表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/60

夢から覚めて(3)

 食後のお茶を用意してくれたメイド達に私は一人になりたいと告げ引き籠った。

 もしも本当にここが物語と同じように進んでいる世界なら、対策を考えないと取り返しがつかないことになる可能性があるからだ。


『黒き君へ捧ぐ剣』


 それが私のプレイしたゲームのタイトルだ。魔法学園物で、ヒロインはアンネマリー・レーヴェレンツ。

 彼女は生まれつき特異な才能を持っていた。父親は生まれてくる前にいなくなっており、母親に隠されるようにして育てられたが、12歳のある日母親と共に出かけた帰り路で夜盗に襲われ片目に傷を負い、母親を喪う。


 偶然通りかかったレーヴェレンツ公爵に救われ、その特異な才能故に養子となる。しかし待っていたのは同い年の意地悪な姉、ヴァレーリアに苛められる生活だった。


 ゲーム本編が始まるのはその後、16歳のアンネマリーが入学してからとなる。

 姉の婚約者の第二王子やら、他の公爵家の息子やら、武家の坊ちゃんやらの誰かしらと色々あって結ばれるのだが……


「だいたいのルートで、ヴァレーリアは死ぬんだよね……」


 ゲーム上の”私”の行いを思い出すと今の自分の事ではないとはいえ思わず自嘲してしまう。


 ヴァレーリアはヒロインがとにかく嫌いで、苛め抜くのだ。

 そしてその末に、ルートによって差異はあるものの、処刑されたりヒーローの手によって討伐されたりする。

 唯一の生存ルートが獄中で発狂だ。ロクなものではない。


「そうはいっても今の私がアンネマリーを苛めなければいいって考えると、私はデッド・オア・プリズンにはならない気はするけど……本当よりにもよって”黒ささ”だなんてね」


 黒き君に捧ぐ剣、通常くろささは剣と魔法の世界観のあり触れた設定なのだが……


「”命を懸けて君を守りたい”なんて煽り文の癖に、選択肢一つ間違うだけで死亡エンド直行のあのゲームだなんて……」


 思い出すにつれてどんどん憂鬱になってきた私は思わず頭を抱えて唸ってしまう。


 ヒーローに守られる、という部分を全面に押し出したかったからなのかやたら襲撃イベントが多く、ヒロインがとにかく何度も襲われるのだ。

 浚われ切られ沈められ、燃やされ締められ毒を盛られ……そういう特殊な趣味の人が遊ぶようのゲームなのかと途中から考えだしてしまう程に死亡パターンが多く、上手くヒーローに守ってもらう生存ルートを選ぶのが本当に難しい。


 ネットでも、『命を懸けて(出来れば)君を守りたい』『命を懸けて(時間があえば)君を守りたい』『守りたかった(過去形)』などと揶揄されるような作品だった。

 一方ヒロインがただ弱々しいだけでなく、決して挫けない強い心を持って敵(主にヴァレーリア)に立ち向かっていく姿が、特に序盤で頼りになる事の少ないヒーローよりも余程イケメンだと一部では人気であった。私もその一部の一人である。


「名前だけの一致だったら、私も気のせいで済ませちゃったんだろうけど、鏡に映る私もなんとなく未来のヴァレーリアの面影があるし、記憶にあるお父様の姿も、屋敷の雰囲気も一致しちゃうとなると……偶然で済ませない方がいい、よね」


 部屋に置いてある姿見には、ちょっと小太りな少女が映る。肩までかかるサクラ色のふんわりカールした髪、きつく吊り上がった大きな目はブラックチェリーのように赤黒い、これが成長してあの色んな意味で重厚感があり迫力満点の魔女になるのは何となく想像がつく。


「私が生き残るってだけなら、多分下手な行動をしないだけでも十分なんだろうけど……放っておくなんて出来ないよね。それにゲーム終盤でアンネマリーが助ける人もいるし……あんまり考えたくないけど国の滅亡を救うエンドなんかもあったし……」


 何せアンネマリーがどのルートに行くにしてもゲームの通りなら複数回襲われるのは確実なのだ。

 私は幾度となくセーブとロードを繰り返してクリアに辿り着いたが、実際に生きている人間があの細い道を進むなんて事が出来るとは思えない。

 ゲームでは当然アンネマリー死亡後に残った世界などは見れないが、彼女の異能で救う筈だった人は当然救われなかった事だろう。


「でも、流石にあの嫌がらせのような量の選択肢を流石に全部は覚えてないし、学園内に護衛を大勢連れて入るなんて出来ないし……誰かにずっと守ってもらえれば一番なんだけど……」


 眉間に皺を寄せながら考えるが、正直なところ、ゲーム中で『俺が絶対お前を守ってやる……』みたいな事を抱きしめながら囁いたくせに、ヒロインが適正なタイミングで助けを求めていないと実家に用事が、などと言って肝心な時にいなくなってしまうヒーローはまるで信用ならないのだ。


 誰かヒロインを守ってくれとお願い出来る人物がいるだろうかと、”黒ささ”の登場人物を頭の中でがっさがっさとかき回しながら考えるが、ヒロインに近しく、ヒーローに匹敵するぐらいに強く、自分から見て信用できる人物などいくら考えても……そう、一人しかいないではないか。




「そうよね! それなら、私が守れるようになればいいじゃない! 」

とりあえずあらすじ部分まで更新。

なるべくペース早めに更新したいなーって思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