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浅倉さん家のみ◯みちゃんより、桜井さん家の桜ちゃん。

 ◇◆◇◆◇◆◇


 ペチペチ、ペチペチ


「……ん……んぅ……」


 ペチペチ、ペチペチ


「んぅ……、なんだよ……」


「起きないさい!公平」


「ウギャ!!」


 頬をペチペチ叩かれ、目を覚ましてみたら、母さんの寝起きスッピンフェイスが目の前に降臨していた。

 俺はそれにビックリして慌てて飛び起きる。


「何よ……その反応は」


 母さんはそんな俺の反応に不服そうだ。


「いや……悪い夢を見ていただけなんで気にしないでください」


 俺は適当に言い訳をすませると、辺りを見渡して現状確認をする。

 どうやら俺はDVDを観たままテーブルに突っ伏して寝ていたようだ。肩に毛布がかけられていた形跡もある。おそらく母さんがかけてくれたのだろう。

 時計の針は朝の5時30分を指していた。


「起こしてくれたのはありがとうだけど、起こすの早くね?もう少し時間があるよ?」


「あんた、昨日試合から帰ってから風呂入ってないだろ?」


「えっ?」


「臭うよ。湯を沸かしてあるから、家を出る前にゆっくり風呂に浸かりな」


「思春期のデリケートな時期なんですから、臭うとか母親が言わないでくれますか!?」


 確かに、昨日は家に帰ってから風呂に入った記憶が無い。俺は母さんに勢いよくツッコミをいれた後、自分の体臭を気にしながは浴室へと向かった。

 湯船につかり肌をこすり、昨日までの愚かな自分を洗い流すかのように垢を落としていく。

 今日の試合は、昨日までの気持ちで挑んではいけない事を、今の俺は知っている。

 風呂を出て、リビングへと向かうと母さんの姿は無かった。おそらく寝室へ二度寝をしに行ったと思われる。

 テーブルには朝食が用意されている。カツサンドとコーヒーだ。昨晩の豚カツもそうだが、カツ(・・)勝つ(・・)で母さんなりに願掛けをしてくれたのだろう。


「……ったく、これだからオバサンは……。こんな事で勝つなら苦労はしないよ……」


 俺はぶつくさと文句を言いながらも、カツサンドを一口頬張る。モグモグとカツサンドを噛み締めている間、何故だか自然と口角が上がろうとしていた。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 朝食を食べ終わり、ゆっくりと自室で準備を行っていると、時計の針は朝の7時を指していた。7時30分に駅で集合なので、家を出るにはそろそろいい頃合いだ。


「……行くか」


 自分に言い聞かせるように一言呟き、俺は自室を出て玄関へと向かった。

 昨日、試合会場へ行く為にこの部屋を出た際は、何故だか足が重たく感じていた。しかし、今日は寧ろいつもより軽く感じる。いいプレーが出来そうだ。

 そんな事を思いながら玄関へ到着し、靴を履いた俺はドアノブに手をかけた。


 ガチャ


 ドアノブを回し、ゆっくりと扉を開く。すると、扉の先には予想外の光景が俺の視界へと映し出された。






「おはよう、公平」






 扉を開けた先には、玄関先で両手を後ろに回して立っているさくらの姿があった。桜は太陽の光に照らされてキラキラと輝いているように見える。それはまるで後光がさしているようで……天使ですか?

 俺はその光景に目を丸くして静止してしまう。


「……どうしたの?公平?」


「えっ、いや、……どうしたんだよ?こんな朝早くに……」


 まさか、応援に来てくれるのか?いや、それは無い。桜は咲太さくた兄ちゃんがせっかく行かせてくれている夏期講習を休むような子では無い。

 当然の事だが、桜はしっかりと自分の中にある優先順位をしっかり守る子だ。

 咲太兄ちゃんと俺なら、当然咲太兄ちゃんを優先する。悲しい事実だ……。


「え~っとね……公平に渡したいものがあって……」


 桜は少しモジモジとした様子で、俺の質問に答えてくれた。


「渡したいもの?」


「うん、これなんだけど……」


 そう言って桜は後ろに回していた手を俺に手のひらを見せる形で差し出した。手の上には何か小さな白い布の袋みたいな物が置いてある。……なんだコレ?


「……え~っと、何かな?コレ?」


 俺の質問に、桜は小さな声で「……お守り」と呟いた。


「お守り?」


「……そう、お守り」


 よく見たら、小さな布の袋には文字みたいな刺繍?が入っており、『必勝祈願』と書いてあるように見えなくもない。しかし、布袋も刺繍もガタガタであり、そう言われたらそう見えなくもないが、言われてみないと本当に気づかないレベルだ。

