遺跡大好き人間ナーシャ
「お待ちしてました! トウヤ様、エレグ様! それと……あれ、ミラ様はいないのですか? ま、なにか事情があるんですよね、わかります! 私の名前はナーシャです。今回、このバベル攻略に一役買わせてもらうことになりました。よろしくお願いしますね!」
青い髪の毛に土色の両眼を持った、まだ少女と呼んでよさそうな若い娘であった。冒険者のような格好、つまり、女性用の甲冑をつけており、マントを羽織っていて、少し短めのスカートを履いていた。背中には剣らしきものを背負っている。大きな袋を担いでいた。
とても元気そう、というのがトウヤから見た印象であった。
「遺跡を案内してくれるんだよね。よろしく」
「はい! 頑張っていきましょう!」
意気揚々とナーシャは歩き出し、遺跡のその入口までたどり着くと、二人に注意事項を語った。
「この遺跡は、不思議なダンジョンとも呼ばれることがあります。なぜそう呼ばれるかというと、必ず道が変わってしまうからなんです。同じ入口から入っても、その先には別の部屋が広がるんです。一度遺跡から出てしまえば、また道とか部屋とかが変わってしまうので、入る度に新鮮な気持ちで挑むことができます!」
「それって、つまり、この遺跡の案内人である君も、道がわからないということ?」
「はは……。まあ、そうなんですが……」
それは案内人の意味があるのだろうか。
「ですが、パターンというものもあります。遺跡内はランダムに形を変えていきますが、設置されてる罠だとかは、種類が決まっているんです。ですから、私に任せてもらえれば、遺跡の数々の罠などちぎっては投げ、ちぎっては投げ、といった具合にうまくいきます! まかせてください!」
なるほど、なんというか、元気な人だなあ。
トウヤはそんなことを思いながら、ナーシャの後ろに続いて、バベルへと侵入していった。
内部は、とても暗い。
「真っ暗だね」
「大丈夫です! こういう時のために、たいまつがありますので」
ナーシャは担いでいた袋をガサゴソといじくると、一本の先端が布でくるまれた棒を取り出して、そこに火をつけて、たいまつとした。
機械土の国出身の人にしては、アナログな方法だなあ、と疑問に思ったので尋ねると、
「たいまつって、雰囲気あるじゃないですか」
とのことだった。
このナーシャという人物の人となりはまだよくわからないが、遺跡探検のこの状況下がとても楽しいらしく、何度もこれまでどんな遺跡の攻略の仕方をしてきたかということを話してきた。まだ幼い頃から遺跡に足を踏み入れていたらしく、今にいたるらしい。
「止まってください」
ナーシャが突然言った。そしてまたも袋をガサゴソといじくり、中からゴム製のボールを取り出した。彼女が前方にそれを投げると、
ガチャン!
と大きな音をたてて天井が落下してきた。しかも無数の針つきである。
まったく気がつかなかった。罠である。
この遺跡、命がけでいかないと死ぬのではないだろうかとトウヤは察した。
「まあ、この程度は序の口です!」
そんなことを彼女が言った瞬間に、カチャ、という機械音のようなものが鳴り響いた。
「あ」
ナーシャがみるみる青ざめていく。彼女の足元には、スイッチがあった。
「のわああああああ」
エレグの滅多に聞けないような咆哮が轟き、彼の姿が消える。
落とし穴であった。
「大丈夫か、エレグ!」
真っ暗な落とし穴の先に声をかけると、返事がすぐに返ってきた。大丈夫だったらしい。
「す、すみません……えへへへ、油断してました」
えへへとか言っている場合ではない。
彼女は再度ガサゴソと袋をあさると、今度は縄を取り出した。
その縄を落とし穴へと放り投げる。
「これに捕まって登ってきてくださーい」
ややしてから、エレグが縄に捕まって登ってきた。なんとか、怪我もしていないらしい。
本当に、危ないのではないか。このナーシャという案内人を信用していいのだろうか。
トウヤは疑問を抱きながら、ナーシャが再び歩き出したので、その背中を追う。
しかし案内人というのも伊達ではないらしく、先ほどのミスはたまたまだったのだろう、その後は何の罠にかかることもなく、進むことができた。
そして、重厚そうな扉の前にたどり着く。
「この先に、第一の試練があります」
第一の試練? ということは、第二、第三があるということだろうか。
このバベルという遺跡、思っていたよりも随分と広いらしい。
「一体、どんな試練なの?」
ナーシャは朗らかに答える。
「なぞなぞです!」
それは本当に、試練なのか?




