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ケルツェ山への強行軍

 第二王妃様についての話しを聞いた数日後、再びレーヴェレンツ邸を訪れたアルドリック様から第二王妃様がケルツェ温泉を訪れる日程を教えて貰った。

 アルドリック様は温泉の素についても話してくれたらしいが、第二王妃様はそれでもケルツェ温泉に向かうようだ。


 秘密裏にとはいえ予め私に話が通された以上、前回アルドリック様が訪れた時のように何の持て成しもしないわけにはいかない。

 アルドリック様と第二王妃様の二人を持て成すなんて大変な事になりそうだ、と思っていたがアルドリック様は来ないらしい。


 なんでも第二王妃様が留守の間実務の穴埋めをするのだそうだ。時期からしてレーヴェレンツ家に来る事も難しい期間なので丁度いいが責任重大で不安でもあるのだと、少し誇らしげな顔で困ったようにアルドリック様が教えてくれた。

 おそらくは将来の為の練習も兼ねているのだろう、いきなり実践なんてスパルタなようにも感じるが今のアルドリック様ならきっと従者と力を合わせれば乗り越えられるだろう。


 そう考えたところで、もしかしたらお父様が私に事業を好きなようにやれと言ったのも似たようなものだろうかと思い至った。私の元にはリッサがいるので、十分にこなせると見込んで任せてくれたのだろうか。

 うっかりアルドリック様の前で思考の海に沈みそうになったが、どちらにせよ私がやる事に変わりはない。好きにしろと言われた通り私の好きにして、期待されていたとしてもそれに十分応える程の成果を出して見せる。



 アルドリック様が夕方に帰宅した後、私はすぐにリッサと二人で部屋に籠って相談をした。アルドリック様が人払いをして話した内容である以上情報を広めるわけにはいかないが、リッサにはぼかさずに話しておかなければならない。

 私一人では第二王妃様を持て成す手配に不備があっても気付くことが出来ない可能性が高いのだから。


「そういうわけで、滞在中は王族相手に失礼の無いよう手配をして欲しいのだけれど、お願いできるかしら」

「かしこまりました。ケルツェ温泉は宿泊施設などに関しましては、お嬢様や旦那様が訪れた際に不自由無く過ごせるよう想定しております、問題無いでしょう」


 私がハーブティーを飲みつつリッサにあらましを話すとリッサはそう頼もしく返してくれた。王族と公爵家ではかなり差があるのではないかとも思うが、僻地で用意出来る中の最上という意味でそう大きな違いを持たせられない。


「後は食事や接待かしら。第二王妃様も自分の従者を連れてくるでしょうから、食事に気を遣えば問題ない気もするけれど」

「はい、ケルツェ温泉で働くものにも最低限必要な作法は教育しております。既に数ヶ月経った今では不作法も少ないでしょう。……食事に関しても、こちらでの食事を中心に組み立てれば第二王妃様相手にも不敬にはならないかと」


 リッサは少し考えつつそう答える。それならば特に問題となるような事はなさそうだと私は少しほっとしたが、リッサは少し悩むように目を伏せて言葉を続けた。


「問題はお嬢様がケルツェ温泉へと向かう方法と、第二王妃様との話題などですが……」

「私もケルツェ温泉に行くの? どうして?」


 思わず目を瞬いて聞き返してしまった、私は今回ケルツェ温泉まで行くつもりなんて微塵も無かったのだ。むしろ第二王妃様がゆっくり過ごす為にケルツェ温泉に行くというのに、私がくっついていく理由が分からない。

 そんな私に対して、リッサは逆に驚いたように表情を固めてこちらを見た。リッサに慣れていないときっとこれが驚いた顔だとは分からないだろうが、これは驚いた顔、いや、もしくは呆れている顔かも知れない。


「多忙の為会う事すら難しい第二王妃様と知己を得る折角の機会だというのに、お嬢様はそれをふいになさるおつもりですか?」


 もっともなリッサの言葉に私はぐうの音も出ない、私の立場から考えれば確かに第二王妃様と顔見知りになっておくに越したことは無さそうだ。

 言葉に詰まった私を特に気に掛ける様子もなく、リッサは話を進める。


「天候にもよりますが、時期が時期ですので積雪の中進む事を前提とした方がいいでしょう。ルーペアトに連絡が付けば彼に魔術を使って貰う事も出来ますが、中々捕まらない彼を充てにするのは避けたいところですね」

