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読心



「……ここは?」

 目を覚ますと、全身に痛みがあるとすぐに気が付く。


 痛いのを我慢しながら周囲を見回すと、エレグとナーシャの姿があった。


 二人とも俯いていたが、トウヤが意識を取り戻したことに気が付き、顔をあげた。

「大丈夫か、トウヤ」

「怪我、痛くないですか、トウヤ」

「うん、ありがとう」

 そこは牢屋であった。牢の外には盗賊が二名、見張りとしてだろう、トランプをして暇つぶししていた。


 ここは、あのアレカルという盗賊の、アジト、みたいなところだろうか。


「お前が気絶したあと、すぐ近くのこの場所に連れてこられた。だが奴は御者を取り逃した。その御者がこのことを誰かに教えれば、助けも来るかもしれん」

「そうなんだ。御者を取り逃したってのは、こっちにとっては幸運だね……。というか、案外間抜けなんじゃないか、あのアレカルという男。さっきも単純な作戦に引っかかってたし……」

「やつは魔導師だ。特性を持っている時点で、危険な相手だ」

「ていうか、なんで魔導師が、盗賊なんかやってるんでしょうか……」

「個人の事情など知らん」

「素行が悪くて国を追い出されたんじゃない。それで金が欲しくて僕らに狙いをつけたってところか……」

「だが奴はトウヤの情報を知りすぎていた。なにか、不自然だな」

「なにかがある、ということ?」

「単純に盗賊に金目当てで襲われたというだけではないのかもしれん。どこかの国の思惑が絡んでいる可能性もあるかもな」

「僕らの旅を邪魔したい者の策略だということ?」

「あくまで、可能性だ」


 そんな会話をひそひそとしている内に、どうにかこの牢屋を抜け出せないかという話になった。


 しかし見張りもいるし、牢もどうやら特別に頑丈な仕組みになっているから暴れても無駄だとアレカルに言われたらしい。


「僕の『強化』の特性を使えば、牢を破れるかもしれない」

「いや、それでは足りん。『鼓舞』を使え、トウヤ」

「あの特性は、まだ使い方がよくわかってないというか……」

「お前ならやれるはずだ」


 信頼されているらしいのはありがたい話だが、やり方は誰かに教われる訳ではないのだ。


 だが確かに、もともと貧弱な僕自身を『強化』するより、豪腕のエレグを『鼓舞』した方が牢を破れる可能性は高いように思える。


 となれば、やはり、ここで特性を自由に扱えるようになるしかないのか。


「時間が欲しい。……練習してみる」

「トウヤならできますよ。時間なら、いくらでもあるでしょうし……」

「あんな盗賊に身代金を与えるのは屈辱だ。そうならんよう、こんな牢はさっさと破って脱出するぞ」

「だね。あんな男に金をあげたくないのは、僕も同感」


 そういうわけで、トウヤは集中した。


『強化』を発動するような時の気分を思い返してみて、その時の感覚で、『鼓舞』を発動させてみようと試みる。それを、約三十分くらい続けた。


 だが何の成果も得られない。


『鼓舞』を自分の物にすることは、まるで雲を掴むような感じだと思った。


 そんなトウヤの様子を見かねて、ナーシャが言う。


「『強化』と『鼓舞』って、根本的に違う性質なんじゃないでしょうか」


 どういうことか、と思い、そうか、と理解する。


「『強化』は自分に使う特性だが、『鼓舞』は仲間に使う特性……」

「そうですよ! トウヤさん、それができない原因なんじゃないでしょうか」

「ナーシャ。お手柄だ」

「褒めてくださってありがとうございます! やった、エレグに褒められましたー!」


 つまり自分自身に向けて集中しても意味がないのだ。


『鼓舞』をかけたい相手に向かって、意識を集中させればいいということか。

「やってみる」

 トウヤはエレグに顔を向けて、強く念じる。


 すると不思議なことが生じた。トウヤの意識は飛翔し、エレグと重なったのだ。その重なりがどんどん時間を遡り、トウヤはエレグの人生の一部分をそこに見てしまった。それはセレナがぐちゃぐちゃになって地面に転がっている映像、幾多の戦場の映像、先日のラングザードとの武道大会の時の映像……意識と映像が交錯し、エレグの過去を追体験しているかのような感覚を味わう。


 これは、『鼓舞』では、ない?


 しかしこの現象は明らかに普通ではない。


 新たな、特性、だとでもいのだろうか。

「うわああああああ」

 トウヤは叫んでいた。人の人生を覗くという行為の罪悪感に耐えられないような辛さが、彼を叫ばせていた。


「うるせえぞ、金づる共!」

「黙ってねえと、痛い目に遭わすぞ!」


 見張りの盗賊が怒鳴り声をあげる。


 トウヤは気持ちを落ち着かせて、二人の方を見る。

「どうしたんだ、急に」  

「だ、大丈夫ですか、トウヤ」

 二人はひどく心配した。トウヤはエレグに対する罪悪感から、すぐに彼から目を反らした。


 この特性は、見てはいけないものも見てしまうものなのかもしれない。


 三つ目の特性。


 トウヤはそれを、『読心』、と心の中で名付けた。


 今はこんな特性を発動させている場合ではない。この特性では牢を抜け出すことなどできるはずはないのだ。今必要な力は、『鼓舞』なのだ。


 トウヤは再度集中してみる。再び、エレグに向かって、今度は念じるのではなく、彼に見えない力を送り続けるような気持ちになってみた。


 それを、続けること数分後。

「トウヤ。どうやらお前は特性を、自らの物にできたようだ」

 エレグはその場で立ち上がると、構える。


「突っ込むぞ」


 そして牢へと突撃して、一瞬で、それを粉々に破壊した。

 その破壊のついでに見張りさえも吹き飛ばし、気絶させる。

「いくぞ。せっかくだ、あのふざけた金の亡者を、殴り飛ばしてやるか」


 三人は頷き合う。


 そして、アジトの通路を走り出した。


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