私と体育祭。④
私達三人はこのまま一緒に登校する事にした。稲葉君は登校している最中は特にリレーの話をする事は無く、流行りのYouTuberやドラマの話などで盛り上がっていた。
私と綾香と稲葉君、三人の組み合わせで話す事は普段無いが、稲葉君が会話をリードしてくれて会話が途切れる事が無い。稲葉君のコミュ力は凄いなぁ。綾香にしか話していない悩みも見抜かれちゃうし、こういう子が大物?みたいな感じになるのかな?
「浜崎さんと西城さんはよく一緒にいるよね?二人は幼馴染みなんだよね?」
「そうだよ!」
稲葉君が世間話し的な話の内容から、私達の二人の関係の話に話題を変えた。打ち解けはじめてから軽いプライベートな話しに上手く変えるあたりも、稲葉君のコミュ力がなせる会話術なんだろうなぁ。距離感の詰められ方に嫌な感じがしない。
「もう一人私達の幼馴染みがいるよ」
「まぁ、一応ね」
綾香が私が答えた質問の答えに補足を入れる。それに私は笑いながら適当に返事をする。
「松本の事だよね」
「うん」
稲葉君の答えに、綾香が正解だと告げる。私と綾香の幼馴染みの名前は松本 公平。幼稚園時代からの幼馴染みの男の子だ。綾香と公平とは家族ぐるみで付き合いがあり、お父さんとお母さんが死んだ時は凄くお世話になった。
お姉ちゃんは私の為に大学を辞めて働いていたのだけど、お姉ちゃんが仕事で遅くなる事がよくあった。その時は、お義兄ちゃんか綾香か公平の家にお邪魔していた。
そういった事もあり、綾香と公平は数少ないなんでも言える間柄である。私達三人はいつも一緒だった。
「まぁ、綾香は親友だけど公平とは腐れ縁というか、ケンカ友達かな?」
私はおどけた表情を作って皮肉を言った。公平とはしょっちゅうケンカをしては仲直りを繰り返している。まぁ、ケンカの原因はほとんどアイツなんだけど。なんかたまに訳の分からない事で突っかかってくるのよね…
「そう。本当に仲がいいんだね」
私の公平への皮肉を込めた説明に、稲葉君は少し困ったような笑顔で答えた。なんでそんな表情になるんだろ?私何か変な事を言ったかな?
少し首を傾げて考えていると、そうこうしている内に学校に到着していた。
まだグラウンドには部活の朝練をしている生徒がおり、活気に満ちている。
「…アレ?」
グラウンドには陸上部も朝練をしている姿があった。
おかしい。稲葉君は陸上部は今日朝練は無いと言っていた。なのになんで陸上部が練習してるの?部活としては休みだけど、個人練習をしている人がいるのかな?その割には練習している人数は多めというか、普段通りの練習風景に見えるけど…
私は取り敢えず疑問の目を稲葉君に向けた。
「あぁ、陸上部は朝練休みじゃないんだよ。俺が個人的に休みなんだ」
私の疑問の目に気づいた稲葉君が、白い歯を見せながら笑顔で答えた。
稲葉君、怪我でもしているのかな?そんな感じには見えないけど?ってか、普通にサボりなんじゃ?
「コラー!!稲葉!!こっちにコイ!」
「あっ、ヤベ!」
グランドの隅から稲葉君を見つけた陸上部の顧問の山田先生が、稲葉君に向かって怒声を浴びせる。それに反応した稲葉君はすぐさまダッシュで逃げるように校舎へと向かっていった。やっぱりサボりなんだ。
「じゃあ二人とも!教室で!」
稲葉君は凄い足の速さで校舎へと姿を消した。てか、速すぎ。あの速さじゃ流石の陸上部の顧問も追い付けないだろうなぁ~。でも、今逃げてもどうせ放課後に部活で怒られるんじゃ?
しかし、部活をサボった理由が私に朝会いにきてくれる為なら、本当に申し訳ないな。稲葉君は本当にいい人だ。
今度お詫びに何かプレゼントでもしようかな?……そうだ!手作りのクッキーをあげよう!クッキーなんて作った事は無いけど、きっと大丈夫!!うん!そうしよう!
「……ん!?」
私が心の中で一つの決心をしていると、グランドの何処からか視線を感じた。その視線の方に目をやると、恐らく女子クラス選抜リレーでアンカー対決をする、学年で一番速いであろう女子の宇多田さんがこっちを見ていた。
その目は鋭く、まるで獲物を狙うメスライオンのようである。あれ?じゃあ私は狙われる鹿か何かかな?早く逃げなきゃ。
「なんか宇多田さんが怖い顔でこっち見てるね」
「うん。そうだね」
綾香も宇多田さんの視線に気づいたみたい。なんで、私にこの時期にいつも突っかかってくるのだろう?本当に意味が分からない。私はお義兄ちゃんに甘える時以外は、誰にも迷惑をかけないで生きているつもりなのに、そんな私が意味もなく突っかかられる謂れは無い。
ってか、毎年リレーで私は負けてるんだから、本当にこの時期になったら突っかかってくるの止めてほしい。もうこっちは足の速さでは勝つ気は無いの!
まぁ、テストの点数は私の圧勝だけどね!!
「関わってもろくな事がないと思うの。いきましょ綾香。」
「う、うん」
獲物の鹿である私達は、メスライオン宇多田さんの視線を無視し、適度に距離を取りつつ校舎の中に入っていった。
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