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最終話 その決着と行き着く終着点


「ミラ。炎は使っちゃダメだ。この人を燃やしてしまえば、光烈の国と本当に争わなくてはならなくなる」


「この金槌で戦えとでもいうのか? 私は非力な幼女なんだぞ」


 どの口がいうのか。

 ミラが魔導を使わないとなると二体一でも勝てるかどうかは怪しいだろう。光の王ともあろろう人なら、確実に強き者であるはずだ。


 しかし、この場は、なんとかこの人を殺さずに戦闘不能にして、どいてもらわなければならない。


 ミラの魔導では加減が効かない。


 ならば僕の特性を活かしてなんとかするしかないはずだ。

「ミラ……、僕は『強化』と『鼓舞』を、同時に使いこなしてみせる。だから、それを発動するための時間を稼いでくれ」

「さっさとしろよ。長く持つものではないぞ」

「わかってる」

 二人は示し合わせたように、同時に動き始める。ミラはコラージュに向かって行き、トウヤは距離を置いて集中をはじめる。


 コラージュの剣を、ミラの金槌が弾く。


 時間を稼ぐための防御に徹した構えであれば、そこまで遅れを取るようでもないようだった。

 それを理解したのか、コラージュは一旦引き下がり、そして剣を三日月の形に回転させた。


 構えている。ということは……。


「武練術が、くるか」


 ミラはそう呟くと、金槌を手放して地面に転がした。


「防御に使うならば、問題あるまい」


 ミラの掌から、炎が溢れ出す。

「羅刹光烈破」

 コラージュがそう呟くと同時に、剣が一気に何本もに増えて、それらすべてが地面を滑り、衝撃波を生み出した。何本もの剣によって生まれる、何発もの衝撃波。


 それが一気にミラへと襲いかかる。


 だが、それらすべての衝撃波は、実に簡単に、炎によって朽ち果てる。


 ミラの炎は防御に関しても優秀であった。

「さて……どうする、コラージュ。いくらなんでも、これで終わりではあるまいな」

 コラージュは無言のまま、指を弾いた。


 パチン、というそんな小気味よい音とともに、地面から衝撃波が現れた。


 衝撃波が、隠されていたのだ。


 しかしミラはそんな攻撃は予測していたとでもいうように、炎ですべて焼き払った。

「くっ……やはり、貴様が一番の障害なのか。紅蓮の魔導師よ」

 コラージュは悔しそうに呻くと、剣を地面に突き刺してから言った。


「ならば。私も切り札を使うしかあるまい。これは、使いたくなかったが……」


 切り札。その言葉に二人は警戒する。


 コラージュは大きく息を吸い込んで、

「剛烈光体」

 と叫んだ。すると彼の肉体が、みるみる変化していく。


 まるで筋肉の塊であるかのように、コラージュの全身が膨張し、身体が二、三倍ほどに膨れ上がったのだ。今まで見たどんな人間よりも、大きい。


「僕だって、負けてはいられない! 行くぞ! 『強化』、『鼓舞』の二枚重ねだ!」


 集中を終えた二つは初めての試みを成功させる。二つの特性を同時に発動させるという光闇の魔導師にしかできない荒技である。


「よし、肉体や精神の昂ぶりを感じる。よくやったな、リーダー」


 ミラが落ちていた金槌を拾い上げて、コラージュへと突っ込んでいく。


「舐めるな! この状態になった私は、簡単には止められんぞ」


 ミラから振り下ろされる金槌を、コラージュが拳で受け止める。技によって強くされた者同士によるぶつかり合い。つまり、どちらの技が強力なのかという点を争うということになる。


 だが、ミラは元々魔導師である。肉弾戦が得意な身体をしていない。


 その点でいえば、圧倒的にコラージュの方が強靭であった。

「ちっ」

 ミラは舌打ちをしながら一旦距離を開けた。


 その代わりにコラージュとの距離をつめたのはトウヤである。『強化』による肉体や精神の強化はさらに進化を続けている。戦いながら、成長していく。『強化』は特にその成長が早いようだ。

