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王子との勉強

 次の日、私は午前中の礼儀作法の時間を使ってリッサのお説教を受けていた。

 今日は歴史の筈だったのに、リッサが担当教師にお願いして代えて貰ったらしい。お説教を避ける為、暇な時間を作らないようにと考えていた計画がパーだ。


 どうやら昨日の突然の婚約は、大変嬉しく存じますが一族の話となりますので私一人では決めかねます、と笑顔で言ってお父様に相談するのが正解だったらしい。

 王族を怒らせて条件を引き出すなんて、相手によってはこちらが正しいかどうかに関わらず重い罰を受けていた可能性があり、絶対にしてはならないととても怒られた。


 そして午後にベアノンの所に行くと、ベアノンにも剣に驕りが見えると珍しく厳しい目つきで怒られ、いつもよりずっと厳しい訓練をする事になった。

 アルドリック王子に対してやり過ぎた部分は結構あると思っているので、私は粛々と受け入れた。


 加えて自分に過度の自信を持っている貴族に対しては、勝つ偽よ負けるにせよ、そこそこの接待をした上で紙一重に見えるようにしてあげると一番時間を取られませんよとのアドバイスもくれた、どうやらベアノンも面倒な貴族に挑まれた事があるようだ。





「お嬢様、お勉強中失礼致します」


 アルドリック様と会ってから五日経った日の午前、私が文学の授業に苦しんでいるとケーテが入室して来た。ケーテの申し訳なさそうな顔に何か嫌な予感がした。


「ケーテ、何かあったのかしら」

「それが、お嬢様にお客様がお越しになっておりまして……アルドリック王子が先ほど到着致しました」


 頭痛がした。何故ルーペアトといいアルドリック様といい、こう、貴族とは思えない程自由なのか。


「分かったわ、すぐに向かいます。アルドリック様はどちらに?」

「今は応接室で旦那様が挨拶をされておられます」


 そういえばお父様が今日はいるのだった。 出来る事なら王子の対応をまかせて私は無視してしまいたいが、私のお客様として来ているのならそうもいかないだろう。


「ありがとう、ケーテ。先生、申し訳ありませんがアルドリック様の所に向かわなくてはなりませんので、本日はこのまま失礼させて頂きます」


 そう私が言った時には既に教師は教材を殆ど片付け終えていた。話が早くて助かる。




 今回は公爵令嬢として恥ずかしくない普通の服装をしているので、勉強用の部屋からそのまま応接室へと向かう。

 応接室のドア付近にはアルドリック様の御付きだろうか、五人の背の高い男性が立っており、非常に威圧感がある。


 ドアの前に立っていたお父様の執事が私に気付くと、中に声をかけた上で開けてくれた。


 レーヴェレンツ邸に応接室はいくつかあるが、この部屋は最も位が高い部屋だ。

 中は落ち着いた赤の絨毯やタペストリーが所狭しとおかれ、背が低くて長い飾り棚には何で出来ているか分からないが色とりどりの彫刻や宝石の原石のようなものが飾られている。

 中央には真っ白な石を掘って出来たテーブル、それを挟むように長い革張りの低反発なソファーが置かれている。

 ちなみにスポンジのようなものがあるのかと思って以前中身を聞いたが、中身はそういう性質の動物の骨だそうだ。


 中に入るとアルドリック様とお父様がそのソファーに座って向かい合って談笑していた。

 柔らかく微笑むお父様など初めて見た。作り笑顔だな、と私が直感的に思うような顔ではあったが。


 応接室の外にいたのはアルドリック様の御付きの一部だったようで、中には六人の御付きがいた。お父様の執事や文官達もいるので思った以上に人数が多い。

 それでも部屋自体が広いので、狭いと感じるほどの事は無かった。


 私が入ってくるとこちらを見たが、微笑んでいるはずのお父様が何故か呆れているように見えた。とても気になるがこの場で聞くことも出来ないので穏やかに笑って挨拶をする。


「アルドリック様、御機嫌よう」


 左足を少し下げ、右足を軽く曲げ、スカートを摘まんで礼を取る。前世でカーテシーなんて劇でしかした事がないので分からないが、ここでは王族以外で自分の家以上の家格の相手と会った時か、初対面以外で王族と会った時に、女性が行う礼となっている。

