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アミさんとトモさん。

 花火大会が開催されるビーチ付近の駐車場へ車を止め、歩いてビーチまで向かう。ビーチに到着すると既に人が大勢いて、賑わっている様子だ。屋台も沢山出店している。

 そんな光景を目の当たりにした子供達は、目の色を輝かせてワクワクしている様子だった。いや、子供達だけではなく、子供みたいな大人二人も‥‥


「っしゃー!!祭りじゃ!祭りじゃ!」


 川瀬が缶ビール片手にはしゃいでいると、それに呼応するかのように新藤も「うわ!祭りくじがある!子供時代の悔しい思いを大人の材料駆使してリベンジっス!」とか言ってはしゃぎ始めた。

 そんな新藤に健太は「おい、祭りくじは辞めとけ、あれ、メインの当たりは無いから」と冷静にツッコむが、新藤は聞く耳を持たない。


「皆!屋台行くっすよ!先輩方、場所取りヨロシクっす!!」


 新藤が俺達にそう告げると、川瀬と子供達を引き連れて屋台のエリアへと浮き足立たせながら向かうのであった。

 俺達はその光景に一抹の不安を覚えながらも、ブルーシートを脇に抱えてながらビーチへと場所取りに行く。


★☆★☆★☆★


 既にビーチには場所が沢山取られていた。しかし、場所を見つけるのに少しの時間を要したが、なんとか花火大会が始まるまでに場所を確保する事が出来た。

 俺と健太で大きめのブルーシートを広げて敷き、四隅に荷物などを置いてブルーシートを固定する。

 ブルーシートをちゃんと敷き終えると、安室さんとアミさん、トモさんがブルーシートの中に入り、並んで座り始めた。

 

「イイネぇ〜!ここなら花火も大迫力で観戦できそう!」


あんずさん!楽しみッスね!」


 アミさんとトモさんの会話の流れで尋ねられた安室さんは「そうね」と笑顔で返事をした。

 安室さんはアミさんとトモさんの二人とは今回が初対面のようだったが、かなり打ち解けている様子だ。敬語を使っていない安室さんの姿は新鮮だ。

 しかし、そんな新鮮安室さんよりも、俺には気になる事が一つあった。


「ねぇねぇ、アミさん、トモさん」


 俺は二人の横に座って声をかけると、アミさんが代表して「はい?」と返事をする。


「二人も川瀬についていって祭りに行かなくても良かったの?」

 

「どうしてっスか?」


「いや、どうしてというか……」  


 言えない。二人が川瀬の舎弟みたいに見えていたとは言えない。

 俺が気まずそうにしながら言葉を濁していると、トモさんが「ハハハ」と笑いながら、口を開き始めた。


「うちら、別に明日香さんの舎弟とかじゃないですから」


 おろ?考えが読まている……

 続けてトモさんが口を開く。


「確かに明日香さんにはお世話になってるんで、うちらは慕って色々と動いたりしようするんスけど、明日香さんにとっては余計なお世話みたいな感じなんっスよ」


「うちら年下なんで敬語は使いますけど、五分の友達として接してくれてるっていうか、なんか上下関係作るのが嫌みたいな感じなんですよ」


 俺は二人の話を聞いて「へぇ〜」とか言いながら感心した。

 まぁ、川瀬は元ヤンだけど、不良グループみたいなのとはつるんではいなかった。むしろ、そう言ったグループと対立していたみたいである。

 偏見ではあるが、不良グループ内の上下関係は結構厳しいイメージがある。そういったモノが川瀬の肌には合わないのだろう。

 周りから避けずまれた目で見られてきたた川瀬は、もしかしたら潜在的な人間の差別感情みたいなものに敏感なのかもしれない。だから、対立しながらも対等に張り合っていた紫苑と仲良くなれたのかなぁ〜……


「あっ、でも旅行の話があった時、『舎弟二人が旅行に来るからこき使っていいぞ』って、明日香さんが言ってました」


 トモさんがハニカミながらそう告げると、俺はガックリ肩を落とした。舎弟の二人とは、俺と健太の事だろう。

 なんだよ、感心して損した。


「それはそうと桜井さん!」


 肩を落とす俺に、アミさんが思い出したかのように尋ねてきた。俺は「ん?何?」と答えて、手元にあったペットボトルのお茶を口に含み始めた。


「桜井さんって、明日香さんと付きあってるんですか!?」


「ブフォ!!」


 予想外の質問をアミさんから食らった俺は、お茶をむせこんで盛大に吐き出した。

 その光景を見ていた安室さんが「大丈夫ですか!?」と言いながら、少し慌てた様子でハンカチを持って駆けつけてくれた。そして、ゴホゴホむせこむ俺の背中をさすってくれる。

 

 クソッ、どうして二日連続で飲み物を咽こまなきゃならんのだ。しかも、どちらも川瀬との色恋話しで…できます


 背中をしばらくさすられて徐々に回復した俺は、なんとか「えっ、どうして?」となんとか返事をした。


「いや、明日香さん、少し前から桜井さんの話をしてくれる時があるんっスけど、なんだか桜井さんの話をしてる時の明日香さんて凄く嬉しそうなんっスよ……」


 アミさんに続けて、トモさんが口を開く。


「だから、もしかしたら明日香さん、桜井さんの事が好きなのかなと。話しているお二人を見ても……」


 まぁ、昨日の酒盛りで昔惚れていたとは聞かされたけど……あくまで昔の話として……


「しかも、朝まで二人でずっと居たみたいじゃないっすか!!二人で朝までいて何もなかったんですか!?」


 アミさんの言葉を聞いて、背中をさすってくれている安室さんの手がピタリと止まった。

 俺は夏の暑さのせいか、頬に汗をタラリと垂らしながら、「別に……朝まで飲んでただけだよ……。普通に酔いつぶれていたでしょ?」と弁明をした。 

 

