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リッサとの対策会議

 お父様の部屋から出て部屋に戻ってくると、どっと疲れた気がした。まだ朝なのに魔術の訓練を散々した後のような疲労感だ。

 午前の授業を少し遅らせて貰うようにメイドに言って私は椅子に座り込んだ。


 あの人の前に出るとどうにもいつも通りの自分ではいられない、まるで恋しているかのような言葉だがもちろんそんなプラスなものではない。

 いつもこちらを見ているようで見ていない目にはいつまでたっても慣れない。慣れるほど対話していないからかもしれないが。


 表情には出していないつもりだったが、私の疲れた雰囲気を察したのかリッサがすぐに紅茶を淹れて来てくれた。それをゆっくり飲みながら、お父様から出された課題について考える。

 公爵令嬢として相応しい、何て言うけれど私にはどういうものがそれに値するのかまるでわからない。せめてお手本くらい教えて欲しいものだと思う。

 拗ねるように心の中で呟きつつ、私はリッサに声を掛けた。


「ねぇリッサ。公爵令嬢として相応しい実績というのはどういうものなのかしら」


 一人で考えていても仕方がない、私はまずリッサに相談する事にした。


「実績、ですか。そうですね……流行を生み出したり、お茶会などで貴族や王族と重要な繋がりを作る事。後は領地で特産品を考えだしたり、領民の生活や健康、支持に繋がるような政策を編み出せば実績と言えるでしょう。他にも後世に繋がる発見をしたり、大規模な問題を解決すれば、それも含まれるでしょうか」


 私が聞くとリッサはスラスラと答えてくれた、本当にリッサは頼りになる。リッサが上げた中で言うと、まずお茶会や流行は私が社交界デビューしていない以上難しいだろう。

 繋がりという意味ではアルドリック様と仲が良いが、私は婚約を拒否したのだから繋がりを得たとは言えないだろう。


 領民の為の政策を、というのも今の私には難しいかもしれない。日本で行われていて成功している制度を行えば上手くいくかもしれないが、まずそれを自由に出来る資格が私のもとにはない。

 お父様にお願いして実施してもらうしかないが、きっと上手くいってそのうち結果が出るので試させて欲しい、と私が言ってもお父様が試させてはくれるようには思えない。


 そうなると残るは特産品だが、この国の生物や植物は基本的に私が知っているものとまるで違うのだ。さてどうしたものだろうかと眉間に皺が寄ってしまう。


「お嬢様、どうして急にそのような事を?」


 その声に顔を上げるとリッサが心配そうな目でこちらを見ていた。

 最近はリッサが過保護な気がするな、と感じて苦笑交じりに私も答えた。


「お父様から公爵令嬢として相応しい実績を出すようにと課題を頂いたの。私に公爵令嬢としての自覚が足りないからその罰としてね。でも確かにお父様の言う通りだとは思ったわ、私が今まで考えていたのは自分の周りの事だけで、領民の事を考えるのが公爵家のものの務めだもの」

「そのような事を、旦那様が……?」


 そう言ったリッサの声が僅かに震えているような気がして、私は目を瞬いた。一呼吸のうちにいつものリッサに戻ってしまったが、恐らくリッサはとても怒っていた。

 何に対する怒りなのだろうかと私が少し困っていると、リッサが言葉を続けた。その声が穏やかだったことに安心する。


「お嬢様、今日の午前は授業を休みましょう。そのように考えこまれるという事は期限が近いか罰が重いのではないですか?」

「そういえば、期限も達成出来なかった時の罰も聞いていなかったわ」


 確かいつまでに、とは何も言っていなかった筈だ。それに課題自体が罰と言われて与えられたものだったし達成失敗時の罰まで頭が回っていなかった。


「お嬢様……」

「ご、ごめんなさい。次から気を付けるわ」


 私が片頬を抑えながら思い返していたら、リッサが呆れたような目を向けて責めてきた。

 リッサは基本的にお澄まし顔だけであまり表情を出さないのに感情が豊かだ。どうせならもっと笑ったりと和やかな方向に豊かになって欲しい。


 私は誤魔化すように私は紅茶に口をつけ、小さく息を吐いた。

 どうしてもあの場に居ると長々と交渉したり、先々を見据えて発言したりという事が出来なくなる。弱みをなるべく見せないようにしなければ、と思ってしまい、自然と頭が回らなくなるのだ。

