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決勝戦


 再び花火が打ち上がった。オーケストラの合図のような演奏も流れる。


 その演奏が終わる頃には、あれだけ騒がしかった観客たちも静まり返って二人の様子をうかがっていた。


 エレグとラングザードが控え室から現れて、左右に別れる。


 そして中央に寄って、互いに握手を交わした。


「セレナもこの戦いを見ていることだろう。エレグ。セレナのために、ここで決着をつけよう」

「……ああ」

「お前の剛の武練術か、私の柔の武練術。どちらの鍛錬が上か、ここでわかる。手を抜いたりするなよ、エレグ!」

「鍛錬を怠ったことはない」

「ならば結構!」


 二人は距離を開けると、木製の剣を構えた。


「さあ、皆が待ち望んだ決勝戦。相対するのはこの水鱗の国を何度も救ったこの二人。ラングザードと、エレグだ! 将軍と兵士。役職の差はあれど、実力の差はおそらく拮抗しているはず。それはこれまでの戦いで証明されています。どちらも、相手を一方的に倒してきました! はたしてこの決勝戦ではどちらかが圧倒することとなるのか、それとも互角の勝負をみせるのか。それは二人だけが知っています。では、はじめましょう。……試合、開始です!」


 ゴングが鳴り響く。


「我が柔の武練術、その奥義をその身に受けよ!」


 まず仕掛けたのはラングザードであった。


「獅子流波刃!」

 遠距離からの攻撃であった。


 木製の剣が地面を削っていき、破片が飛び散ると同時に、まっすぐに衝撃波のようなものがエレグめがけて飛んでいく。


 エレグは当然それを避けるが、それでは終わらず、避けた方角へと衝撃波が追随してくるのだった。


 エレグはその衝撃波をそれでも避けるが、しかし追尾するかのようにエレグを追いかけてくる。

「その刃は私の意志と繋がっている。逃げても無駄だ。いくらでも追いかける!」

 ならば、とエレグは立ち止まって構える。


 そしてまっすぐエレグに向かってくる衝撃波を、木製の剣で切り裂いた。

「なに!?」

 衝撃と衝撃のぶつかり合い。


 粉塵が舞い、エレグの姿が煙にまみれて見えなくなる。会場がわずかにどよめき、そして静寂に包まれる。そしてわずかな時が過ぎて。


 エレグが煙を突き抜けて、ラングザードへと突進していく。


 猪突猛進そのものであった。


「なんと単純な!」


 言いながら ラングザードはまたもや衝撃波を放った。

 しかし、弾かれる。

 鉄壁の守りを持った突進。単純ではあるが、強靭でもあった。


「ぐっ。ならば」


 ラングザードは慌ててそれを避けて、距離を置くように何度も曲芸のように器用な動きをしてみせた。だが、それでもエレグは突っ込んでくる。


 このままでは止まらない。


 それを察したラングザードは、二人に別れた。


 分裂したラングザードにエレグは突っ込んでいき、そして、その分身が爆発する。


 さきほどの衝撃波のぶつかり合いよりも遥かに激しい、破裂音、爆発。


 またも粉塵が舞い、今度は二人の姿を隠す。


 ラングザードは構えたまま、エレグと距離を置いていた。


 そして、エレグは膝をついていた。爆発をまともに受けたダメージを負っている様子だった。


 崩れ落ちて倒れてしまうのを何とか凌いでいる状態であり、勝敗が決したといっても良かった。


 エレグ本人も、思っていたよりも激しく消耗していることはわかっていた。


 だが、声援がある。


 簡単に負ける訳にはいかない。

「俺は兵士だ。どんな戦いであろうとも、地に伏すことはない!」


 不思議な現象が起きる。


 それはエレグの内部で生じていた。まるで沸き上がってくるかのような、エネルギーの奔流である。それはすぐに全身を駆け巡り、エレグの出せる全力をも超える総量の力となった。


(なんだ、これは……)


 しかし考える暇は与えられなかった。


 ラングザードが膝をついていたエレグを完全に倒すために、接近していたのだ。


 しかし、エレグにとってその動きは、まるでスローモーションそのもの。


 そして相手の動きはゆっくりと見えるのに、自分の動作はひどく素早かった。自分だけが加速しているかのような錯覚を覚える。


 足払いをして、ラングザードの体勢を崩す。


 この時、ラングザードにはなにも見えなかった。エレグが消えてしまったかのように思ったほどである。だからその後も何が原因でそうなったのか、わからなかった。


 ラングザードは、壁へと吹き飛んでいたのである。


 そのあまりに強い衝撃に、彼の身体は耐え切れず、そのまま地面に落ちると、今度は彼が膝をつくこととなった。


「私は、負けるのか……エレグ、お前だけには……」


 エレグはゆっくりと歩いてラングザードに近づく。

 完全に倒されてしまう、とラングザードは身構えたが、しばらく経っても、なにも起きなかった

「どうした。情けでもかけるつもりなのか?」

「違う。……俺の負けだ、ラングザード」

「なに?」

「……インチキというやつだ」


 エレグは観客席へと眼を向けた。トウヤとミラが応援している方角である。


「トウヤの特性が発動したということしか、考えられん」

 ラングザードは驚く。

「光闇の魔導師は、もう特性に目覚めているのか」

「……まあ、見たところ、本人でさえも気がついていないようだが」

 エレグは小さく笑い、そしてラングザードに手を差し出した。

「降参だ」


 しかし彼はその言葉に納得はできなかった。


 これでは、望んでいた決着とはいえない。

「エレ‥…」

 ラングザードの言葉は、特別席に座っていた水の王クリアによって遮られる。


 あまりに突然のことだったので、観客たちもどよめいたが、王は再び言った。


「た、たった今、火竜の国の軍隊が国境付近に展開されているとの報告が入った。武道大会は中止とする。ラングザードよ、お前は将軍として兵を率いなければならない。ただちに、王城へと戻るんだ!」


 それはつまり、大きな争いが起こるということを指し示していた。


 火と水、その二つの、戦争である。



 


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