表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/60

王子との戦い~防衛~

「お断りします」


 ついさらっと本音が出てしまった。言ってからやっぱりまずかったかなと思ったが出てしまったものは仕方がない、心の底からの本音なのだ。


 王子の従者達の笑顔が固まり、王子が口をポカンと開けて驚愕した顔になった。そこまで驚かれるという事はやっぱりそうとうまずかったのだろうか。こっそりリッサの顔を伺いたいが、今振り向いてリッサの顔を見るのは不自然だろう。


「ヴァレーリア様、王子からの婚約をお断りされるのはどういった理由によるものでしょうか、もしや、既に婚約者がおられるのですか?」


 先ほど王子と小声で話していた若い従者が話しかけてくる。王子と私が話している中に従者が割り込むのはマナーとして如何なものかと一瞬思ったが、王子の命令を即座に断った私に礼を尽くす必要は無いという事かもしれない。


「婚約者はおりません、しかし……」


 理由を問われた私は少しだけ目を伏せ、頭をフル回転させた。婚約しても破棄される可能性が高いし王子が嫌いだからなんて言うわけにはいかないが、アンネマリーが王子ルートに入らなければそのままこの王子と結婚する羽目になるかもしれないのだ。軟弱無責任王子と結ばれるなんて絶対に嫌だ。


 何か出来るだけ失礼にならず、相手が責めにくい理由を今すぐ出さなければならない。


「私は……私を本当に命を懸けて守って下さった兄を心より慕っております。……兄のように強く、私を守ってくださる方を相手に選びたいと思っております」


 お兄様を利用するような言い方はとても胸が痛くて嫌だ、しかしこれはヴァレーリアとしての本音でもある。

 相手が何を思って突然婚約を申し出たのかは分からないが、まだ兄が亡くなって半年程なのだ、幼い子供がそれを理由としても不敬とは言われないだろう。


 私の言葉に対し憤慨した様子で王子は大きな声を出した。


「お前は私が弱いと言うのか!」


 こう言い出すのは想定内だ、というより今の言い方ならこの子供はそう突っかかってくるかと思っていた。


「申し訳ありません。ですが、私よりも強く、兄のように私を守ってくださるような方でなけば……」


 私がそう言って言葉尻を濁すと、王子は喰らいつくような勢いで言葉を返してきた。


「ならば私がお前よりも強くて、お前を守れるだけの力があると分かればいいんだな!」


 釣れた。


 この条件が王子から出たのなら七割方問題ない、最近兵士の訓練にも少しだけ混ぜて貰えるようになった私は、恐らくゲーム中の王子とそこまで大差ない程度には強い。

 つまりどう考えてもこの王子には負けない。後の問題は二つだけだ。


 少し困惑したような表情を作りながらおずおずと王子に尋ねる。


「それはつまり、私と王子で試合を行い、私が勝てば婚約を諦めて頂けるという事でしょうか」

「そうだ! 私が勝てば私が強いと認めて婚約してもらおう!」


 王子は既に負けないと確信しているのか勝ち誇ったような表情だ。


「わかりました、その条件で試合を致しましょう。ただ、私は見ての通り火を扱う魔術師ですので魔術を使うと王子に大怪我をさせてしまう可能性があります。お互いに剣術だけ、という形式でもよろしいでしょうか」

「それは確かに危ないな、分かった。いいぞ」


 王子が了承したので問題の一つはクリア、そして残りは従者に止められないかということだったが、従者の方も満足そうには見えなかったものの何も言わずに頷いたので問題なさそうだ。


