旅立ち
「起きろ、トウヤ。……飯ができてるぞ」
夢も見ないほど熟睡していた。トウヤは伸びをして、身体をほぐした。
「ん、ああ、おはようエレグ。今日もおいしい料理が食べられると思うと、朝から元気が出るな!」
「急がんと、ミラに全部食べられるぞ」
「そうだね」
宿の食堂に並べられているのは山盛りの肉と、エビなどの魚介類と、野菜炒めやスープなどであった。それらの料理は量が多かったが、ミラがたくさん食べるのを見越したエレグの調整の結果であった。ナーシャとミラはすでに座って料理をぱくぱくと食べていた。
「私、感動してますよ……! こんなに上手い料理、お城で食べてた一流シェフのものよりもおいしいと思います!」
「ふん、筋肉男というより、料理男といった具合だからな……おいしい」
ミラは相変わらず人を名前で呼ばないが、まあ、素直じゃないといったところだろう。
どこか、以前までの冷たさのようなものが、彼女からなくなっていた。
「このエビ。味付けが最高! エレグの料理、ほんと最高だよ!」
トウヤもどんどん食べていった。
「そうか」
エレグはそっけない返事をして、厨房へと消えていった。
ナーシャは村の子供たちが可愛いという話を詳しくトウヤとミラに聞かせながら、彼女も結構な量の料理を食べていた。女性陣はみんな大飯食らいである。
太るとか、気にしないのだろうか。
まあ、うますぎるから仕方がないか。食べるのを我慢するほうが無理だ。
そんな感じで料理を食べた後は、片付けを手伝い、出発の準備をした。
『マリスマス村』を出発する準備はすぐに整った。
「みなさん、昨晩はよく眠れましたか!」
御者さんが朗らかに挨拶をしてくれる。
「光烈の国まで、お世話になります! よろしくお願いしますね!」
ナーシャが明るく挨拶をする。
エレグとミラは相変わらずむすっとしていた。
トウヤも軽く挨拶をして、馬車に乗り込んだ。
他のみんながそれに続こうとしたところで、御者さんがミラを引き止める。
「あ、手紙が届いてますよ。ミラさん宛です」
「ん……諜報部の手紙か?」
ミラは馬車に乗る前に手紙の封を開ける。
立ったまま、それを読んだらしい彼女は、その手紙を燃やした。
「光烈の国に急げという催促の手紙だ。私たちが村で一日を過ごしたから、むこうが心配したといったところだろうな」
「なんで燃やしたの?」
ミラは何か考えるかのように、一瞬、間が空いたが、それはほんの一瞬だった。
だからトウヤはやや違和感を持ったが、気にするほどではなかった。
「……読んだのだから、もう必要ないだろう? こんな必要事項を書いただけのような手紙、取っておいても仕方がないしな」
「それもそうか」
そんなことを会話してからミラ、エレグ、ナーシャも馬車に乗り込んでいく。
「ナーシャおねえーちゃん。また遊んでねー! ばいばーい!」
そんな声が外から聞こえる。子供たちの声だ。
ナーシャも身を乗り出して、ばいばーい、と子供達に別れを告げた、
こうして、僕らは光烈の国へと旅立った。
象徴が僕を待っている。
このときはまだ、ずっとこれからも同じような旅が続いていくものだと思っていた。
だけど、世界は残酷だ。
それを僕らは、思い知ることになる。