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バベルの三つの奇妙な試練

 扉を開けた先は、小さな部屋になっていた。


 壁に様々な絵が描かれており、たいまつに照らされていた。


 目の前に少し高くなっている土台があり、その土台の上に、結構な大きさの、人一人くらいなら入れそうな宝箱があった。赤と金の装飾がされた、ど派手な宝箱である。


「では、せっかくですから、トウヤ様。開けてみてください!」


「危険じゃないの?」


「大丈夫です! 本当は私が開けたいくらいなんですけど、ここはトウヤ様に譲ります」


 どうにも怪しい宝箱ではあるが、これの一体なにが試練だというのか。


 まあ、宝箱を開けなければ、話は進まないのであろう。


 トウヤは、宝箱に手をかけて、思いっきりそれを開けた。


 煙が蔓延する。

「煙っ」

 思わずトウヤは後ずさりする。煙はどんどん広がっていくが、しかし一定の大きさまで広がった後に収縮されていき、なにか、人の形になっていった。


 煙は、人のようなものになった!

 足のない、煙人間である。


「……我は第一の試練を与えしもの、人呼んでなぞなぞキング、である」


 なんか変なのが出てきた。


 こいつがなぞなぞを出題するということだろう。

「では、早速問題!」

 なぞなぞキングはコホンと咳払いをしてから、問題を告げてくる。


「パンはパンでもぼこぼこにされちゃうパンってなーんだ?」


 三人は顔を見合わせる。


 しばし悩む。

「わかりました! 答えは、紐パンです!」

「ぶっぶー」

 なぜに紐パンだと思ったのか理解に苦しむ。


「正解は、コテンパンでしたー。では、第二問だ」


 間違えたのになぞなぞは続くらしい。


「汗だくでマラソンしていたのにゴールしたら一気に汗がかわいた。なぜ?」


 ナーシャはすぐに思いついたような顔をして、叫ぶ。

「わかりました!」

「ちょっと待って、ナーシャ……」

 トウヤの制止も聞かず、ナーシャは答える。


「ライバルを油断させるためにわざと汗をかいたふりをしていて、実際には汗をかいていなかった、ですね!」


 その答えはもはやなぞなぞとはいえないのではないか。


「ぶっぶー」


 そりゃそうだ。


「それでは第三問! 豚を突き飛ばす食べ物ってなーんだ」


 エレグが閃いたらしく、「任せろ」と言った。


「答えは、落とし蓋、だな」


「ぶっぶー。正解は、豚丼、でしたー」


 エrグはショックを受けたようにその場でくらっとした。


 今のところ全問不正解だが、クイズの定番として、こんな時には、サービスが与えられるものである。


「次が最終問題。これに正解したら一億ポイントです。無事に試練クリアとなるぞ」


 今までの問題は何のためにあったのか。はじめから最終問題だけにしてほしいものである。


 なぞなぞキングは神妙そうに咳払いして、問題を告げる。


「生まれたときは四本足、成長すると二本足、老いると三本足、これなーんだ?」


 三人は顔を見合わせる。


 誰も答えを思いつくことができない難問であった。考えても考えても答えが出てきそうにないので、ヒントを求めてみると、

「この大陸にたくさんいます」

 と教えてくれた。優しい試練ではあるが、問題が優しくない。こんななぞなぞ解ける人間はいるのだろうか。トウヤは非常に疑問に思う。


 だが、脳みそにキラリとなにかが光り、閃いた。これだ、とトウヤは叫んだ。


「答えは、自転車だ! はじめは補助付き自転車で、四本、次に補助輪が外れて二本になり、そして最終的に三本になるんだ!」


「ぶっぶー。正解は、人間でしたー」


 トウヤは自らの自信が粉々に砕かれたような気分になって絶望した。


 なぞなぞキングは呆れたようなうめき声を出してから、

「こんなに簡単ななぞなぞに答えられない奴らは今まで見たことがない。だいぶ面白がらせてもらえたので、満足したよ。というわけで、通っていいよ」


 なぞなぞキングはすーっと消えていくと、煙になって、宝箱の中に入っていった。


 奥の扉が開く。

 第一の試練、突破だ!