「では、私は少々着替えて参りますね、流石にこのままではしっかりと動けませんので。またお待たせして申し訳ありませんが、少々失礼いたします」

「あぁ、わかった」


 そういって席を立って振り返るとリッサが目に入った、じとりとした目が何考えてるんですかと訴えている。

 とりあえず見なかったことにした私はそのまま自室へと急いだ。




 自室で着替えながら私はついため息を吐いてしまった。


 あの王子が何を考えて婚約を宣言してきたのかさっぱりわからない。そもそもこの世界での婚約は基本的に親から打診があって進むものだ、リッサに聞いたのだから間違いない。


 当人同士が恋に落ちて結婚する事もあるとは聞いたが、いきなり王子から命令されるなんて思わなかった。

 今回私はかなり無理やり命令から条件を引き出したものの、本来王族からの命令は絶対だ。


 元々上位から下位への命令自体が限りなく絶対に近いものになる為、私は権力をひけらかすような真似はしてはならないと習っている。

 その階級の最上位である王族にあのような真似をされるとは思わなかったが、やはりアルドリック王子はアルドリック王子という事だろう。



 着替えが終わるとメイドに王子を訓練場に案内するようお願いし、私も訓練場へと向かった。


 訓練場に置いてある簡単な鎧をつけていると王子も到着した。

 王子の従者達は訓練場から少し離れたところで見守るようだ、よくみるとうちの兵士も何人か一緒にいる。


 王子が装備を整え終わると、審判役の兵士と一緒に訓練場に入り、刃を潰した剣を構えて向かい合った。お互いに中段に構えている。


「意外と様になっているではないか、お前剣術の才能があるのかも知れないぞ?」


 アルドリック王子がすこし驚いたようにそう言った。もしかして私が剣を持ったことがないと思っていたのだろうか、流石に剣での勝負を了承したのだからそんなわけは無いと思うが、この王子の考える事だからわからない。


「ありがとうございます、王子」


 そういう貴方は無駄に剣がぶれてますよという言葉は飲み込んで、とりあえず愛想良く微笑んでおいた。

 審判の兵士が私とアルドリック王子をそれぞれゆっくり見た後、試合開始の合図を告げる。


「始め!」


 王子は一瞬ふっと笑った後、威勢のいい声を上げながら思い切り正面から切り込んできた。


「はぁー!」


 私はその剣を自分の剣で受け、そのまま剣を翻すように回してすれ違いざまに王子に一撃を入れた。


「勝者、ヴァレーリア様!」


 兵士がそうあっさり告げる。私が訓練に参加している姿を知っている彼からすれば、別段驚くことではないのだろう。

 だが王子はそうではないようで、何が起こったのか分からないという表情をしていた。


「私の勝ちです、王子」


 私が静かにそう告げるとようやく気が付いたように口を開け閉めし始めた。自分の負けが信じられないのだろうか。


「ま、待て! 今のは私が油断してしまっただけだ! 今のが実力なわけがないだろう! 今のは無しだ! 仕切り直しをするぞ!」


 お約束のような男らしくない事を言い始めるが、後からこの試合は無効だったなどとごねられるよりははっきり納得させた方が良いだろう。


「わかりました、もう一度やりましょう」


 再び王子と向かい合って剣を構える。王子は先ほどと同じ中段だが、私は上段よりに構えた。


「始め!」

「ふっ!」


 先ほどとは逆に私が先に切り込んだ、王子はとっさに剣で受けたが、受ける剣の部位が悪い。そのまま王子の剣を躱すように振り切って一撃を入れた。


「勝者、ヴァレーリア様!」


 再びの敗北に王子は地団駄を踏んで怒り出した。


「違う! こうなる筈がない! 私が負けるはず無いのだ! 今のはたまたま運が悪かっただけだ! 実力ではない! もう一回だ!」


 年相応の怒り方なのだろうから仕方ないのかもしれないが、私は心の中で溜息をついていた。

 しかしアルドリック王子が負けを理解するまでは付き合ってあげるべきだろう、婚約破棄が無事に出来るならそれくらいは安いものだ。


「いいですよ、もう一回ですね」



 そう思えたのも五回目のもう一回を受けるまでだ。この王子は本当に負けを認める気があるのだろうか、もしかして私が気を遣って負けるのを待っているのではないだろうかとそんな気がし始めていた。

 闇雲に向かってきたり、奇をてらった定石外の動きをしたり、正攻法では勝てないともう気付いているだろう。


 九回目のもう一回を聞いて私はとうとう尋ねた。


「王子、失礼ながら私の勝ちが揺るがない事は分かられたかと思います。もう納得はして頂けませんか?」


 そう尋ねると王子は意地悪い事を考えているような目をしながらこういった。


「いいやもう一回だ! お前とて隙が無いわけが無いのだ、何度も戦えばいずれその隙も大きくなろう? そうなれば私の勝ちだ」


 なんとこの王子、いつの間にか勝手に自分の中で種目を変えていたらしい。しかし残念ながら恐らく体力も私の方があるのでどうあがいても勝ち目は無い。もう半刻もすれば日も落ち始めるし、いい加減にして欲しいものだ。


「最後に勝つのは私だ、頭脳の差だな」


 そういって自慢げに笑った王子に私の苛立ちが臨界点を突破した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