光烈の国の街へ
光闇の魔導師に関する説明をはじめた途端、まるで別人のように親切な口調で語りだしたミラに呆気に取られはしたが、とりあえずの疑問は解決したように思えた。
だがまだまだ知らないことは多いらしい。たとえば、光闇の魔導師の『特性』は他の魔導師とは少し違うらしいこと。他には魔鬼獣という存在のこと。さらには旅の目的、これが説明されていない。
ミラは、「時が来たら話そう」と言った。
「さてリーダー。進むべき道を助言しよう。今も各国は小競り合いを続けている現状、旅をするにも危険な地域というものが多々ある。だから今回の旅をするにあたっては、諜報員の情報を大切にする。つまり、争いが小康状態で比較的安全な箇所を回っていく」
「回っていくということは、各地を旅するということ?」
「そうだ。六国すべてを訪れなくてはならない」
「六国全てを……」
「まあ、一筋縄でいく旅ではないな。まあ、そのために私たちがいる。安心して、リーダーは悩んだり、苦しんだりするといい」
「何のために六国を回るんだ?」
「旅の目的は最初の国にたどり着いたら話す。百聞は一見に如かずだ。旅をしながら、最低限の知識や情報をお前に与えていこうと思っている。異論はあるか?」
「別にないけど……」
「ならば諜報員からの情報を待つぞ。ただ待つのも味気ない。街を歩いて回って、民たちの言葉を聞け。彼らは勝手にお前に近づいてくるだろう。お前はもう街中の話題になっているからな。いいか、お前は民の期待に応えなくてはならない。それが光闇の魔導師の役割だ」
ミラはトウヤに近づくと、「これはもう捨てろ」、と言って彼のカラーコンタクトを外させた。
「変装などもはや必要ない。堂々と街を歩け。民から苦しみの声を聞け。そしてお前も悩むんだ。一緒になって、彼らと共に。悩むんだ」
「……」
ニルスオーラヴは戦国の世だというならば、たしかに民たちは苦しんでいるはずだ。
ずっと戦い続けてきたのは兵士や王だけではないだろう。
魔鬼獣という存在についても聞いてみるのもいいかもしれない。他には例えば、この国の住み心地はどうか、とか、最近の悩みとかを聞くのもありかもしれない。
なんだ、僕は意外と社交的なのか、とトウヤは思った。
肩をぽんと叩かれる。
エレグはむすっとした顔のまま、ぽん、ぽん、とトウヤの肩を何度か叩いた。
言葉は何もなかったが、きっとこの人は暖かい人なんだろうな、と朗らかな気持ちになる。
「護衛、よろしくお願いします、エレグさん」
「さんは、いらん。これから旅をする者同士だ。呼び捨てでの方がやりやすいだろう」
「はい。エレグ」
「頑張れよ、トウヤ」
そこまで会話してからふと気が付く。
そういえばミラは一回も僕の名前を呼んでいないような気がする。お前、か、リーダー、か、のどちらかだ。あんなにくっちゃべったのに、一度も呼ばなかった。
そういえばミラは白髪だ。ということは、彼女も召喚されし魔導師なのだろうか。
その疑問を尋ねようとしたが、すでにミラの姿はなかった。すでに宿屋の外へと歩き去っていたのだ。
「まあ、いつでも聞けることだしな。旅をしながら、聞いてみよう」
ドウヤも歩き始める。
そして、光烈の国、その街並みを見て回った。
彼は、ひどく歓迎された。