「やっぱりルーペアト先生は魔術を使って雪の中でも走っていたのね。ルーペアト先生に出来るのなら私も練習次第で出来るかもしれないと思うのだけれど、リッサはルーペアト先生がどういう方法を取っているのか知っているかしら」


 特別な道具が必要であったり、特殊な生き物にひかせていたりするなら話は別だが、そうでないなら同じ火の魔術師である私にも出来るかもしれない。

 もしも出来なかった場合私の方は十二分に余裕を持って予定を立てて、雪の中向かえばいいだろう。第二王妃様と違ってそこまでスケジュールに追われているわけでもないし、私の場合雪が降っていようとライター一つあれば凍える事は無い。


「お嬢様にそのような事をさせるのは気が引けるのですが……。ルーペアトの魔術について詳細には存じません、ただルーペアトの馬車が蒸気の中を走っており、通った後の土が乾いていた事から雪を溶かして蒸発させているのではないかと思われます」

「蒸気の中を走る……分かったわ、私も少し練習して見るけれど、リッサはルーペアト先生に連絡を取ってみて貰えるかしら」

「かしこまりました」




 それからリッサに様々な手配をしている間、私は文学と礼儀作法の勉強を中心に第二王妃様と会う日に備えた。

 相変わらず難しい言い回しはとことん苦手で、解読もそうだがこちらから詩的な事を言うなんてとても出来そうにない気がする。実際に使う事になる日が近づけば近づく程、なんでわざわざ分かりにくい言い回しにするのだろうかと、初めにこんな事を考えだした人を呪いたくなる。


 そしてリッサが心配していた通りルーペアトを呼ぶ事は出来なかった。連絡が付かなかったわけでは無く、連絡がついた上で断られたのだ。なんでもどうしても外せない仕事があるらしい。

 ルーペアトもあれで高名な魔術師らしいので仕方がないだろう、王族が関わると言えば他の仕事を置いてでも来るかもしれないが、その情報は表立って出す事が出来ない。


 私はリッサが言っていたルーペアトの魔術について再現しようと色々試してみたのだが、土がぬかるんだり雪が解けなかったり走れない熱さになったりとどうにも上手く行かなかった。当日は雪上を走る強行軍となりそうだ。


 魔術をルーペアトに認められて思いあがっていたわけでは無いが、まだまだ私には出来ない事も多いのだと思い知らされた気がする。

 周りに火の魔術を使う人もいないので、何と無しに同じ火属性であるラインハートへの手紙に愚痴を書いてみたりした。




 今回ケルツェ山に向かうのは私とリッサ、ベアノンと他三人の兵士である。ベアノン含む兵士には第二王妃様がケルツェ温泉に来るからという理由はまだ告げず、人が少なくなるこの時期に特産と出来るものがケルツェ山に無いかどうか探す為と伝えてある。

 レーヴェレンツ家に仕える兵士の口が軽いとは思っていないが、念には念を入れてケルツェ山に近付いてから話す事にしたのだ。


 今回は前回と違い時間を掛けてでも村や集落を通って安全に進むルートを使う。凍死対策としていざとなれば私の魔術でどうにか出来るので、前回と同じルートでも良いのではないかと私は言ったのだがリッサにすぐさま却下された。


 そして粉雪の中出発した七日後、私達は吹雪に見舞われながらもなんとかケルツェ温泉まで辿り着いた。

 前回よりもまるまる三日も掛かっているが、これでも早く着いた方だ。予定では十日以上掛かる可能性もみていた。

 前回かなり弱っていたリッサは今回の強行軍についてこられるのかと少しだけ心配していたのだが、むしろ今回の方がリッサは元気そうだった。おそらく道中村や集落を経由した事で野宿よりは幾分良い環境で眠れ、また保存食以外の食べ物も食べられたからだろう。


 そうして第二王妃様が訪れる五日後まで、私達は寒い中入る熱い温泉を大いに楽しみながらゆったりと過ごした。


殆どが地の文になってしまって少しもやもやしましたが、ちゃんと書くと4倍くらいに膨れそうなので……。

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