「光の王よ。どいてくれ!」

 トウヤは叫びながら、剣を振りかざし、それが弾かれてしまうと、空いていた拳で腹を思いっきり殴った。


「ぐっ」


 効き目があったらしく、コラージュが呻く。しかし、彼は退くことを知らなかった。


 拳による連続攻撃。『強化』されたトウヤに一気にそれが放たれ、彼はその衝撃のあまりに血を噴き出しながら吹き飛んだ。


「くそ。なんだこのパワーは。これが武練術の力」


 しかし異変が生じる。


 コラージュは苦しそうにした。

「うおおおっ」 

 彼は咆哮し、そしてそののち、何かを悟ったように目を閉じながら言った。


「時間切れだ……。なるほど、どうやら君たちの勝ちのようだ」


 コラージュの身体がみるみるしぼんでいく。

 元の大きさまで、戻っていった。

「強力な力である代わりに、あまり長くは発動できないというわけか。集団戦闘や戦争には向いていない武練術のようだな」


 ミラがそう評する。


「勝った……のか……」


 トウヤは微笑みを浮かべて、『強化』と『鼓舞』を解除した。

 その瞬間であった。

 コラージュが、指をパチンと鳴らしたのは。

「悪いが、負けたというのは、嘘だ」

 彼の本当の切り札は別にあったのだ。


 衝撃波は、まだ隠されていた。地面から剣が現れると、それが地面を再び切り裂いて地面から衝撃波を発生させて、ミラへと襲いかかったのだ。

「まずは彼女から行動不能にさせてもらう!」

 ミラは炎の盾を作ることによって、それを防御しようとした。だがそれが間に合わない光景が、トウヤにもはっきりと映った。


 衝撃波が、小さな身体を切り裂いて、そして左手を切り落とした。


 鮮血を吹き出して、倒れる。


 彼女は、動かなくなった。

(ミラには『不死』の特性がある。問題ないはずだ)

 トウヤはそう思ったが、不思議なことに、ミラは起き上がらない。


 血ばかりが、流れている。


 どうしたんだ。


 おかしいじゃないか……。

「……おい、ミラ! どうしたんだよ」

 そんなことを言っても、起きる気配は一向にない。


「なんで、立ち上がらないんだ」

 嫌な予感がした。

「お前、まさか、特性が……」


 どんなものでもいつかは古びて、朽ち果てていく。象徴だって、それは同じ。


 特性もそういうものだとしたら。


 古びて、やがて失われて、消えていくものなのだとしたら。


 なんでこんな時に勘が働くんだ。


 僕の勘はよく当たる。だが、こんな時に勘が当たってしまったら、それが意味することは……。


「死ぬな、ミラ! お前は、紅蓮の魔導師なんじゃないのか!」


 コラージュがゆっくりと倒れているミラへと近づいていく。

「とどめを、刺す」

 そんなことをいう彼を、止めなくてはならない!


