プロローグ
「なんだね立木君、この資料は! おかげで大恥をかいたのだぞ、わかっているのか! 」
「大変申し訳ございません。」
目の前のスーツを着た肉達磨が脂汗を飛ばしながら激しく罵ってくる。
なんでも私が作成した資料の一部が他の部の決算内容と噛み合っていなかったらしい。
肉達磨から資料作成の為にデータを貰った私が事前に確認を取った事も、そんな細かい事を、なんて嫌そうに追い払ったことも忘却の彼方に行っているようだ。
こんなのは日常茶飯事だ、数年働いていれば嫌でも慣れる、その証拠にこの薄暗いフロアにいる他の社員はこちらの事を全く見もしない。
ただ、それでも徹夜明けにやられて嬉しいわけじゃない。
頭を下げたまま上司の気が済むまで怒鳴られた後、ため息を堪えながら自席に戻る。
眉間に皺が寄っている自覚をしながら、机の上に積もった資料を倒さないようエナジードリンクの缶をひっつかんで煽……れなかった、
空だ。そういえば買い溜めていた分もこの空き缶でラストだった。
今度こそ堪え切れずため息を付きながらデスクを立つ。
グループリーダーに私が呼ばれた時には反応すらしなかった初老の同僚がちらりとこちらを見たが、空き缶を持った私が軽く会釈して歩き出すとすぐに興味を失ったらしく視線を下げた。
廊下も電灯が古くなっているせいか昼なのに薄暗く感じる。行きは下りだから良いんだけど、まとめ買いした缶を持って上るのが辛いんだよね、なんてことを考えながら私は階段に足をかけーー
「へ……?」
そんな間抜けな声と共にバランスを崩し。
あぁ電灯が古かったんじゃなくて徹夜で視界が狭くなっていたのかも知れないな、なんてこれまた間抜けな思考を最後に意識を手放した。