1「Omen ~前兆~ 」
よろしくお願いします。
これから頑張りたいと思いますので、
是非、楽しんでください。
陽炎が見えた夜、
屍を踏みしめながら 歩く ただ歩く 手の鳴る方へと……
脳内に 忘れかけていた一輪の花が
枯れ果てるのが見え、悲しく思った。
惨めったらしくも、血塗れの愚者に成り果て
堕ちて行く姿を狂ったように笑う 私が見つめてくる。
そんな、儚い夢を見た……
1
『朝です。起きてください』
そんな無機質な音声をAIが彼女の耳に届ける。
「…………」
彼女は無言で上体を起こすと、淡々とした口調でAIに話しかける。
「今、何時?」
『今ですか? …… 今は7時30分35秒です』
「そう」
そんな短い会話を交わしたあと、彼女はベッドから立ち上がり部屋を出る。AIは彼女のスマートフォンから音声を発信しているため、移動中も話しかけてくる。
彼女は短く相槌を打ちながら、リビングへと続く階段を降りて行った。
2
リビングに着くと、"Cooking Machine"所謂自動で料理を作ってくれる機械が置いてある。
最初こそ彼女は驚いたが、ここに住み始めてからずっと存在しているので、もう驚くことはない。
その機械にはスマートフォンを装着できる場所があって、装着するとAIと連動する。そういう仕組みである。
彼女は手を洗うために台所に向かう。
『今日の朝食は何にしましょうか?』
「なんでもいい」
『そうですか。では、エッグベネディクトにしましょう。では、作りますので、暫くお待ちください』
「お願い」
彼女はそう返事をすると、ソファーに座りテレビをただ何も考えずに見つめる。
《今日の占い!! 第1位は射手座の貴方!! 何か人生を変える大きな出来事が起きるかも !? いいことであるか? そうでないか? は起こってからのお楽しみ!! それでは、ばいあさ〜!! 》
"ばいあさ〜" という独特な響きの挨拶を最後にただ見ていた番組が終わる。
"ばいあさ〜" とは、さよならまた明日の朝〜という意味だと彼女は思う。そう思いながら、テレビのチャンネルを変える。すると、或るニュースが放映されていた。
彼女はただじっとそのニュースを映す画面を見つめる。
《今日のニュースです。ただいま、ケビン・ルー氏によって発案されていた"宇宙エレベーター"が無事に完成しました。……この発明により世界は新たな進歩を遂げることができるでしょう。今後ともケビン・ルー氏からは目が離せませんね!!》
そう高らかにアナウンサーが言ったところで彼女はテレビの電源を切った。
彼女の目に一瞬、翳りがさす。その理由は世界の進歩を冷めたような気持ちで観ているからというのが一番、的を射ているのだろう。
そんな、彼女の気持ちに気づく存在はこの場に誰一人として存在しない。
3
エッグベネディクトを食べ終わると、自分の部屋に戻り制服に着替える。
『着替え終わりましたか?』
「終わった」
『それでは、行きましょうか』
「わかった」
と、簡潔に返事をすると、玄関へと向かった。そして、靴を履き扉を開け外に出る。
彼女は外に出て一歩を踏み出した時ふと、空を見上げる。すると、彼女の目に"空を飛ぶ車"や"リニアモーターカー"が映る。
彼女はこの見飽きた科学の進歩の所為で今朝のニュースを見ても心は冷めていくだけだったのである。
そんな憂鬱な気持ちを彼女は振り払って学校に行く。そうして、ただ平凡な日常が始まる。
4
いつもの通学路を歩いていると、後ろから甘ったるい声が聞こえてくる。
「待って〜!! 」
彼女は立ち止まらずに歩き続ける。そんな彼女に声の主は大きな声を出す。
「待って〜〜って言ってるでしょ〜!! 」
これ以上、目立たないようにするため、彼女は立ち止まり振り返る。
「やっと、止まってくれたわね」
「…………」
「学校! 一緒に行くわよ」
彼女は無言のまま頷くと、彼女にとって一番の理解者である少女と歩き始めた。
少女の名前は美弥代 美香。容姿は茶髪で、ロングストレート。服装は当然ながら、制服。