 

「先ほどのなぞなぞでは、まったくお役に立てず、すみませんでした……」


 ナーシャが頭を下げる。なぞなぞを答えられなかったのはみんな同じだし、結果的には試練を突破できたのだから気にする必要はない。


 そういうと、ナーシャは花のようにパッと咲いた笑顔になった。


「次の試練は、がんばりますね!」


 本当に大丈夫なのかどうか怪しいものだが、しかしその笑顔にはやや説得力があったような気がする。


 第一の試練を突破した先も、はじめと同じような真っ暗闇の部屋と通路ばかりであった。ナーシャが手に持つたいまつの灯火を頼りに、どんどん進んでいった。


「いやー、奥に行けば奥に行くほど、遺跡って感じがして最高です。これがあるからやめられないんですよねえ」

「そうなんだ。この遺跡は何回目?」

「数えてません! ですが、多分百回以上は攻略したかと!」


 遺跡マスターという称号でも与えてあげたくなるような回数の多さである。


「じゃあ、この先の試練がどんなものなのかも、ナーシャは知ってるんだ?」

「はい、もちろん。なぞなぞじゃないんで、安心してください」

「次の試練がどんなものなのか、教えてもらってもいい?」

「ええ。そんなの、つまらないじゃないですか。あの宝箱を開けるようなわくわく感が大切なんですよ。遺跡の楽しみの半分くらいがそこに集約されているんです。ですから、教えてしまうのはダメです。我慢しましょう!」


 ごもっともではあるが、試練がどんなものかわかってるとわかっていないのとでは、心構えというものが変わってくる。ナーシャのこだわりというものは、特に遺跡好きではないものにとっては、やや困り物であった。


 そんなことを考えている最中に、かちり、という音が鳴った。

 ごごご……。

 そんな地響きと共に、背後からなにかが迫ってきているとわかった。


「みなさん、急いで、ダッシュです!」


 ナーシャが駆け出す。トウヤとエレグもその後に続く

 巨大な岩が、転がってきていた。


 遅れれば、潰される!


「死ぬ、死んでしまうううう!」

「あはは。最高ですねぇ!」

「どこがだあああああああ!」


 岩をなんとかやり過ごし、息を整える。

 そこには、大きな扉があった。


「第二の試練ですよ、トウヤ様。さあ、入りましょう」


 もう嫌だ。

 そんなことを思いながら、トウヤは扉の先へと踏み入ると、やはりそこにも宝箱があった。


「今度は俺が開けてみよう」


 エレグが乗り気で前へと進んでいく。意外とこういうのが好きなのだろうか。


「いいですねえエレグ様。宝箱は、人間のロマンですからねぇ」


「おれは護衛だからな。トウヤが危ない目に遭う可能性がある以上、俺がかばう必要があると思っただけだ」


「エレグ様、兵士のかがみですね!」


 本当は開けてみたいだけなんじゃないだろうか、と疑いはしたが、まあそんなことは細かいことである。エレグは宝箱に手をかけて、一気にそれを、開けた。


 煙が蔓延していく。


 宝箱の中にあったのはまたもや煙であった。それが部屋中に広がってから、やがて収縮していき、人の形をしたものになっていく。


 さっきと同じじゃん。

「……我は第二の試練を与えし者。人呼んで、麻雀キングである」

「いや、あんた、なぞなぞキングだろ!」

「……そんなやつは、知らん」


 明らかに先ほどのキングと同一人物ではあったが、今度はなぞなぞではなく、麻雀のようである。麻雀のルールについてはトウヤは知っていたし、エレグもナーシャも知っていた。こんな異世界にも麻雀という娯楽があるのは不思議だな、とトウヤは思った。


 まあ、たしかに丁度人数は四人である。


 麻雀をするには最適な人数だ。


「私は麻雀のプロ、キングだ。ゆえに、私以外のすべてが敵ということで結構。君たちは協力して私を一位にさせなければいいのだ。実に簡単な試練であろう?」


 あんた暇だからゲームを楽しみたいだけじゃないのか、と思ったが、そんなことをいって試練を失敗にさせられても困るので、言葉にはしなかった。


「麻雀なら、昔よくやっていた。任せろ」


 エレグは自信がありそうだ。


「私はもう何度もこの試練をやっているので、なんとかなると思います!」


 ナーシャも大丈夫らしい。

 しかしトウヤは自信がなかった。どういうわけだか、勝てる気がしない。ここは二人に任せるしかないな、と決めた。


「では、試練開始だ1」

「ロン」

「ロン」

「ロン」

「ぐわあああああ! 貴様ら、合格、だ……」


 第二の試練を突破できた。

 麻雀キングは、めちゃんこ弱かった。






 第二の試練を終えて、その先へと進んでいくが、やはり真っ暗で前が見えづらい。すでにたいまつも二本目になっている。次はどんな試練が待っているのだろうか。おそらく、またさっきの麻雀キングが出てくるのだろう。


