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魔術の勉強と相談

 ルーペアトから魔術の扱いを認められてから三日程の間彼はレーヴェレンツ邸に滞在し、今度は座学で魔術について教えてくれていた。

 彼は緩い雰囲気から想像つかない程魔術については詳しく、特に本には載っていないような魔術師同士の戦いや警戒すべき点など、広く認知されていないような事についても教えてくれた。


 こんなに優れているのに何故貴族らしい振舞いが出来ないのか少し不思議に思ったが、教えて貰ううちにこれだけ優れているからこそ貴族らしい振舞いが出来ていなくても許されるのだろうと認識を新たにした。


 一定以上の才を持っていれば訓練次第である程度誰でも精密な操作や遠距離の操作が出来るらしいが、どうあっても自分よりも一定以上格上の者からは魔術を奪えず、また奪われた場合取り返せない。

 その為、何だかんだこの国有数の火の魔術師であるルーペアトから火を奪える私は同じ属性相手なら絶対に負けないだろうとの事だ。不意打ちにしても、火を出す前の気配を感じて奪えれば何も恐れる必要はない。


 一方で他の属性の魔術師には警戒を怠ってはならないと強く念押しされた。私を害そうとする相手が刺客を送るのであれば、まず火属性の者は来ないのだから。

 色々と対策やそれぞれの特徴を詰め込まれたが、突き詰めて言えば魔術で殺されるのも銃で殺されるのもそう大差がない。攻撃を受けてしまえばお終いだし、抑止力としてこちらも魔術を使えるようにする他はない。


 それでも火以外の属性を使い一瞬で相手を害するような事は難しいらしいので、水で窒息したり、風で呼吸を止められて意識を失う前に反撃出来るようにと護身用の道具をくれた。

 綺麗なキーホルダーのように見える赤く不透明な石で、強く叩き付けると内側に入っている薬剤と反応して小規模な爆発をするらしい。

 とっさに火を出す事の出来ない私の為にわざわざ作ってくれたそうなのでとてもありがたく頂いたが、客観的に見るととても危険なアイテムな気がする。

 こんなものを使う事が無いといいんだけどね、と苦笑する彼に、私はあいまいな笑顔を浮かべて頷いた。


 ◇


 ルーペアトがレーヴェレンツ邸から帰った数日後、私はまたアルドリック様と試験を受けていた。

 私がまだ何とか差をつけて勝った後普段はそのまま勉強に移るのだが、今日はアルドリック様がいつもと違い少し言いづらそうに口を開いた。


「ヴァレーリア、少し話しておこうと思う事があるのだが、いいだろうか」

「えぇ、勿論です」


 そう言って少し周りを見渡すように目配せをしたアルドリック様に、私は一体何の話だろうかと少し不安になりながらも笑顔を崩さないままメイド達を下がらせる。


 ……もしかしたらこの勉強会をやめたいという話かな、もしそうならなるべく引き留めたいけれど。


 アルドリック様の学力を引き上げるというのも重要だが、いざという時にアルドリック様の力になる為にはなるべく関係を深くしておいた方が良いはずだ。


 ……それに、私もこれっきりにはしたくないもの。


 私がそんな葛藤をしている間にアルドリック様も手ぶり一つで他の従者達を退出させると、更にやや間をおいてから話し始めた。


「ヴァレーリア、以前私の母上がケルツェ山の温泉に行きたいと言っていたのは覚えているだろうか」

「はい、興味を持っていただけた事を光栄に思いましたもの。その、まさか第二王妃様が……?」

「あぁ。私もてっきり向かうとしても翌年、翌々年以降の話になると思っていたのだが今年の冬に向かうつもりだと話してくれた。公にせず秘密裏に向かうらしい」


 想像していなかった突然の話に私は少なからず驚いた。以前アルドリック様に城で温泉の話を広げてくれたお礼を言った際、第二王妃様もいずれ温泉に行ってみたいと言っていた事はアルドリック様から聞いた。

