桜と公平。
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夕食を食べ終え、俺達はリビングや別室で各々自由に一服していた。時計を確認すると、時間はもうすくで午後の7時を迎えようとしている。
花火大会は7時30分から開始する為、そろそろ此処を発ったほうがよさそうだ。
「よし、そろそろ行くか〜。桜、公平達を呼んできてくれ」
リビングのソファーに座っている俺は、近くにいた桜にそう告げる。公平は夕食を食べ終えるとすぐに、再びコートに戻って練習をはじめていた。
どうやら女バスでキャプテンをしている持田さんも公平の練習に付き合っているようだ。
桜は「分かった」と一言俺に告げて、リビングを後にする。
桜がリビングから離れるのを一緒に見ていた安室さんが、「なんだか桜さん、元気がありませんね」と、俺に話しかけてきた。
「そうですね。まぁ、なんとなく理由は分かるけど」
「理由?桜さん、何かあったんですか?」
「何かあった訳じゃないですけど、多分、公平の為に自分は何も出来なかったとか思ってるんじゃないのかな?最近、家出の件とかで公平の世話になっていた事もあるし」
安室さんは「あぁ、なるほど」と言って、軽く頷いた。安室さんは公平の試合の件で、桜から相談を受けていた。公平を心配する桜の気持ちは理解していたので、今の話もすんなり飲み込めたのだろう。
「今回は公平が自分自身で向き合わないといけない事なんで、桜を含め他人がとやかく出来る問題ではないんですけどね」
「そうですね。でも、それを分かった上で桜さんは公平さんの力になりたいんでしょう」
「公平からしたら、桜が応援してくれるだけで十分だと思うんだけどね」
しばらくして、桜かリビングへと戻ってきた。しかし、近くに公平と持田さんの姿は見えない。少しションボリした様子の桜に、「公平は?」とあえて尋ねてみた。
「公平、花火大会行かないって。このまま持田さんと練習してるって」
「そうか……」
「お義兄ちゃん。公平、楽しそうに持田さんとバスケしてたよ。多分、もう元気みたい」
桜は笑顔を見せてそう言ったが、何処かその姿は寂しそうにも見えた。
「……桜さん、大丈夫ですか。お腹が痛いんですか?」
安室さんが桜へ言葉を投げかける。俺も気になっていたのだが、桜はリビングへ戻るなり、お腹に手を当てていた。
指摘をされた桜は「えっ?」と言って、少し戸惑った表情を見せたが、再び取り繕うようにして笑顔を作った。
「あ〜、痛いって程でも無いんですけど、少しご飯を食べすぎたみたいで」
「大丈夫ですか?」
「はい!……でもゴメンなさい。少しトイレに言ってきます……」
桜はそう言ってリビングから離れ、お腹を抑えながらトイレの方へと向かっていった。
そんな桜の姿を見た安室さんは、心配そうな表情を浮かべながら「大丈夫でしょうか……」と呟くように話しかけてきた。
「まぁ……大丈夫だと思うけど。公平が元気になった事は、桜にとっても良いことだし……」
「桜さん、お腹を抑えていました。ご飯を食べすぎていたと仰ってましたけど、本当なのでしょうか?思い悩んで胃痛を患っているとか……」
「確かに、悩みを内に秘めるタイプだから……。だけど、今はその心配はないと思うけど」
「えっ?どうしてですか?」
「晩飯のオカズが美味しかったのか、アイツ、メッチャ食べてましたからね。ご飯もおかわりして4杯も食べてたし」
「4杯も……普通に食べすぎじゃないですか……」
「はい、普通に食べすぎです」
時折、桜はご飯を食べすぎてお腹を下す事がある。今日の晩飯は、桜の大好きな唐揚げだ。揚げ物をオカズにご飯を4杯も食べたら、そりゃあお腹も痛くなるよ。
まぁ、そんだけ飯を食えていたら、桜の方も心配する事はないだろう。




