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魔術の才能

 ピューズ入りのお風呂は若干色が予想以上だったが、それ以外は大成功と言える結果だ。


 色がつくほど濃く出ていたので、もしかしたらべたつくかも知れないと思っていたのだが、丁度よく保湿されているようなので安心した。


 十分に満喫した私がご機嫌なまま部屋に戻るとケーテが迎えてくれた。


 いつもなら就寝前に少し本を読むこともあるのだが、今日は午前中に初めて魔術を使ったせいかとても眠い。少し早いがナイトウェアに着替えて寝る事にした。

 個人的には用事がない日はお風呂から出た時にそのままナイトウェアを着てしまいたいのだが、お風呂から私の自室までは廊下を経由するので駄目らしい。


 廊下を経由する、とは言っても私の部屋周りの区間自体がお父様か私の許可無しには立ち入り禁止となっているので、他の人の目に触れる事なんてないのだが、それでも駄目なのだとか。面倒なものである。


「今日のお嬢様は何かとてもいい香りが致しますね。これは……ピューズの香りでしょうか?」


 私の着替えを手伝ってくれていたケーテが少しそう言った。


「えぇ、夕食後にピューズの皮などを貰ったでしょう? あれをお風呂にいれたの」

「お風呂にですか? お嬢様は時々不思議な事をなされますが、これ程いい香りがするのでしたらいいですね」


 ケーテが良い香りと言ってくれて私は安心した。私は大好きな香りだが、ここの人にとっては不快な匂いだったらどうしようという不安もあったのだ。

 ところで私はこれまでそんなにおかしな行動をとったつもりはなかったが、もしかしたら知らずに非常識な行動をしていたのだろうか。気にはなるがケーテがそんなに気にしていないものをわざわざ蒸し返すのも良くない気がする。これからは気を付けよう。


「それでケーテ、私はピューズ入りのお風呂がとても気に入ったのでこれからもたまに使いたいのだけれど、問題ないかしら」


 そう尋ねると、ケーテはすこし考えるように目線を下げた後に口を開いた。


「そうですね……今日と同じ程度のピューズでしたらお嬢様が毎日使われても大丈夫でしょう。ピューズは高級品ではありませんからね」

「あら、そうなの? それなら本当に毎日お願いしてしまうけれどいいの?」

「えぇえぇ、大丈夫ですよ」


 そう言ってケーテが柔らかく微笑んだので私はとても嬉しくなった。





「うん、いいねヴァレーリア嬢。その調子、じゃあそのまま藁を燃やさないように火の大きさも変えてみて。大きくしたり小さくしたり……うん、問題なさそうだ」


 この冬の間はルーペアトが滞在するという事だったので、他の教科よりも魔術の実技授業優先して回数を増やしている。


 ルーペアトの教え方が分かりにくいわけではないのだが、魔術が各々の感覚で扱うものであるという性質上、どうにも理解するのが難しい事も多い。


「よし、それじゃあ藁の中の薪だけ燃やしてみようか、もちろん藁は燃やさないようにね。薪が燃えた時の火も操るようにして……完璧だね」


 春が近くなってきた最近は火を操るのにもかなり慣れて来ていた。イメージとしては火を捕まえて手足のように支配する感じだ。


「うん、動かすのも燃やすものを選ぶのも完璧だ。大きさと温度が連動しちゃうのはやっぱりヴァレーリア嬢の課題だね」


 大きさと温度は何故かどちらかだけを弄るのが上手くいかないのだ。なんとなく圧縮するほど温度が高くなるようなイメージがあるからなのか、元の火より小さくすれば温度を上げられる。逆に大きくすると温度も下がる。


「ありがとうございます。後は火を出す方も練習したいのですけれど」

「うーん、ヴァレーリア嬢には多分無理だと思うよ。ある程度”色がある”人なら努力次第でそこそこで来たりするけど、ヴァレーリア嬢の場合そっちは無いようなものだし」


 割ときつい事をあっさりズバズバ言われた。ルーペアトはもう少し気遣いとか人の心について学ぶべきだと思う。


 ルーペアトの言う色とは髪の事だ。生み出す魔術は髪色が白に近いほど才能がない証となる。私の髪は白に近い桜色、つまり生み出す魔術は本当に最底辺なのだ。

 ちなみに魔術の才能が無ければ貴族としての存在価値が低くみられるが、髪と目のどちらか濃い方を基準に扱われるので私は貴族として優秀扱いとなる。 実用の面では目の方がより重視されるらしいので、その点でも問題ない。


「ですが、火を生み出せなければ操る元を探したり、他の方法で火をつけないとならないでしょう? 魔術を使わなければいけない事態の時、そんな余裕はないと思うのです」

チャッカマンやライターがあるならまだしも、この世界にはつけにくいマッチや火打石くらいしかない。


 悠長にそんなものを使わせてくれる余裕がある状況は想像しにくい。


「うーん、ヴァレーリア嬢が言う通り生み出す方が使えないのは相当不便だと僕も思うよ。でも無理なものは無理だ。ヴァレーリア嬢がどういう状態を想定しているのかは分からないけどさ」


 そういって切り捨てたルーペアトの目にはふざけているような色はまったく見えない。


「だって一度試したときに小さい火も火花も出なかったでしょ? あれだけ火を操れて火の感覚を理解しているんだから、出す方もそんなに苦戦するはずないんだ。それでも出来なかったんだからヴァレーリア嬢には無理だ」


 火を生み出せない私にはその感覚が理解できないが、言い方から察するに操るのも生み出すのも感覚としては似ているのだろう。私は臍を噛む思いで絶対に手が届かないという現実を飲み込んだ。


「僕は明日の朝には帰るけど、ヴァレーリア嬢はこれからも感覚を忘れないようにちょくちょく自分で練習してね」


 突然の宣言に目を見開いた、明日で帰るなんて初耳だ。思わず困惑した声を出してしまう。


「私、そんな話は聞いた覚えがありませんけれど……?」

「うん、今日教えながら決めたからね。これだけ出来れば僕が監督していなくても十分扱えるって思ったんだよね、これくらい出来ればお山……あー、学園でも通用するだろうし」


 自由過ぎる。何事も事前に話を通しておかなければいけない貴族社会に生きる者とは思えない。


「それに僕もそろそろ自分の研究室に帰りたいし、吹雪にももうならなそうだからね。あとうちで世話してるラプフェアにも会いたくなってきたんだ」


 ラプフェアが何なのか私には分からないが、口振りからしてペットか何かだろうか。

 あっけらかんとした姿に頭が痛くなってきた気がする。魔術の授業中はルーペアトも比較的普通なのだがそれ以外の所があまりにも噛み合わない。


「……そうですか」


 突っ込む気にもなれずそのまま流した。視界の端のリッサが私と同じく頭の痛そうな顔をしているのがちらりと見えた。


後半部分をざっくりまとめて次の話に行くかとても悩みましたがこの形に。

進展が殆どなくて辛いけど丸ごと飛ばせる話でもなく。


11/14 最後のルーペアトの台詞周りをちょっと修正。

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