 トウヤは『強化』だけ発動し、ミラの落としていた金槌を拾い上げて、それを武器としてコラージュへと振り下ろした。


 それは実に簡単に振り払われて、そして蹴りで吹き飛ばされる。

「がぁっ!」

『強化』しているはずなのに、まったく通用しない。

 かつてのアレクスなんかとは比べ物にならない。あのまったく適わなかった四本足の魔鬼獣、それよりも、この人は強いのか。


 これが、光の王コラージュの力。


 このままでは……。


 ミラを早く手当しなければならない。まだ、死んでいる訳ではないはずだ。

「終わりだ」

 コラージュはいつの間にか彼女に近づいていた。


「やめてくれ、お願いだ」


 トウヤは懇願した。だが剣は、容赦なく振り下ろされた。


 剣がミラの身体に深々と刺さっていく。


 その光景を見た瞬間に、何かが外れた。

「え……」

 トウヤはその外れたものの正体がすぐにわかった。


 怒りの感情の枷、だ。


「うわああああああああああああああああ」


 トウヤは意識しない内に力の限り叫んでいた。すぐにその力が全身を駆け巡り、何かが変わっていくことがわかった。


 ミラの身体から剣を引き抜いたコラージュは、トウヤを見た。


 そして、彼は垣間見る。


 紅蓮に染まった、トウヤの両眼を。

「……燃やさせてもらう、光の王。あなたは許さないと、今決めたから」

 コラージュは信じられないものを見る。


 トウヤの両腕から、紅蓮の炎が滾っていたのだ。

「なに!?」

 そしてそれが巨大な火球となり、コラージュへと一直線に吹き飛んでくる。


 コラージュは避けられる、となんとかわかった。


 避けられる、はずであった。


 頭ではわかっている。しかしなぜだか、身体が動かない。


 とても身体が重たい。まるで、台風でも吹き飛ばされることのない巨大な大岩のように、身体がとてつもなく重たい! それだけではなく、これは、目眩だ。目眩がする。


 コラージュはこれは特性だ、と察した。


 しかしどんな特性なのか、それがわからない。

「死……」

 彼は思わず死を覚悟した。紅蓮の炎の熱が、彼の肌を焦がす。


 そんな彼の目の前に、人が立ちふさがる。


 光の国、王の側近ガラリア、その人であった。

「光烈の国の王、コラージュ様。あなたが大陸を統一することを私は夢見……」

 彼女が最後まで言い切る前に、火球は彼女の全身を焦がして、灰にした。


 命を賭して、コラージュの命を守ったのだ。


「まるでミラの放つ炎のように、とても手には負えないほどの炎だ。ガラリア、すまない。仇は必ずいつか討つ。だが、この場は、逃げなくてはならない。たとえ王の誇りを捨てるとしても、ガラリアに助けられたこの命、なんとしても無駄にしてはならない。私は、逃走する。この屈辱は、必ず忘れんぞ、トウヤ!」


 コラージュは、そう言い残すと武練術を使ったのだろうか、恐ろしい程の速度でその場から立ち去っていった。


 残されたトウヤの紅蓮の両眼は光闇に戻り、そして彼はミラへと駆け寄って、彼女の細い身体を抱き上げた。


 ミラの両眼は真っ黒になっていて、虚空を見ていた。

「しっかりしろ、ミラ。コラージュは退けた。どういう力なのかはまだわからないが、新しい特性にも目覚めることができたらしく、ミラの炎を借りて奴を撃退できたんだ。僕たちが勝ったんだ。これからこの国を脱出して……」

 そこまでいってから、トウヤはミラが声を聞いていないと気が付く。なんの反応もしないのだ。


 涙をこらえてから、トウヤは続けた。


「旅に出るんだ。僕らを光烈の国からかくまってくれるような国へ行こう。そうだ、闇牢の国にいって助けを求めよう。闇の王レイドウには会ったことがあって、とても気の良さそうな人だったから、きっと協力してくれる。……聞けよ、聞いてるのか、ミラ。これからの、大切なことなんだ。生きてくれなくちゃ困るんだ。こんなところで死ぬな。こんな僕を助けて、お前が死ぬなんて……」


 そこまで言うと、こらえていた涙もこぼれてしまった。


 その涙をぬぐってくれた。


 ぬぐってくれたのは、斬り落とされてない方の、ミラの指だった。


 ミラが呻くように、言葉を紡いだ。


 苦しいはずなのに、とてもはっきりとした声音だった。

「こんなタイミングで、まさか『特性』を失くすとは、思わなかったな……。噂には聞いたことがあったが、本当のことだとは思わなかった。だが、数百年もの時が過ぎれば、力が失われてしまうこともわからない話ではない。普通は特性は失われないのだ。私のようなケースは、特殊だろうな。何百年も生きる魔導師など、私以外には存在していないからな……」

