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機械土の国のバベル

 特に変装もしていなかったため、光闇の魔導師としてのトウヤはすぐに人だかりに囲まれることになった。トウヤは愛想笑いを浮かべながら、本当に光闇の魔導師というのは期待されているんだな、と再確認した。


 機械土の国に到着するまでには、約二日ほどの道のりであった。途中村で泊まったりなどはしたが、ほとんどが馬車の中だったため、身体はひどく凝り固まっていた。


 トウヤは、ぐっ、と背伸びする。


「すごい街だね。いや、街というよりは、これは都市かな」

「都市とはなんだ?」

 都市……。言われてみればなんで僕はそんなことを知っているのだろうか、とトウヤは疑問に思う。まさしくそれは、過去の世界の記憶から導き出された単語ではあった。知識のような言葉に関しては記憶がないわけではない。ないのは、個人的な記憶。


「街よりでっかいってこと、かな……」


 エレグは納得したように頷く。

「ここはどの国のどの街よりも大きな所だと言われている。建築物などは、すべて機械という独特の技術によって構築されていると聞いたことがある。かなり特殊な部類の国だといっていいだろう」

「機械……か。なんで、他の国は機械を作らないのかな?」

「作らないのではなく、作れないのだ。機械に関する知識や技術は、この国によって念入りに隠されていてな。ゆえに、他の国には機械の技術が伝播しないというわけだ」

「なるほど」

 そんな会話をしながら機械土の国、その都市を散策しようと思った二人は、突然呼び止められる。呼び止められるというか、吠えられる、といった具合であった。


「機械で作られた……犬?」


 トウヤは思わずほころんでしまう。

 小型の犬はどうみても生物ではあらず、機械そのものであった。

 すごい技術だな、と感心した。


「ツイテキテクダサイ」

「しゃ、喋った!?」


 驚くトウヤとは対照的に、エレグは冷静であった。


「録音された音声とかだろう。そういうものがあると聞いたことがある」

「バカニスルナ。カイワグライ、オチャノコサイサイジャ!」

「……」 

 録音ではないようなので、エレグもさすがに驚いたようだった。


「ワシガミチアンナイスル。シッポヲオイカケテ、ツイテコイ」


 ほとんど生き物といって差し支えないのではないかと思えた。

 そんな機械犬の後について、機械土の国を歩く。


 ハンマーで金属を叩くような音がいたるところから響いており、人々は足に車輪のようなものをつけて高速で移動していた。一度ぶつかりそうになったが、勝手に相手が避けてくれた。どうやらその車輪も機械でできているらしく、それで自動的に人を回避するのだろう。


 二人はやがて、王城にたどり着いた。


 機械土の国、その王がいるであろう王城は、これも機械化されており、水の国や光の国にあった王城とはまったくの別物であった。いたるところで、なにか、発光していた。


 機械犬は王城の門前で立ち止まった。


 なので二人も立ち止まる。


 王城の入口の方から、人、女性が、歩いてきた。

「ありがとね、ポン」

「ワン!」

 その女性に鳴き声で答えた機械犬は、どこかへと走り去っていった。


 そして、その女性が自己紹介をする。

「はじめまして。機械土の国の王、ナルバーシャです。お待ちしておりました、トウヤさん、エレグさん。……ミラさんとは、一緒ではないのですか?」

 柔和な声で、柔和な微笑みを浮かべている。とても優しそうな人だな、というのが第一印象だった。


「ミラは火の国と水の国の戦争を止めるために、いまは別行動をしています。土の王ナルバーシャさん、お会いできて光栄です」

「あらあら、ご親切にしてくださってありがとうございます。私も、お会いできてとても嬉しいですわ、トウヤさん」

「すごいですね、この都市というか、街は。とても同じ大陸の文明だとは思えません」

「過去からの遺産ですわ。私たちはその遺産を守り続けているだけ……。さあ、トウヤさん、エレグさん。あなたたちの旅の目的は知っています。象徴の元へ案内しますので、私についてきてくださいね」

「はい!」


 そういうわけで三人は街の外れへと向かった。


 人通りも少なくなり、機械の兵隊の姿があちこちに見受けられるようになった。

「サイボーグ兵士です。我が国の主な戦力は、あれなのです。強力な兵士ですが、コストがかかります」

「この街に来てからは、驚かされてばかりです」

「ふふ。お気に召しましたなら、良いのですが」


 そんなことを会話しながら、進んでいった先に、閉じられた大きな門の前にまでたどり着いた。そこにもサイボーグ兵士がいて、普通の人間の兵士も見張りだろう、数人いた。


 ナルバーシャが彼らに話しかけて、彼らは急いで門を開けた。


 すると目の前に、巨大な建造物が現れた。

「私たちは、バベル、と呼んでいます」

「バベル……」

「遥か昔から存在する遺跡のようなものです。奥に入ろうとする者を拒み、そして人間を試すとも言われています。生きた遺跡、と呼ばれることもある、不思議な遺跡です。我が国の象徴は、このバベルの奥に保管されています」

「つまりこの遺跡を突破しないと、象徴から資格を得ることはできないということか……」

「そういうことになります。……ですが、安心してください。遺跡を攻略することを得意とする者がこの先の入口で待っています。どうぞ、その者を存分に利用して、バベルを攻略してください……では、申し訳ありませんが、私が案内できるのはここまでです。がんばってくださいね、トウヤさん、エレグさん」


 土の王ナルバーシャは去っていった。


 二人はバベルへと繋がるであろう道を歩き、そして、その遺跡攻略を手伝ってくれるという人物と出会うことになる。


 その名を、ナーシャといった。


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