていたっけ?


「おっす、咲太兄ちゃん」


「お義兄さん、お久しぶりです」


「よう!綾香ちゃん!元気?公平!騎馬戦面白かったぞ!」


 私達が到着して挨拶を終えると、お義兄ちゃんは新藤しんどうさんと安室あむろさんの紹介を、公平と綾香に始める。健太けんたお兄ちゃんの事は二人とも面識がある。……しかし、今はそんな事はどうだっていい……


「お義兄ちゃん?」


「なんだ、桜?」


「そのサンドイッチどうしたの?朝そんなの作ってましたっけ?」


 私は首を傾げながら、笑顔でお義兄ちゃんに質問した。


「あぁ、安室さんが作ってくれたんだよ!いやぁ~、気が利くよねぇ!それに凄く美味しいんだよこれ」


 は~い!やっぱりそうでした!予想した通りでしたー!!やっぱり安室さんはお義兄ちゃん狙いなのね!胃袋なの?胃袋からお義兄ちゃんを掴みにいってるの!?私が料理をほんの少しだけ苦手なのをいいことに、手作り料理でお義兄ちゃんを狙いにきたのね!ハンターだわ!この女の人はハンターよ!

 私がそのこざかしいサンドイッチを睨んでいると、ハンター安室さんが私に、愛想のいい笑顔でサンドイッチを一つ渡してきた。


「作りすぎちゃったんですよ。桜さん、良かったら食べてくださいませんか?」


「はぁ……じゃあ頂きます」


 ふん!どうやら私の胃袋も掴みにきたようね!しかし、私は毎日お義兄ちゃんの美味しいご飯で胃袋を鍛えられているのよ?そんなお手軽に作れる料理で私の胃袋を掴められると思って?


 ムシャムシャ……ムシャムシャ……


「お、美味しい……」


「ありがとう。桜さん」


 何このサンドイッチ?めちゃくちゃ美味しいんですけど?何これ?ただハムとかレタスとか挟んでるだけじゃないんですけど?

 鶏の照り焼き?とりあえずなんかよく分からないけど、凄く凝って作られたと思われる具が入っている。こんな美味しいサンドイッチ食べた事無いんですけど!


「桜さん」


「……はい」


「まだまだ沢山サンドイッチが余っているので、お友達と食べてくださいね」


「……はい、頂きます」


 私は安室さんにしっかりと胃袋を掴まれた。つ、掴まれたのは胃袋だけなんだからね!決して心までは掴まれてないんですからね!絶対に掴まれてなるものですか!!

 私はそう決意をしながら、サンドイッチを美味しく食べていた。


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