 彼女の両眼に紅蓮の色が戻っていた。


 だが、顔色はとても青白い。血も、止まっていない。


 涙をぬぐってくれた指は、震えている。

「なあ、どうして人は死ぬ宿命を背負っているのだろうな。私はそのことが、たまに、不思議だったよ……。みんなが不老不死ならば、私の人生は変わっていただろうか、と考えるんだ。だけど死ぬ間際の今になって、やっとわかったよ。人は、死ぬために生きているんだ。やがていつか終わるその時までどんな人生であろうと、死ぬ時にはすべてが救済されていく……。ああ、そう考えてみると、この世界のすべての死んでいった人間は、すでに救われていたんだな……。なあ、はっきりいっておくぞ。……トウヤ、救世主など目指すな。人が人を救う必要なんてないんだ。すべての人間は勝手に生きていって、そして死によって、救われていくのだから……」

 トウヤは泣きながら微笑んだ。

「ミラ。今、僕の名前をはじめていった。なんで、遅いよ。今更になって、名前を呼ぶだなんて、本当に素直じゃないんだからな。なあ、ミラ……」

 しかし、言いかけた言葉をトウヤは飲み込んだ。


 しばらくの間、誰も話さなくなった。


 あれだけ喋っていたミラの、その指が、ぽとり、と胸の辺りに落ちた。


 とても、安らかな顔をしている。

「おい、ミラ……」

 彼女は、救われてしまった。


 目を閉じてしまって、どうしてか開かないのだ。


「そんなのないよ。……くそ……くそぉ……」


 トウヤは呻いた。涙がぽろぽろと何粒でも落ちてしまうが、もうミラがその涙をぬぐってくれることは絶対にないのだ。


 彼女は、死んだ。


 立ち止まっていてはならない。前に進まなければならない。


 大切な仲間の遺志を引き継いで、その生きていた証拠を誰かに教えるためにも。


 だが、立ち上がれない。


 トウヤは、多分ミラのことが大切だった。


 一番大切な仲間だった。そして、師匠だった。


「もう一度、名前、呼んでくれよ。一度だけじゃ仕方ないじゃないか。僕だけじゃない。エレグやナーシャだって口には出さないけど、ミラに名前で呼んでもらいたかったんだ。なあ、本当に死んじゃったのか、ミラ。お前、本当はドッキリかなんかを仕掛けて得意気になってるんじゃないのか。わかってるんだ、僕は。なあ、わかってるんだぞ……聞けよ、聞いてくれ。くそ、くそ、くそぉ……」


 彼はやがて立ち上がって、ミラを抱き抱えて、王城へと出た。


 抱き抱えられているミラは、本当に、眠っているようだった。


 暗闇から、エレグとナーシャが駆け寄ってくるのが見えた。


 トウヤは、まだその二人は生きている、と感じた。


 ならば、やばり前にいかなくてならないのだ。


 唇を噛み締める。

 血が流れてしまうほどに強く、噛み締める。

 痛みがある。


「みんな。……ミラは、」


 僕たちが見送らなければならない。

 彼女が見送ってきたその多くと同じようなことを、彼女にしてやるのだ。

 弔いの歌を歌って、綺麗な墓を建ててあげよう。


 少しの間、お別れをしよう。


 トウヤがそう思った直後に、けたたましいサイレンが鳴り響いた。これから追手が差し向けられることになるだろう。逃げなくてはならない。


 暗闇の中を駆けて、急いで光烈の国を離れようと試みる。


 馬車が待っていて、僕らを乗せる。


 闇牢の国へ向かうのだ。


 トウヤたちを乗せた馬車はがたんごとんと揺れて、どんどん光烈の国を離れていく。


 真っ赤な星が夜空に煌めいている。





 まるで、紅蓮の魔導師その人のような、燃え盛る色をした星だった。















第一部は終わりです

第二部を書く予定でしたが、他の予定などが重なり、いつ続きを書くかは不明になりましたので、とりあえず完結という形にすることになりました。


ご迷惑をかけて申し訳ありませんでした。そして読んでくださった方、本当にありがとうございます。


高評価、低評価、感想、などなどなんでも、どうぞよろしく。

それでは、失礼します。

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