キーマの怪しさ
火竜の国までの距離は結構あったが、ミラの想定よりも火の鳥は早く目的地に到着した。
「やはり一度死んだため、また魔導が鍛えられた、か」
ミラは独り言をいってから、暗い気持ちになる。
昔のことを、思い出してしまった。
「さて、王を説得しなければ」
気持ちを切り替えて彼女は歩き出す。王城の前に兵士は大勢いたが、そのすべてが彼女に敬礼をしていた。いつものことであるから、特に気にはならない。
王がすでに出陣していたらここに来るのは無駄足だな、と考えつつ、王の間へとたどり着く。
「火の王よ。軍師ミラ、参上しました」
「入れ」
それは聴き慣れた幼い王の声そのものであった。無駄足ではなかったな、と安心しつつ、ミラは扉を開く。そこには見慣れた姿ばかりがいたが、二人、そこにいるのがおかしなものがいた。
(たしか名前は……忘れたな)
レゴス村でトウヤにゲームを申し込んだ商人と、その用心棒。
その二人がなぜ火竜の国の王の間にいるのか。ミラは理解に苦しみながら、王へと語りかける。
「王よ。今回、戦争を仕掛けると、水の国で聞きました。それは、まことでしょうか」
「そう。私は、本気。別にこの大陸では珍しいことではないじゃない。いまだって他の国々は小競り合いを続けているし」
「しかし、今、全面的な戦争をはじめれば、魔鬼獣が現れた場合の対処が間違いなく遅れます。そうなれば多くの村や街に、被害が……」
「わかっている。しかし、ミラ。私は情報を手に入れたの」
「情報?」
すぐにミラは勘付き、商人のことを睨みつけた。
商人もそれに気がつき、慌てた様子で両手を振った。
「いやいや、ミラさん、数日ぶりやな~。われのこと覚えてはります? 伝説の商人と用心棒になる予定の、キーマとセッちゃんや」
「名を聞きたい訳ではない。私は、王になにを吹き込んだのかと尋ねようとしたのだが」
「吹き込んだとは、言い方が悪いで~。それにしても軍師ミラがこんな幼い子供だとは思わんかったわ~。となると、やっぱ特性のせいでそんなに幼いってことやな? はっは~、見えたで、セッちゃん。このミラはんの特性は~。おっと、これは秘密にしとくわ。われとセッちゃんだけの秘密や~」
「ふざけた言葉遣いをしおって。火の王フィアーよ、冷静になってもう一度考え直してください。どんな情報を言われたのかは知りませんが……」
「水鱗の国の王クリアが、火竜の国を滅ぼすための用意を進めているという、たしかな情報が入った。ゆえに、こちらから先手を仕掛けることにしたの。やられる前にやらなくては、国は滅ぶ。そのように考え、軍を国境付近まで動かしたわ。あとは、あちらの動き次第というわけ」
「こちらが軍を動かせば、向こうも軍を動かします! その情報の真偽を確認すべきでした……」
「情報はたしかなものよ、ミラ」
「なぜ……!」
まさかこの商人、王になにかをしたのでは。
ミラはそう疑ったが、なにも確証があるわけではない。
どう説得すべきか。そう心の中で思い巡らせている最中に、
「ミラよ。あなたは任務に戻りなさい。今回の戦争では、軍師不在でなんとかしてみせる。いい、あなたは光闇の魔導師の導き手。それを最優先事項にすべきだわ」
「王……」
「もう話すことはなにもない。旅立て、ミラ」
そうはっきりといわれてしまっては、もうどうしようもなかった。
ミラは、最後にもう一度だけ商人キーマを睨みつけると、ローブを翻し、王室を後にした。
セッちゃんが、ぷるぷると震えた。
「武者震いやな~セッちゃん。でも怖ーい怖ーい軍師様はもういなくなったで~。安心しいや~」
キーマはセッちゃんに微笑むと、次には真剣な表情になった。
その表情を、誰も見てはいなかった。
あまりに、暗きその表情を。