 こんなモノが市場に流通してるはずないし、ましてや神社になんて……まさか……


「桜さん?このお守りって、まさか桜さんの手作りですか?」


 桜さんは耳を赤くし、コクコクと二回頷いて肯定した。


「家庭科の成績が2で、料理と同じく裁縫も苦手な桜さんが?」


「何よ……文句ある」


 桜は顎を引き、上目づかいで俺を睨む。


「いや……文句とかは無いけど……」


 俺は桜の手に置かれたお守りを手に取り、まじまじと眺める。


「不恰好でしょ……。作り方を教えて(・・・)もらったんだけど、中々上手い事出来なくて……。何回も作り直してそれが一番マシに出来たんだ……」


「何回も……」


 この出来が一番いい出来なら、他に作ったお守りはどんな出来なんだ?いや、そんな事よりも……


「どうして……お守りなんて……」


 俺のつたない言葉で放たれた疑問に、少し下を向いていた桜はしっかりと俺の顔を真っ直ぐ見て、胸をはり、はっきりと力強く質問に答えてくれた。


「応援したかったから。公平の力になりたかったから」


 先程のモジモジした姿とは打って変わって、力強く答えてくれた桜の姿に俺の胸は高鳴った。

 ドキ、ドキ、と心臓の鼓動がはっきりと聞こえてきた。落ち着け、俺。

 桜は一旦間を置いてから、言葉を続けた。


「……ごめんね。そんな事を言うなら夏期講習を休んで応援に行けって話なんだけど……私にはそれは出来ない」


「うん……分かっているよ」


「でも……、本当は公平の応援にも行きたいの……。私に応援を頼んだ時の公平……凄く弱気な顔をしていた。いつも私を助けてくれる公平が……。あの図々しい公平が、他人に助けを求めるほどに弱っているのに……なのに……私はそんな公平の応援を断ってしまって……」


「桜……」


 桜の顔が辛そうに歪んでいく。……俺は好きな子になんて想いをさせてしまったんだ……。

 齋藤や部員達に対してもそうだけど、俺って本当に最低な人間だな。つくづく思い知らせされてしまう。

 しかし桜さん、図々しいは余計だよ?


「ごめんね……公平。こんな不恰好なお守りで何になるのよって話だよね……ハハハ」


「いや、そんな事ないよ?」


「えっ?」


 俺は肩にぶら下げていたダッフルバッグを地面におろし、バッグの金具部分に桜が作ってくれたお守りから伸びている紐をくくりつけた。

 そして、再びカバンを肩にぶら下げる。


「桜、ありがとう。凄く元気とやる気が出たよ!」


 俺は桜に満面の笑みを見せてそう言った。


「公平……」


 桜は張りつめていた糸が緩んだのか、安堵をしたかのような表情を俺に見せてくれた。

 元気とやる気が出た。これは俺の嘘偽りの無い本心だ。桜が俺の事を想い、悩み、俺の為に苦手な裁縫に挑戦をしてこのお守りを作ってくれたのだ。

 嬉しくないはずが無い。今までにないくらいにモチベーションが上がっている。あぁ……俺って本当にチョロすぎる……


「ありがとうな、桜。絶対に、今日の試合勝つな」


 俺の言葉に、桜は満面の笑みで「うん!」と言ってくれた。

 本当にありがとう……桜……。


「ねぇ、公平?全国大会はいつなの?」


「へっ?……23日から25日までだけど?」


「その日は講習が無いから!絶対に応援に行くから!絶対に今日の試合に勝ってね!」


 桜は俺に詰めより、圧をかけながらそう言ってきた。俺はそれに少しだじろぐ。


「お、おう。ありがとう」


「だからね……」


「だから?……」


「桜を全国大会へ連れていって」


 桜はぶりっ子口調でそう言った。


「何処かで聞いた事あるフレーズだな。君は浅倉さんのみ◯みちゃんですか?」


 往年の名フレーズが飛びかっちゃいました。いや、俺もみ◯みちゃんは好きですよ?ぶっちゃけ今のセリフに俺は内心クラッとは来てますけど……。


「桜……誰の入れ知恵だ?」


「お義兄ちゃん。このセリフを言ったら公平が喜ぶからって……」


「やっぱり……」


 咲太兄ちゃんめ……いらん事を……。クラッときすぎて試合所では無くなってしまう所だったじゃないか。

 おたくの義妹さんはみ◯みちゃんに負けないくらいの天然小悪魔幼馴染みなんですからね!少なくとも俺の中では!

 まぁ、昨日のDVDといい、咲太兄ちゃんも俺の事を心配してくれているんだなぁ……。しっかりしないと。


「桜、そろそろ行かないと時間が間に合わなくなってしまうから……」


「うん!頑張ってね!公平!」


「ありがとう、絶対勝つから……」


 俺は桜と別れ、集合場所である駅へと歩を進めた。後ろは振り返っていないので確かな事は分からないが、おそらく桜は俺の姿が見えなくなるまで見送ってくれている気がする。

 モチベーションは最高潮。今の俺に怖いものなど何も無い。


 ブー、ブー、


「ん?」


 ズボンのポケットに入れていたスマホが振動した。取り出して確認をしていると、母さんからメッセージが届いている。一体なんだろう?


(朝っぱらから玄関先でイチャついてるんじゃないわよ(# ゜Д゜))


「母さんめ……二階の窓から覗いていやがったな……」


 俺のモチベーションが2下がった。


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