 王族に対して初対面の時に跪くのは許可を得る前に王族の尊顔を見るのが罪になった時代の名残だそうだ。


「ヴァレーリア、久しぶりだな」


 アルドリック様はとてもにこにことご機嫌だ。


「アルドリック様もお元気そうで何よりです」


 私も笑顔を返し、お父様の隣に座る。

 それにしても五日前にあったのに久しぶり? と内心首を傾げていると、隣のお父様から声がかかった。


「ヴァレーリア、今は先日のお前と王子についてお話を伺っていたのだ。随分と良くして頂いているようでなによりだ。なんでも、今日も試験で競った後に一緒に勉強をして頂くらしいな」


 お父様の顔は表面上優しそうに見えるし言っていることもおかしくないのに何故か私には、先日は随分と王子に無礼を働いたらしいな、その上次は何を企んでいるのだ? と言う副音声が聞こえた気がした。

 お父様には心の動揺を隠してにこりと笑顔で返し、メイドが入れてくれた紅茶に口をつけた。


「ヴァレーリア、私は教師に頼んで試験を作って貰って来たぞ。ヴァレーリアも用意は出来ているか?」

「えぇ、今呼びますので少々お待ちくださいませ」


 メイドに言って数学の教師を呼んできて貰う、来る前にも呼ぶかも知れないと伝えていたのですぐに来れるだろう。

 それにしてもアルドリック様がすぐに来る可能性を一応考えて早めに作って貰ってよかった。 自由に生きている人は行動が読みにくくて困る。



 教師が来るのと入れ違う形で、お父様がアルドリック様に挨拶をして席を立った。今日も城に行く用があるらしい。ここで見張られていると私の息が詰まるのでほっとする。

 教師は私が二つ作るようにとは言っていたものの、アルドリック様に出すとは言っていなかったので少し顔色が悪い。申し訳ない事をした。



 試験の結果はアルドリック様が私の方のテストを全く理解できないという結果で終わった。

 アルドリック様の反応が少し心配だったのだが、思ったほど動揺しておらず、アルドリック様自身まるで予想していたかのようだ。


 その後は勉強を一緒にしたいというので午前中の残りと午後いっぱいは一緒に勉強をした、とは言っても私とは進度がまるで違うので私の教師と私が王子に付き添って勉強を教えるような形だ。


 アルドリック様は私が思っていたよりもずっと呑み込みが早く、この頭の良さならもっと勉強が進んでいてもおかしくないのになと私は首をひねった。

 その日はアルドリック様も普通の馬車で来ていたようで、暗くなる前に帰らなければなりませんよと従者から声を掛けられ、勉強会はお開きとなった。



「アルドリック様、大変申し訳ありませんが一つお願いを聞いていただけますか」


 帰る直前に私はふと思い出してアルドリック様に声をかけた。


「なんだ? 私に出来る事なら手を貸すぞ?」


 アルドリック様は何故かどこか嬉しそうにも見えるが、別に面白い内容ではない。


「ありがとうございます。お願いというのは、次回からこちらにいらっしゃる前に先触れを頂きたいのです」

「先触れ?」


 まさか先触れを知らないのだろうかと不安になるが、流石にそんなことはないだろう。

 通常貴族は訪れる先に連絡を入れてお互いの予定をすり合わせてから出向く。上位から下位へは一方的にいつ行くと告げられることも少なくないので仕方がないが、突然の訪問ははっきりいって非常識だ。


「はい、本日のように突然お見えになられますと、私も出迎える事すら出来ません。王子にお手間を取らせてしまうのは心苦しく思いますが、お願いしてもよろしいでしょうか」


 私がそう少し困った顔で言うと、王子は何故か少し顔が赤くなってにへらっと綻ばせた。


「なんだそういう事か、分かった。勿論だ。次からは必ず連絡する。楽しみにしていてくれ」


 アルドリック様の反応は何だか不気味だが、これで次からケーテに申し訳なさそうな顔を見せずに済むと思い、私は胸を撫でおろした。

本当は王子との話は間を空けたかったのですが、どう考えても王子がすぐに来るので連続に。

王子との試験シーンは最初詳細に書いたのですが、苛めているようにしか見えないのでダイジェストにしました。

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