 いや、あの場にというよりはお父様と話していると、という事なのだろう。


「では私が確認して参ります、少々お待ちくださいませ」

「ありがとう、リッサ。お願いね」


 苦手だからと言って下手な交渉をするようではまるで駄目だ。お父様だろうと誰であろうと、自分を保って話せるようにならないければ。


 紅茶を飲みつつ一人反省会をしているうちにリッサが戻ってきた。お父様が言うには期限は一年で、出来なかった際の罰はその時に教えるそうだ。

 罰の重さで態度を変えるようでは困るという事だったが、あとから自由に罰を変えられるというのも不公平な気がする。


 リッサの勧めの通り午前の授業はキャンセルして貰い、二人で対策を練る時間に充照る事にした。訓練の方も休むよう言われるかと思ったが、そちらは構わないようだ。

 それにしても困るのは一年という期限だ。これで政策を行うという線は消えた。


「そうなると、私が出来るのは領地の特産品を出す事くらいかしら」

「いいえ、お嬢様が行っているハーブ湯を広めるのであれば、流行を発信する事や他の貴族との繋がりを作る事も可能でしょう」


 私はもう習慣になりかかっているので気にしていなかったが、そういえば確かに私も最初はとても感動した。

 私の場合前世の入浴剤の代わりが使えてという部分が大きかったが、味気ないお風呂しか知らない人にとっては更に衝撃だろう。

 加えてメイド達から話を聞いた所身体から花や植物の良い香りがするのも珍しいらしいので、香水の代わりとしても使えるかもしれない。


「でも私は社交界にまだ出ていないわ、それでも利用出来るのかしら」

「はい。お嬢様自身が広げるのでは無く、お嬢様の名前を出す事を条件としたうえで商会に情報を売る、或いは高位の貴族に情報を渡したりするのであれば可能です。ですがこの方法では名前を多少覚えては頂けるかも知れませんが、お嬢様自身が広められるのに比べれば利益が非常に少なくなります。せっかくの武器ですのでこちらは最後の手段と致しましょう」


 恐らくリッサは私がハーブ湯を使っているのを見て、以前から社交界と繋げて考えていたのだろう。

 リッサの言う通り私が直接香りを纏って宣伝していくのと、私から聞いた、といって他の貴族が広げるのでは全く違う。後者では名前こそ片隅に残るかもしれないが、恩を感じるのは直接教えた方の貴族だけだろう。


「そうね、ありがとう。やっぱり特産品を探す必要があるようだけれど、いざという時の手段があると分かっただけでもだいぶ気持ちが楽になるわ」

「いえ。他に方法と言いますと、ライターでしたか、あれを改良して王に献上すれば喜ばれるかもしれません、様々な使い道がありますので。後は……力を持っていて現在レーヴェレンツ家と繋がりが少ない家から婿をとることが出来れば、それも実績と言えるでしょう」

「そう、でも課題を理由して将来の相手を選びたくはないわ」


 それを選ぶくらいならハーブ湯を広げてしまった方がましだ。ライターの製法を出すのもいいかも知れないが、そもそもライター作成には高い燃料が必要で行き詰っていて完成していないし、本当に完成するかもまだ未定だ。上手くいくかも分からない予定に胡坐を掻いているわけにはいかないだろう。


「リッサ、ピューズ湯のように今ある特産から何か思いつくかもしれないわ。レーヴェレンツ領の特産が分かるものと地図を持ってきてくれるかしら」

「かしこまりました」


 まずは使えるものとして何があるか知らないと考える事も出来ない。リッサならそれぞれがどういうものかも大体わかるだろう、解説を聞きながら何か前世の記憶の中で作れそうなものが無いか探してみる作戦だ。


 広げられたレーヴェレンツ領の地図を見る。レーヴェレンツ領はクラインシュミットの西に位置し、ブーメランのような長い形をしているかなり広い領地だ。

 西の端の辺りは海に面し半島のようになっていて、ブーメランのへこんだ部分には大きな湖がある。逆に盛り上がっている方には山が複数あり、様々な資源に恵まれた土地と言える。


「そういえばここの山にもあの危険生物がいるのかしら。確か火山に住むって言っていたけれど」

「はい、火山特有の臭気を好むらしく、ピュロマネ山には多く出るそうです。ただ一方で同じ火山でも木々が多いケルツェ山には殆どいないのだとか詳しい事は分かりませんが、生息に適さないのでしょう」


 リッサからそう聞いて、私はようやく一つの打開策を思いついた。


「ねぇリッサ。お願いしたい事があるのだけれど――」

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