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少し唐突なその大切なものへの希求


 宿は二部屋とってあり、ミラとナーシャが同室、トウヤとエレグが同室となった。


 古いが清潔感のある部屋で、快適に夜を過ごした。


 そして、綿飴のようにふかふかのベッドで、眠りについた。

「おやすみ」

「ああ」

 トウヤはアレクスとの戦いや特性の練習のために疲労感が激しく、すぐに熟睡した。


 だが、異変は、眠っている最中に起った。それは、これまで経験していなかった、特性というものの異変であった。


 私はまず前からあった心臓の痛みが激しくなってきたことに、そして俺は戦場へと赴くたびにあの魔鬼獣の姿を探し、そして私はブレンシードを授かり、病から解放されたのだ。私は長年、仕事を続けている内に思うのだが、この村は実にいい村だ。人々は優しく、料理はおいしく、あまり儲からないが働くこともとても楽しいから、家庭を持つ必要などやっぱりないのだが、俺は家庭を大切にしていきたいと思ってきたが、それでも戦場の血の匂いが俺を呼んでいるから、子供や妻を置いてまた戦って、戦って、戦い続ける。私は、こんなことをしていていいのだろうか。遺跡の探検は楽しいが、これは楽しいだけで、何の進歩もないような気がする。姉は、日に日に風の国への憎しみを募らせているし、国全体がそれに引っ張られるように、風の国を滅ぼそうという気配を強めている。変わらなくてはならないのだ。この国も、そして私も。


 トウヤは嘆く。こんなものは見てはいけない。


 人の抱えている思いは、その人のためにあるものなのではないだろうか。


 勝手に僕がそれを知る権利なんて、あるはずがない。

「でも、それを知ることで、本当の仲間になることができるとしたら」

 僕が呟くと、エレグやナーシャ、そして村の人々たちが拍手をした。彼らは僕を賞賛してくれていた。仲間たちをより深く知ることができれば、僕たちの絆はより強まっていく。


 きっとその絆というものが、世界を救うのではないか。


 ならば、僕は、知りたい。


「ミラ! 教えてくれ、君の過去を、苦しみを、悲しみを、冷たさの理由を!」


 視界が砕けて、みんながどこかへと落ちていく。


 僕もくるくると回っていた。


 だがやがて、地面が生まれて、その地面に足をつけると、地平線が広がった。どこまでも続く地平線と、真っ青な空や、流れていく雲。それ以外には何もない、とても広くて、そしてとても綺麗な場所だった。


 そこに、一つの灯火があった。浮かんでいるその火の玉に、僕は触れた。


「ねえ、私のことなんて、どうでもいいでしょ?」


 背後から声をかけられた。


 振り返ると、そこにはミラがいた。


 だがミラじゃない。それはミラであって、ミラではないのだ。


「本当に、知ってしまうの? 秘密の鍵で閉められた、封印された、長い年月を、紐解いてしまう権利があなたにあるの?」


 権利なんか必要ないのだ、ミラ。


 僕たちに、そんなものはいらないんだ。


「教えてくれるかい。きっと、僕たちの力になってくれるはずの、大切なことだから」


「……わかった!」


 彼女は朗らかに笑うと、透明になっていって、やがて消えた。

 僕は再び前へと振り向く。

 火の玉が、燃えている。

 僕はそれに、触れる。


 すると火の玉に意識引っ張られていくような力が働き、私はそれに吸い込まれて火の玉へと溶けていく。暖かな火の魔導の力は、私のすべてであり、僕を守ってくれる暴力でもある。私はそういえばどうして戦っているのだっけ。大切な理由があるはずだ。僕は仲間と期待に応えるために戦うのだ。それと同様のものを、私は持っているだろうか。それを覚えているには、私の年月はあまりにも長すぎた。あの辛い記憶も、戦場の匂い、魔鬼獣の腐敗臭も、もはや大切なことを思い出させてはくれない。なんで私は召喚されてしまったんだろう。こんな、まるで腐り果ててしまった燃やすべき世界に、なぜ私たちは召喚されてしまったのだろうか。僕は、なぜ召喚されたのだろう。


「記憶を、僕に返してくれ!」

「私に大切なものを、与えてくれ!」


 僕たちの意識は線にしがみついて、その線を手繰り寄せて進んでいく。

 見つけだすんだ、あなたの大切なものを。



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