「トウヤ様は、この先にある象徴から資格を得た後も、旅を続けるんですよね?」


 ナーシャはどこか真剣そうな様子であった。


「旅は、楽しいですか?」


 楽しいかと言われると、どうだろう。

 自分ひとりで旅をしていたら、さっさとやめていたかもしれない。この異世界はどこも危険だし、旅をすればするほど悲しいものを目にするような気がする。


 だけど……


「仲間がいるから、楽しいかな」


 ミラやエレグのような頼もしい二人のおかげで、旅をやめたいと思うこともなくここまでは来れたような気がする。まだまだ旅路は長いだろうが、みんな一緒なら……きっと……


 まあ、ミラなんかは僕やエレグをまだ一度も名前で呼んだことはないから、仲間とも思ってないかもしれないが……。


「いいですね。そういう関係性って」

「ナーシャにも友達とか、仲間、いるんだろ?」

「いつもスイーツを一緒に食べにいく子とか、います。仲間ではなく親友ですけど、そういう人がいるからいろんなことを頑張れるって話は、よくわかるような気がしますね」

「そっか……」


 そんな会話をしている内に、左右にレバーが置いてある行き止まりにたどり着いた。

 道はそれしかなく、そのレバーをどうにかすることでしか、前には進めないようだった。

「どちらかが当たりで、どちらかが外れですね」

 まあ、そんなことだろう、と予想はできる。

 勘頼みといったところだろうか。


「ヒントとかが、どこかに隠されてたりはしないのかな?」


「いえ、この罠に関しては完全に運です。間違えればペナルティが与えられます。それが与えられても失格にはなりませんが……」


 失格にはならないが、なにか悪い影響は受けるということだろう。


 まあ、なるようになれ、と言ったところだ。


「ここは任せてください! 私、大体外さないんです、これ」


 ナーシャが前へと出る。

 かなり、不安だ。

「ナーシャ、ちょっと考えてから……」

「正解は、左だー!」

「おいおいおい!」


 トウヤの言葉も届かず、ナーシャは実に楽しそうに、左のレバーを引いた。


 がちゃり、と重たい音が鳴り響く。


 けたたましい量のピンク色の煙がいたるところから噴出された。逃げ場はどうにもないのは間違いなかった。ナーシャは、これはおそらく、失敗したのであろう。そもそもこんな勘頼みのトラップで大体外さないんです、というのはあまりに根拠のない自信というやつだ。


 気が付くと、地面にぶっ倒れていた。


 気絶していたのだ。

「みんな、大丈夫かしら?」

 ん、とトウヤはなにかがおかしいと気がつく。


 声が、まるで女性のように甲高いのだ。


「大丈夫だぜ! いや、申し訳ないことをしたな。だが、これが遺跡の醍醐味というやつさ」


 ナーシャ、ではない。だが、よく見ればナーシャの名残があるというか、それは明らかに男性ではあったが、雰囲気はナーシャそのものであった。


 性別が、入れ替わっている。


 自分の姿を確認してみると、明らかに男性にはない膨らみがあったし、股間からは大切なものがなくなっていた。なんということだ、これ、治るんだろうな。女性として生きていくことになるのはちょっと面倒そうなんだが。