「確かにそれはそうなんっすけど、だったらそれは明日香さんが看病するのが筋じゃないっスか。そしたら安室さんが付きっきりで桜井さんの看病してるし……」


 背中から安室さんの「えっ?」という声が聞こえてきた。

 トモさんが真剣な表情で、「お二人って付きあってるんですか?もし、明日香さんが桜井さんの事が好きだったら、そこはハッキリしてあげてほしいというか……すいません、勝手言って…」と、遠慮をみせながらも問い詰めてくる。

 

 ちょっ……地雷踏みすぎでしょ……今の川瀬の気持ちは知らないけど、安室さんの方は最近実質フッているんだって。マジ気まずいんだけど。

 遠巻きにみている健太はニヤニヤしてやがるし。他人事だからと言って、楽しんでやがるな……


 少しそんな健太にイラつきながら、返答に困って黙っていると、アミさんとトモさんの二人は答えを促すように真剣な表情で見つめてくる。

 圧が凄い……まぁ、それ程に川瀬の事が心配なんだろう。川瀬に悲しい想いをしてほしくないから……。二人が川瀬と離れてここに残った理由も、この事が聞きたかったのだろう。

 はぐらかした返答は二人に失礼か。出来れば、この話はしたくないんだけどなぁ……


「あっ、え〜とね……。川瀬から聞いていないかもだけど、俺って去年嫁と死別してるんだ」


 俺の言葉を聞いたアミさんとトモさんの顔が一瞬曇る。二人の反応を見るに、やっぱり俺と紫苑の話は聞いていなかったようだ。


「だから、今誰かとお付き合いするとかはあまり考えてないというか、考えれないというか……。俺は二人の思い過ごしだと思うけど、仮に川瀬が俺の事を好きだったとしても、そういった関係になる事は多分無いよ」  


 話を聞き終えた二人はシュンとした様子で「すいません……」と俺に謝ってきた。


「気にしないで。川瀬の事を心配しているのは分かるし、そういった事情を言わなかった川瀬アイツが悪い」


 俺はそう言って二人を慰めようとしするが、二人は申し訳無さそうな態度を引っ込める様子は無い。

 あぁ〜、やっぱりこんな感じになるよなぁ〜。二人は川瀬の事を思っての事で、悪気が全く無いのは分かっている。二人にそんな態度を取らせるつもりはなかった。

 だけど、紫苑の話を初めて話す時は、何故かいつも気まずい雰囲気になるんだよなぁ……俺も逆の立場ならそうなるのかもしれないけど。

 今でも紫苑の事を時々思い出してはふと悲しくなる事はある。だけど、それも本当に時々の話であって、イチイチ紫苑の話をする度に、そんな気持ちになる訳ではない。

 紫苑との出会いには俺にとって幸福な事だと思っているし、紫苑がいたから桜とも出会えたんだ。紫苑との思い出は楽しい事でいっぱいだ。

 だから、いつも気を使われてしまうのは逆に申し訳無い気持ちになるんだよなぁ……

 まぁ、得てして当人より他人の方が気にするものだろう。


 何にせよ川瀬が悪い。全部川瀬が悪い。アイツがこの世の悪の権化だ。

 アイツが事前に気を使って二人に話をしてくれていたら、こんな気まずい感じにはなってないんだ。この分だと、桜が紫苑の妹だという事も話てないだろう。

 本当にアイツは……一度シメるか……。いや、返り討ちにあって終わりだな。辞めておこう。


 そんな感じで俺が川瀬に対して憎らしく思っていると、遠くの方からその川瀬が「お〜い!!」と大声を出しながらこっちに駆け寄ってくる姿が目に映った。

 何やら慌てている様子だ。何かあったのか?どうせくだらない事だろうけど。

 川瀬が「ハァハァ」と息を切らしながら俺達が座っているブルーシートに辿りついた。俺は川瀬に「何事?」と声をかける。


「はぁ…はぁ…、た、大変なんだよ!」


「大変?新藤が祭りくじで破産したか?」


「はぁ…はぁ…、チ、チゲーよ!むしろ新藤君、一等の最新ゲーム機当ててたよ!」


「えっ、マジかよ……。本当に当たりあるんだ、アレ……」


「10万近く使ってたけど……」


「普通に買った方が全然安いじゃねぇか……」


「そんな事はどうでもいいんだよ!……桜ちゃんと八重ちゃん、こっちの方にきてねえか?」


「ん?来てないけど……」


「マジかよ……。二人ともさっきから全然見当たらなくて、スマホにも電話してんだけど、二人に全然繋がらないんだ!!」


「な、なんだって!?」


 俺が驚いた声を出したと同時に、沖の方からピューという音が聞こえてきた。そして、バン!と大きな音が耳に鳴り響き、綺麗な花火が夜空に舞う。花火大会が始まった。






 

 

 

 


 



 

 

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