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公平と新藤。②

◇◆◇◆◇◆◇◆


 庭にあるテニスコートの片隅に設置されたバスケのリング。そこからダムダムというバスケットボールをドリブルする音が暫く鳴り響いていた。

 一軒家でたまにバスケのリングを設置している家を見かけるが、そのリングでバスケをしている人は見たことがない。多分、あのダムダムした音が近所迷惑になって、リングを使う事が出来なかったんだろう。

 だけど、この田舎の別荘でなら、そんなに気にする事もない。夜が深くなれば流石に迷惑かもしれないが。

 そんな事を考えながら、安室さんや健人、川瀬の友達であるアミさんやトモさんと共に皆の晩飯を作っていた。

 アミさんとトモさんは以外にも手際よく動いてくれいて、どうやら普段から料理をしているようだ。川瀬は当然邪魔になるので、リビングで酒盛りをさせている。公平以外の子供達は二階で受験勉強中だ。


「よし、そろそろアイツらを呼んでくるか……。すいません、後はお願いできますか?」


 俺が安室さんにそう告げると、安室さんは「はい、大丈夫です」と2つ返事で了承してくれた。アミさんとトモさんも「いってらぁ〜す」とか言いながら手を振っている。

 時間はもうすぐ午後の6時だ。公平と新藤は一時間以上ずっと1on1をしている。晩飯ももうすぐ出来上がるし、花火大会をに行くことを考えたら、そろそろ終わってもいい頃合いだろう。

 俺はキッチンを後にしてリビングを通り、ベランダを抜けてリングのあるテニスコートへと向かおうとした。

 リビングでは川瀬が一升瓶を抱えてる大股を開き、ソファーでイビキをかきながら寝ている様子だった。しかし、どうでも良かったので、俺は一瞥する事なく無視して通りすぎた。

 サンダルを履いてリンク付近に到着すると、公平と新藤以外に、二人の1on1を見つめている二人の人影を見つけた。一人は我が義妹の桜。もう一人は桜の友達の持田さんだ。

 桜は三角座りをしながら、持田さんは手を後ろで組みながら立って二人の1on1を眺めている。

 俺は後ろから二人に「勉強は大丈夫なの?」と笑顔で声をかけた。


「あっ、お義兄ちゃん……。だって、ボールをダムダムする音がうるさくて勉強に集中できなんだもん。文句を言いにきたんだけど、二人とも真剣だから声かけずらくて」

 

 桜は頬を少し膨らまし、不服そうに言ってはいるが、本当は公平の事が気になって様子を見にきたのだろう。うむ、デレデレな義妹もいいが、ツンデレな義妹も中々オツなものだな。

 持田さんは「私は高校でもバスケをするつもりなんで、勉強の為に見学させてもらってます」と、桜とは別の理由を答えてくれた。

 俺は以前桜から持田さんの公平に対する気持ちをチンコロされている。故に持田さんも別に理由があって二人の1on1を眺めているのはバレバレなんですけどね。


「そうか。でも、もう晩飯が出来上がるから、二人もそろそろリビングに戻ってよ。あの二人には俺から声をかけるから」


 俺が二人にそう告げると、桜は「は〜い」と、持田さんは「分かりました」と返事をして、リビングへと戻っていった。

 二人が戻っていくのを確認した俺は、1on1に興じる二人に目を向け、声をかけた。


「お〜い!二人とも!晩飯にするからそろそろ切り上げろよー!」


 声をかけられた二人は動きをピタッと止め、不思議そうな顔をしてこちらを目を向けてきた。

 どうやら声をかけられるまで俺の存在にきがついていなかったみたいだ。それ程に集中していたのだろう。


「はぁ…はぁ…。桜井先輩!リョーカイッス!……。じゃあ、公平君。もう終わりにしようか」


「はぁ…はぁ…。ウッス。……ありがとうございました!」


 公平はバスケットボール両手に持ち、頭を下げて公平に礼をした。二人とも息を切らしながら大量の汗をかいている。

 俺は踵を返し、建物の中へ戻ろうとした。新藤も後をついてくる。しかし……


「ごめん。咲太兄ちゃん。俺、もう少しシュート練習してから戻るってもいい?」


 公平はどうやら別荘へとすぐに戻る気はないみたいだ。


「……たく。あんま遅くなるなよ?本当にすぐ晩飯にするから」


 俺が公平にそう告げると「わかった」と返事をして公平はシュート練習を始めた。

 俺と新藤は公平を置いて建物へと足を進める。そして、その道中に俺は新藤へとある質問を投げかけた。


「なぁ、新藤」


「なんスか?先輩?」


「どうだった公平は?」


 俺のアバウトな質問をくみ取った新藤は、服で汗を拭いながら珍しく真剣な顔をして質問に答えた。


「まぁ、結果ボコボコにはしてやりましたけどね。現役は辞めましたが、流石に中坊には負けてられないっス」


「おいおい。本当に全力でやったのか?中学生相手に?少しは手加減してやれよ」


「先輩……何言ってんスか?手加減してたら逆にこっちが喰われてましたよ…」


「エッ?」


 新藤の言葉に俺は驚いた。新藤は去年まで大学のトップレベルでプレイをしていた選手だ。現役を退いたとはいえ、それ程の月日は経っていない。

 そんな新藤相手に中学生の公平が?


「おいおい、それは言い過ぎだろ?」


「言い過ぎじゃないっス。1on1のスコア的には俺の圧勝ですし、最初は公平君、俺の動きについてこれてなかったんスけど、だんだん俺に喰らいついてこれよようになってきて……」


 新藤の真剣な眼差しから、それが公平に対するお世辞によるものでは無いことが分かった。


「マジかよ……」


「そりゃあ、言っても今の公平君と俺とじゃ明確に力の差はまだ(・・)ありますよ?……でも、このままいけば……」


「そんなに?」  


「身長もこれからまだ伸びるでしょうし、手も身長と比べて長い。そしてあのキレッキレのクロスオーバー……。まだまだスキル面で甘い所があるので、これからの努力次第ですけど、このままファジカルも成長していけば……公平君、化けますよ…。公平君、この1on1でも何かを掴んだっぽいですしね」


 確かに、新藤に1on1を申し込んでた時と今とじゃ何処か顔つきが違ってていたように見えた。自信を取り戻したのか?

 新藤の言う何が掴んだの何かとは、ドロップアウトをした俺なんかでは皆目検討もつかない。その掴んだ何かを感触的なモノを忘れたくなかったから、リングへ残ったのか?

 真相は公平にしか分からない。だけど、新藤にここまで言わせるなんて只事じゃない。凄いよ、公平!

 俺は公平が成長の兆しを見せている事に、まるで自分の事のように胸を踊らせながら、ベランダからリビングへと入っていった。



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