 しかしあくまでも社交辞令や、そんな日が来たらいいですねというようなその場の話の延長だと思っていた。

 第二王妃といえば現在の第二王子派閥の実質的な指導者であり、そう簡単に腰を浮かせられる立場では無い筈だ。少し混乱する頭を働かせながら、私はアルドリック様にまずは提案する。


「アルドリック様、冬場に王都からケルツェ山まで向かうとなれば相当な時間が掛かるかと存じます。春や秋頃の方がよろしいのではないかと」


 そう、ケルツェ山は王都から数日かかる、私が向かった春でも往復で六日から十日程かかるのだ。冬場に向かうとなればどれだけ時間が掛かるかわからないし、道中のトラブルも警戒しなければならない。

 冬場の方が確かに温泉は気持ちが良いかも知れないとは少し思うが、まさかそんな理由でもないだろう。恐らくお忍びとして人足が途絶える時期を選んだという事なのだろうが、些かリスクが大きいように思えた。


「いや、私も詳しい話は分からないのだが、母上は雪が降っていても短期間で向かえる方法を知っているらしい。それに母上の社交の関係上冬でないと時間が無いらしいのだ」


 アルドリック様も先の言葉通り少し困惑している様子が見て取れる、恐らく私と同じような事を第二王妃様に聞いたのだろう。

 確かに派閥のリーダーともなれば、冬場しか時間が取れない程なのかもしれないと私は納得した。雪が降っていても移動する方法というのも、以前ルーペアトが吹雪の中レーヴェレンツ邸に来たようにこの世界ならではの方法があるのだろう。


「……わかりました。ですがもし流行の一部として確認される為だけでしたら、それぞれの自宅でも温泉を疑似的に感じられる温泉の素がこの冬販売される予定です。第二王妃様にケルツェ温泉まで来ていただけるのも大変光栄なのですが、後日献上させて頂きますので、こちらについてもご一考頂けるようアルドリック様からお話して頂けるでしょうか」


 温泉の素は現状ケルツェ山でしか販売していないが、冬になればグミュール商会から購入が可能になる。もしも第二王妃様がわざわざ苦労して向かった後、城でも商会を通せば買えるとわかればとても気分を害されるだろう。


「あぁ、私も他の者が持ち帰ったものを少し譲ってもらったが、あれが城にいても買えるようになるのだな、それは楽しみだ。しかしヴァレーリア、確かにあれもケルツェ山を思い出させて良い物ではあったが、本物の温泉には及ばないのではないか? あれで母上が満足するようにも思えないが」


 アルドリック様は少し難しい顔をして答えた。確かにアルドリック様の言う通り温泉の素では温泉に及ばない。効能の面では恐らくそう変わらない筈だが、ここのお風呂は日本のように自動で沸きなおしてくれるようなものでは無い。

 熱い湯を張って冷めていくだけのものか、かけ流しでお湯が追加されるものだ。前者は熱い温泉と別物に感じるだろうし、後者では温泉の素がどんどん薄くなってしまう。

 ちなみに私が使っているお風呂は前者だが、私は火を持ち込んで温度調節が多少出来るのでその点は気にならない。

 しかし、何よりアルドリック様が感じているのはそういう事では無いだろう。


「はい、ですからもし第二王妃様が求めておられるのが話題や流行を知る為ではなく、温泉と安らぐ時間を楽しむ為にケルツェ温泉に向かわれるようでしたら、私も是非お越し頂きたいと存じ上げます。アルドリック様、アルドリック様のお手を煩わせて申し訳ないのですが、また詳細が決まりましたら教えて頂けますか?」

「あぁ、約束しよう」


 アルドリック様は私の答えに少し肩の荷が下りた様子で、私も話の始めに抱いた想像が杞憂であったことに安心して、二人揃ってほっと息を吐いた。

明けましておめでとうございます。

今年も楽しんで書いていきたいと思っておりますので、

またどうかよろしくお願いします。



Twitter→ https://twitter.com/uturigi_momiji

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