トウヤ
「ん……」
はじめに、なんだろう、ここは、と彼は思った。
そして戸惑ったまま周囲を見渡してみると、大勢の人間が彼を取り囲んでいるのだと気がついた。
そして思う。なにも思い出せない、と。
一人の男が近づいてきた。両眼が光のように輝いている男だ。なにか獅子のような絵が描かれた甲冑を身にまとった人間だ。
まさしく彼は光の王コラージュであったが、彼にはそんなことはわからない。
光の王コラージュは訪ねた。
「君の名は」
「トウヤ」
自分でも驚く程すっと出てきた言葉だった。まるで自分の口が紡いだのだと思えなかった。だが間違いなくそれは彼の、自分の名前であった。
だが思い出せるのはそれだけだった。どこから来たのか、なぜここにいるのか。なにもわからない。トウヤは頭を抱えて、その場にうずくまり、そして倒れた。
「大丈夫か! ……、急いで、彼を地上に運ぼう。風の王よ、ご老体を鞭打つようで申し訳ないのだが、力自慢のあなたに手伝ってもらいたい」
「大の男なら俺だってそうだが?」
「わかったようなことを聞くのはやめろ、闇の王よ。お前の力を借りたいとは思わない」
「ははは。……わかってるよ、光の王」
光の王コラージュはたしかに見た。
トウヤと名乗ったその青年が、光闇の両眼を持つことを。
右眼に光の眼を、左眼に闇の眼を。
それすなわち、すべての属性を備えし証拠。
「おそらく、召喚は成功した。人類は、この大陸を統一するための救世主を、呼び寄せることに成功したのだ。六属性を備えし魔導師。六つの魔導宝具の力を与えられし幸運たる器。その大きな器に全てを賭けるとしよう。さあ、みんな、地上に戻ろう。ここはいささか、空気が悪いからな」
六人の王たちがその場を後にする。
設置されていた六つの魔導宝具はもはやその場には無い。
闇の王レイドウは最後にその場に振り返り、そして目を瞑って、やがて開いた。
「六つの属性……。六つの特性……。そして光闇の両眼か……。さて、あいつが聞いたらどう思うかね……」
彼はそんなことを口にしてから、そして、小さく笑った。
「光闇の魔導士。一体どんなやつかな。酒でも飲ませれば、それもわかるかな……」
まだ誰にもわからないこと。
それはトウヤと名乗ったその人物が、一体どんな人間であるのかということ。
たしかにそれは、誰にもわからないことだった。