「安心しな大将! これは試練を突破すれば治るトラップでよ! 慣れるまでは嫌かもしれねえが、時が経てば、これはこれで滅多にできない経験だから、楽しめるぜ」


 ナーシャ……。


「一体どうしたのかしら、これ。あ、私、なんか変な気分。まるで、恋でもしちゃってるみたい」


 エレグはなぜか見た目は男のままなのに女口調だし、なんか性格も乙女になってないか。


 オカマになってる。


「こんな状態で試練を受けるの? どんな試練か私わからないけど、とっても不安だわ! 大丈夫かしら……」


 トウヤはそんなことを言いながら、右のレバーを引いた。

 扉が開き、第三の試練への道が開いた。

「いくわよ!」

 トウヤが叫ぶ。


「私、なんだか、変な気持ち。……私、こんな気持ちで試練を受けることなんてできないわ。どうしましょう、どうしましょう」

 トウヤはエレグがあまりにかわいそうな気分になりつつ、前へと進む。


「やってやろうぜ、大将!」

 なぜ大将と呼ぶのか謎ではあったが、男らしいというのはこういうことなのだろう。


 扉の先には、またも宝箱があった。

 ナーシャがその宝箱へとすぐに近づいていく。


「今度は俺が開けるぜ! 開けたくて、開けたくて、うずうずしてたんだ!」

「気をつけるのよ、ナーシャ」


 ナーシャは宝箱を掴む。そして思いっきり開ける。


 煙が充満していき、それが収縮して人の形になった。現れたそいつが、元気そうに叫ぶ。


「われは第三の試練を与えし者、バトルキングだ!」

「あのねえ、あんた、麻雀キングだったでしょ、さっきは」

「なんのことだ? 我はお前らのことをはじめてみたぞ。それに、なんだかお前らちぐはぐじゃないか。我には魂が見える。その魂を見れば、お前らの性別が逆転していることなど一目瞭然よ。そんな状態でわれとバトルして、はたして勝てるかな!?」

「まあ、私、バトルだなんてなことできるのかしら。剣は持ってるけど、なんていうか、なんていうか、ひどく不安だわ。なにせ、力が沸いてこないんだもの」

「エレグはちょっとダメそうね……」

「大将、安心しな、俺がいるじゃねえか! 俺に任せれば、試練なんざ簡単に攻略できるんだぜ。なにせ俺は、遺跡を攻略することに関しては太鼓判を押されてるからな!」

「私は、ひどく心配よ……」


 バトルというからには、このバトルキングを倒さねばならないということである。

 ミラもいなくて、エレグもオカマになった上にどこか情緒不安定だ。ナーシャの実力のほどは知らないから何とも言えないが、ここはなんとか、特性をうまく使っていくしかないだろう。


「いくわよ、ナーシャ!」

「おう、大将!」

 二人が駆け出すと同時に、部屋が一気に広くなっていく。


 戦いやすくするためにバトルキングが部屋を広くしたのだろう。


「さあ、我を倒してみせるがいい!」

 バトルキングはみるみる巨大化していくと、天井にぶつかりそうなほどの体躯となった。

「我は、強いぞ」


 バトルキングは両腕を振り上げると、そのままそれを地面に振り下ろした。


 地面が振動し、まともに立っていることもままならなくなる。


「あらあら。私、困るわ。なによこれ、立てないわー」


 エレグがそんなことを言っているが、立てないのは二人も同じである。


「試練というのは、命を賭して行うもの。ゆえに、我に殺されることもあるのだぞ!」


 バトルマスターが殴りかかってくる。

 トウヤはもろにその一撃を食らい、床に吹き飛んで地面をこすった。

「い、いたいわね……」

 骨は折れてはいないようだったが、一撃で結構なダメージを受けた。

 ナーシャも突っ込んでいって戦っていたが、バトルマスターは斬られたところをすぐに煙に変えてしまうので、傷を受けていないようだった。


 このままではジリ貧で負ける。


「死ぬわけには、いかないわよ!」


 トウヤはただ必死な気持ちで、ひたすらに祈るように、目をつぶった。

 こい、力よ。

 バトルマスターが距離をつめてくる。動かないトウヤを仕留めるチャンスだと思ったのだろう。しかしトウヤにはもはや、その動きは緩慢であった。


 力が、溢れ出る。

「死になさい、バトルマスター!」

 まさしくそれはトウヤの第一の特性、『強化』である。身体と精神の両方が一瞬にして何十年も修行をつんだ仙人のように研ぎ澄まされ、どんな動きも見切り、そしてどんなものでも切り裂ける。溢れ出る力を、もう誰にもとめられない。


 バトルマスターの胴体を、真っ二つに、両断した。

「なにぃ!?」

 バトルマスターはそれによって動きを止める。今が、チャンスだった。


「ナーシャ! 任せたわよ!」

「任されたぜ!」


 彼女は思い切り飛び上がると、その手に持った珍しい形をした剣で、縦一文字にバトルマスターを切り裂いた。


 ばらばらになったバトルマスターはみるみる萎縮していき、煙となって、宝箱の中へと逃げていった。

 しばらく沈黙が走ったが、やがて、声が轟いた。


『貴様達は、合格だ。奥で、象徴が待っているぞ……』


 扉が開いた。

 三つの試練を、超えたのである。



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