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王子との合同行軍訓練

 アルドリック様の騎士達がレーヴェレンツ家の兵士達の元へと合流すると、騎士の真ん中を割るようにして黒鹿色の馬に乗ったアルドリック様がやってきた。

 てっきり自慢げな笑顔でやってくると思ったのだが、私の姿を見てほっとした顔をされてしまうと怒ろうという気も霧散してしまう。


「ヴァレーリア、すれ違うようなことが無くて良かった。勝手な真似をしてすまないが、私達も行軍訓練に同行させて貰えないか?」

「アルドリック様……分かりました。ですが、私達は私達の分の食糧しか用意しておりませんし、騎士達の食事を賄う為の狩猟も、近隣の村から強引に食料を接収する事も許可できません。それでもよろしいでしょうか」


 私は内心の苦笑を抑えた微笑みでそう答えた。今の時期は本来の狩猟時期ではない。害獣駆除なら話は別だが、成人男性三十人以上が何日分もの食糧を狩ってしまえば間違いなく領民に影響が出る。

 村から接収する事などは言わずもがなだ。心配して付いて来てくださるアルドリック様の優しさは嬉しく思うが、それとこれとは話が別だ。


 私の答えを受けたアルドリック様が騎士の一人を見ると、その騎士は表情を変えないままゆっくり頷いた。

 それをみてほっとした様子のアルドリック様は再びこちらを向いて口を開いた。


「あぁ、それで構わない。キーランド、レーヴェレンツ家の兵士と相談して陣形を整えろ」

「はっ」


 先ほど頷いた騎士がキーランドというのだろう、アルドリック様の命令に応えてこちらにやってきた。

 私もベアノンに視線を飛ばすとすぐに察してくれたようで、ベアノンもずんずんとこちらに来てキーランドと相談を始めた。

 アルドリック様と私を守るような陣になった私達は、行軍訓練から合同行軍訓練と形を変えてピュロマネ山へと向かった。


 箱入り息子のアルドリック様は果たして美味しくない携帯食や、ベッドでは無く布を纏うだけで眠る行軍に耐えられるのだろうかと少し心配だったのだが、道中アルドリック様は文句の一つも溢さなかった。というよりむしろ楽しそうですらあった。

 私は口にも顔にも出さなかったがベッドと暖かい料理が欲しくなったし、何よりお風呂が恋しかった。リッサの魔術で清潔に保たれているとはいっても一日の疲れを溶かしてリラックスできる時間があるか無いかでは全然違う。


 それなのに移動三日目になっても、見ろヴァレーリア今野生動物が走っていたぞ、見えたか? などとキラキラした目で言ってくる。アルドリック様はすごい適応能力だと思う。

 リッサなんて二日目のお昼には手に持った魚の塩漬けと野菜の丸薬を恨めしそうな目でじっと見ていたというのに。


 人数が人数なので村に寄る事も殆どなかったが、道中見ている限りレーヴェレンツ領はとても豊かな土地だと思えた。

 草木は良く茂っていて野生の動物も多く、見かける領民の顔にも暗いものは見当たらない。私達のルートが治安の良い部分だけを通っているのかもしれないが、それでも私はほっとした。


 ゲームではヴァレーリアの死後、ルートによってレーヴェレンツ家が取り潰しとなる。

 テキストではヒロインのアンネマリーが嫁入りしてエンディングを迎えた後、エピローグとして軽く触れられた程度だったが実際には数行で済ませられるような問題ではないだろう。

 おそらくレーヴェレンツ領は割られ、混乱も多く起きたはずだ。この現実でそのような事を起こさせるわけにはいかない。

 私は領民の姿を見ながらそう思いを新たにした。


 四日目の夕方に近くなった頃、ようやく私達は目的のケルツェ山麓へと到着した。ヴルイデクセやラオッタァのような危険生物がいるのはもう少し先のピュロマネ山だが、危険な生き物が少ないケルツェ山の麓に滞在する事になっている。


 ケルツェ山麓には今日の為にという事で木造の小屋と馬小屋を複数建てて貰った。ケルツェ山で無事に温泉が見つかれば、観光客の宿泊所として利用してもらうつもりなので無駄にならない。

 小屋は大きめの物が四つと小さいものが五つあり、小さい方は学校の教室より少し小さいくらいの大きさだろうか。大きい方はそれの二倍くらいある。

 少し床が高くしてあるため階段がついており、屋根は雪で潰れないよう三角で可愛らしい。


 私やリッサはどういったものかあらかじめ知っていたが、王子が泊まるような格では無いので大丈夫だろうかと少しだけ心配もしていた。

 しかしアルドリック様は塗装もされていない木の小屋にむしろ少年心をくすぐられたようで、非常に興奮している様子だ。完全に旅行や合宿のような気分なのだろう、楽しそうで何よりだ。