「花蓮!! 今日は球技大会よね?」
花蓮とは彼女の名前でフルネームは有崎 花蓮。容姿は黒髪で、短髪。黒眼。服装は当然ながら、制服。
「そうだけど」
「競技、何を選んだの?」
「…………補欠」
「え~~!! 補欠!?」
ありえないと言った顔をしながら、美香は有崎にそう言った。そう言ったきり、美香は何も言わず、有崎の先を歩いて行った。
そんな美香を有崎は見つめながら、歩いていると、スマートフォンから『不機嫌になってしまいましたね。美香さん。何か声をかけなくてもよろしいのですか?』と、話しかけられる。
「大丈夫」
有崎はAIからの問いにそう答えると、美香のあとを追っていった。
5
美香に追いつくと、彼女は一点を見つめて立ち止まっていた。美香の視線を辿ると、有崎の目に見るだけで嫌悪感を与える"怪物"が映る。禍々しい漆黒の身体。人間を容易く殺せるだろう大剣を有する化物。
そんな印象を受けるが、その"怪物"は有崎達と同じ人間の姿をしていた。
有崎達が見つめていると、その視線に気づいたのか"怪物"が彼女達に顔を向ける。そして、話し始めた。
「なんだ? てめぇら。何、見てやがる」
心臓を抉られるかのような声音で話す"怪物"はただそう言った。
有崎は怖いはずなのに、冷静な自分の頭を回転させて美香に視線を向ける。
有崎は逃げて。と、視線で訴える。美香はその有崎の視線の意味を理解できたのだろう。走って学校の方に逃げていく。
有崎は美香を見届けると、"怪物"に問う。
「貴方は何?」
「あぁ? なんだっていいだろ。話しかけんな! 殺すぞ!」
「……殺すと言われても、貴方が勝手に話しかけてきたよね」
「チッ!! うるせぇー! 俺に気安く話しかけてくんなっつってんだろ。うぜぇー!!」
心底、ムカつくといった表情で"怪物"は言った。
有崎は普通に話せるんだな。この良くわからない"怪物"。と、思うのだった。
その思考を読んだかのように"怪物"が話し始める。
「てめぇ、この俺を舐めてやがんな? 俺は舐められんのが大嫌いなんだ! ……だから、死ね!!」
その言葉を言った直後、"怪物"は大剣を有崎目がけて振りかざす。だが、その大剣は彼女を切り刻むことはなかった。
何故、できなかったのか簡単に説明すると、有崎の眼が漆黒の炎を纏っていたからだ。
"怪物"はこの力に抗えなかったのだ。有崎は無意識にその力を使っているため、自分の眼に漆黒の炎が灯っているなど知らない。
有崎のこの力は、まだ何一つ解明されていない異能である。そして、生まれた時から内に秘めている。解明されるかも謎のままであった。
その力を目にした"怪物"は言う。
「…………今度、逢ったら次こそはてめぇの身体を切り刻んでやる!!」
その言葉を言い終わると、"怪物"は姿を消した。
有崎は嵐のような静けさを感じながら、通学路を進んだ。そして、学校の門の前に到着すると、美香がいた。
美香は有崎を視界に捉えると、全速力で彼女に走り寄って抱きついた。
「良かった〜〜! 無事だった。心配したわよ! 馬鹿〜〜!!」
「ごめん。美香」
有崎は美香を宥めると、彼女の肩越しに空を見上げる。あの出来事が嘘のように空は透き通る青色だった。
6
美香と別れたあと、有崎は登校中に遭遇した"怪物"は一体なんだったのか考えながら、自分の教室に向かう。
到着し教室に入ると、楽し気に和気藹々としているクラスメイト達がいる。
有崎はそんな彼らに混ざることなく席に座る。有崎はあまり馴れ合うことが好きではないのである。
だが、そんな有崎に話しかける少女がいた。
「有崎さん!! これ!! …… きてくださいね」
「えっ、?」
有崎は訳もわからないまま、その少女に紙切れを渡される。紙切れには"屋上で待つ" と書かれていた。
そうして、時間は流れ、放課後になる。
有崎は屋上へと向かった。この時の有崎は思ってもいなかった。テレビで言っていた占いが自分の身に起こることを。