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夢から覚めて(1)

 叫び声が聞こえた、怒鳴る声が、命乞いをする声が、断末魔が、声が徐々に私に迫ってくる。


 怯える私に言い聞かせるように、赤い髪の少年が頭を撫でながら囁く。


『……の大事な……、君はここ……目を閉じ……を塞いでるんだ、大丈夫……ず父上が……』


 私を怖がらせまいと穏やかに話す”お兄様”の顔が本当は怖いのを堪えているのだと”私”は理解した、してしまった。


 しかしここにいる私はそんな事には気付かず、お兄様が大丈夫っていうならきっと大丈夫。

 お母様もお兄様も、お父様が来て助けてくれるんだわ、なんてそんな風に考え……しかし


『嫌、嘘よ、お兄様! お兄様! 』


 私が助け出された時最初に見たのは血だまり、そしてお父様の私兵に抱えられた、血まみれの、傷だらけの……あぁどうして、お兄様は私に嘘をついたことなんて一度だって……




「ぃ……いやあぁ!! 」


 そう叫びながら私は飛び起きた、嫌にリアルな夢だった……呼吸はひどく乱れているし、心臓は早鐘のようにドクンドクンと跳ね続けている。体の感触からするに寝汗もべったりかいているだろう。


 夢でよかった、なんて思いつつ、上半身を起こした身体に意識を向けた瞬間気付いた。

 何故か白いネグリジェのような服を着ている、こんなお洒落寝巻、私は買った覚えも着た覚えもない。いや、そもそも何かおかしいような……


「お嬢様、大丈夫でしょうか? 」


 掛けられた声にハッとして横を向くと、給仕服を来た人のよさそうなお婆さんが心配そうにこちらを見ていた。


 ……お嬢様? 誰の事? 少なくとも私はそんな呼ばれ方ゲームの中くらいでしかされた事ないけど。


 思わずキョロキョロとしてしまったが周りには誰もいない、そしてようやく気付いた。自分がまるで覚えのない場所にいることに。

 真白い壁に豪華な飾り棚、お洒落なテーブル、ベッド横の窓から見える森から察するにここは二階か或いは三階なのだろう。


 他にも大きなタンスが二つあったりと、中々に物が多くしかもそれぞれが大きい。そしてそれでもまったく狭くない程に部屋が広い、テレビで見る豪邸の一室のようだ。少なくとも今の私の部屋とは比べ物にならないし、実家のリビングより広いのではないだろうか。

 ベッドも見たことがないほどに大きく……と身体を起こしながら自分とベッドを見比べて気付いた。そう、やけに手足が小さいのだ。


「なに、これ……」


 驚愕に目を見開きながら呟いた自分の声の高さにまた絶句した。


「お嬢様、まだやはり気分が優れないようですね。無理もありません。私は旦那様に伝えて参りますので、もう少々お休みになっていてくださいませ」


 お婆さんは沈痛な面持ちで私に告げると一礼して部屋を出て行った。


 完全に無視をしてしまったようで申し訳ないと思わなくもないが、正直私はそれどころではない。

 何せ気が付いたらよく分からない場所によくわからない服を着て、その上身体が自分の身体ではないようなのだ。これで混乱しないでいられる人間がいるだろうか、否、いる筈がない、私は人間なので混乱しても問題無い。大丈夫、私は冷静だ。いたって何も問題は無い。


「これは夢? 目が覚めた所だけど、夢の中で夢を見る事もないわけじゃないし……」


 そう、何の気なしに呟いて、その瞬間夢の内容が頭の中にフラッシュバックした。


「ーーつ!? 」


 赤い髪の、いつも優しかった”お兄様”がお兄様よりなお赤い血に濡れた姿が、いや違う! 私には兄なんていない、私は……違う、兄は、お兄様はいつも私を可愛がってくれる、私にはお兄様が、私にはお兄様しか! でも、なのにお兄様は……


「あぁ……そうです、思い出しました」


 ひとりでに涙が溢れ、零れ、流れ続ける。そう、思い出してしまったのだ。私は立木英理ではない、私は、ヴァレーリア・アベラルド・レーヴェレンツは、最愛の兄と、母を喪ったのだ。

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