六つ
「……悲しい話だね」
「まあ、そうだな」
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馬車に揺られながら聞いた話は、好奇心で知りたがってはいけないような、そんな話だった。
エレグは目を瞑り、何を思い出しているのだろうか。
しばらく、沈黙。
「どうして、武道大会で、ラングザードに降参したの? エレグが勝っていたのに」
その質問に、エレグはやや驚いた表情を見せた。
「気づいてないのか?」
「え?」
意味がわからないので、トウヤは戸惑う。
エレグはすぐに意味を教えてくれた。
「あの時、自分のものではない力が突如として湧き上がった。あれは魔導でも、武練術でも不可能な力だ。……つまり、特性、だ」
僕らの他にも魔導師がいたということだろうか。
そう訊ねるとエレグは首を横に振った。
「あれは、お前の特性のはずだ。トウヤ」
やはり、意味がわからなかった。
「僕の特性は、『強化』で……」
違う、とエレグはすぐに否定する。
そしてやや何かに悩むかのような素振りを見せた。
だが、何かを告げることにしたらしく、口を開いた。
「ミラには言うなといわれていたが、こうなってしまっては教える他あるまい。……トウヤ、お前にとってこれは重要なことだ」
「重要なことなら散々いろいろと言い聞かせられてきたから大丈夫。聞き慣れてる」
そうか、とエレグは苦笑した。
そして、教えてくれる。
「お前の特性は一つではない。……お前の特性は、六つある」
「むっ、六つ!?」
想像していなかった話だった。僕の特性が特別であることは聞いていたが、それは一つの特性がなにかすごいものなのかと思っていた。だがそれは違っていた。僕の特殊な点は、つまり、六つの魔導宝具を与えられているがために、六つの特性がある。そういうことだったのか。
「一つだけでも戦局を変える可能性を秘めているのが特性だ。それが六つ。何を意味するのか、わかるな」
「……うん」
「お前はこの旅をしながら特性に目覚めなくてはならない。『強化』、それと武道大会で暴発したその特性、『鼓舞』、とでも言っておこうか。その二つは目覚めはした。その二つをより自由に、強力に発動できるようになるのはもちろん、それ以外にも、あと四つ。目覚めさせなくてはならない」
「六つって、それ、ずるくない?」
「……ずるいな」
二人は大声をあげて笑った。
こんなに笑ったのは実に久しぶりだ、ってくらいに笑った。