 その後、直近の村に小屋のお礼と到着の挨拶に行くと、村長がレーヴェレン家の兵士用にと、猪のような獣を用意して待っていてくれた。

 しかし問題は元々それほど一人分に余裕がある程の量ではなかった上に、予定の三倍近い人数が居た為まるで肉が足りなかった事だ。

 アルドリック様の騎士達が携帯食を食べる中レーヴェレン家の兵だけが肉を食べるわけにもいかないので、数が足りない事に顔を青くして恐縮する村長を落ち着かせてアルドリック様と私の分だけを貰う事にした。


 ◇


 そういうわけで今私はアルドリック様と一緒に木造の小屋の近くに作られたテーブルで、兵士達に申し訳ない思いをしながら美味しいお肉を食べていた。

 道中と同じく携帯食を食べるレーヴェレン家の兵士はお肉を食べそこなって少し雰囲気が暗いし、アルドリック様の騎士達はその原因となって居たたまれないのかどこか浮ついて見える。


 ちなみにリッサは半ば強引にベッドに寝かせてきた。私は前世の記憶を持った似非お嬢様だが、リッサはメイドをしているとはいえ正真正銘のお嬢様だ。野宿ではまともに眠れなかったようで、とても疲弊していたのだ。


 とても楽しそうなアルドリック様は日増しに大人びてきているせいもあって一層子供らしく可愛く見えるが、美味しい美味しいと言ってお肉を食べる度に私は兵士達を気にしてしまい、頭が痛くなりそうだった。

 折角の美味しいお肉に集中出来なくて申し訳ないなと思いながら私はお肉の端をナイフで切る。


「そうだヴァレーリア、明日からの予定はどうなっているのだ。着いてから詳しい事を説明すると言っていたが」


 アルドリック様が思い出したように唐突に言い出した、ピュロマネ山で危険生物の狩猟をするとは伝えていたが、到着するタイミングが未定だったので詳しい事は着いてからとしていたのだ。私は一旦ナイフを置いてアルドリック様に答える。


「はい、兵士達にはピュロマネ山でヴルイデクセとラオッタァを狩ってもらいますが、私とリッサはケルツェ山で探したいものがあるので少人数の兵士と共に別行動をする予定です。アルドリック様はどうなさいますか?」


 冒険にわくわくしているアルドリック様としては狩りに参加したい筈だが、はっきり言ってアルドリック様にはそちらに合流して欲しく無い。兵士が周りを固めればそう危険ではないと聞いたが危険性が無いわけでは無い。

 出来ればこの小屋で大人しくして貰うのが一番だがそれは無理だろうし、何とか私と一緒に来て貰えるよう説き伏せなくてはならない。

 私が営業スマイルの裏でそんなことを決意していると、アルドリック様もほくほくとした顔で答えてくる。


「そうか、なら私もヴァレーリア同行しても構わないか? 護衛対象がまとまっていれば余分な騎士も狩りに回せるだろう」

「え、えぇ、そうですね。では明日もよろしくお願いします」

「あぁ、よろしく」


 アルドリック様があっさりそう提案したことに一瞬呆気に取られそうになったが、何とか笑顔を崩さずに回答出来た。驚きはしたものの言っている事はその通りだ。

 私の答えに満足したのかアルドリック様はまたお肉に夢中になっているが、私が思っている以上にアルドリック様は成長しているのかもしれない。


 気の休まらない食事を終え、私はリッサが眠っている小屋へと戻った。兵士と騎士は結構大人数で小屋に止まっているらしいが、私とリッサだけは二人で大きめの小屋を独占する形だ。

 私は小さい方の小屋でも良かったのだがそちらには個室が無いという理由で気が付いたら決められてしまっていた。私はリッサなら別に相部屋でもよかったのだが。


 その日の夜はどうにも寝つきが悪かった。ベッドが違って緊張しているのかとも少し思ったのだがそれとも違う。

 なんというか、視界の端から光を当てられているような、前世で別の部屋に置いてある機械が唸っていた時のような、妙な存在感が在り意識が落ちるのを阻害されていたのだ。

 どうにも鬱陶しい感覚にうんざりしていた私だったが段々とそれにも慣れたらしく、いつの間にか夢の世界へと誘われていた。

ブックマーク100越えありがとうございます!とっても励みになりますー!

活動報告に書いても誰もコメントしないなって前回で学んだので敢えて書いたりしませんけれど、質問とか誰視点の話も見たいとかあれば応えていきたいなって思います。

これからもどうかよろしくお願いします!



そういえば昨日は結局投稿出来ずにとうとう毎日更新が途絶えてしまいました。

ちょっぴり残念です。

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― 新着の感想 ―
[一言] ライターに関して、ファイアーピストン(圧気発火機)というのがあるんだけど、これなら燃料なくても火を起こせるし構造も簡単なのですぐ作れると思う。 あとSSはもっとストーリーが進んでくれないと…
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