三人の昔話
「では私は火竜の国へと急ぐが……。くれぐれも、気をつけて旅をすることだ。お前を狙っている者に襲われる可能性だってあるのだからな。筋肉男がいれば事足りるだろうが、油断が一番の敵であるということを忘れるな」
「大丈夫だよ。僕だって、『強化』の特性があるんだ。戦えないわけじゃない……」
「力を使いこなせるようになってから、偉そうなことを言え」
「ははは……」
ミラはその場で炎を滾らせた。その炎は地面にぽとぽととまるで液体のように零れてから、形をみるみる変えていき、やがて火の鳥となった。
ミラはその魔導によって生み出された鳥の背中に乗る。
はじめからそれに乗って旅をすれば早いのでは、とミラにトウヤは尋ねてみると、
「ひとり用だ」
とあっけなく否定された。
火の鳥が羽ばたき空へと飛翔し、あっという間に見えなくなってしまう。
あの速度なら火竜の国まではあっという間であろう。
ミラは、旅立っていった。しばらくは別行動である。
火と水の全面的な戦争が起こる可能性を危惧したミラは、直接火の王フィアーに進軍の意図を訊ねるために国へと戻ることになった。僕を導くという任務も大事だが、軍師として火の国を支えることもミラにとっては大切なことなのだろう。今、大きな戦争が起こることは、非常にまずいことなのだと、ミラはひどく焦っていた。
つまり、魔鬼獣が頻繁に現れる昨今、戦争をすれば、魔鬼獣に国が襲撃された場合、軍隊が村や街を守る余裕がなくなる可能性があるということを心配していたのだ。
人と獣。その両方を相手取れるほど、軍には戦力はない。
ゆえに、戦争は回避しなければならない、というのがミラの考えであった。
そんな状況下ではあったが、トウヤの旅もやめるわけにはいかないということで、ミラだけが火竜の国へと飛んだのだ。
「さて、じゃあ僕らもいかないとね」
「そうだな」
トウヤとエレグは馬車に乗り込み、水鱗の国を後にした。
次の目的地は、機械土の国である。
水鱗の国からは二日ほどはかかる道のりであった。
その道中で、気になっていることを聞くべきか、聞かないべきか、トウヤは悩んだ。馬車に揺られること半日たった頃、長く続いた沈黙についに耐え切れず、トウヤはエレグに尋ねた。
「ラングザードさんは、なんであんなにもエレグとの決着にこだわったの?」
「……そんなことを聞きたがっていたのか?」
どうやら僕がなにかを聞きたがっていたことには気がつかれていたらしい。
「気になるじゃないか。あんなに賢明そうな人が、まるで何かに取り憑かれるかのようにエレグに執着していた。僕から見ても、不思議だった」
「やつとは付き合いが長くてな。長年付き合っていれば、因縁の一つや二つは生まれる」
その先は続かなかった。
エレグは目を瞑ってしまい、黙り込んでしまった。
しかし、しばらくしてから、彼は口を開いた。
「過去に、やつの妻を、殺してしまったことがある」
なんだって、と思わず言いそうになったが、トウヤには息を呑むしかできなかった。
エレグはまるで罪を精算するかのように、ラングザードとの過去について語ってくれた。
エレグ、ラングザード、セレナ。その三人の物語。




