闇の王レイドウは道に迷う
それは光闇式と名付けられた式である。
その式のために大陸すべての国の王たちは集結し、顔を合わせた。
その大陸は戦乱の最中であった。
誰もが血を流し、大切な者を失くし、あるものは誇りを失っていった。
それでも王たちは大陸の統一を目指していた。本当の平和を求めて、長い年月の間続いてきた乱世を治めようとしているのである。
そのために光闇式は必要であった。
六つの国はそれぞれ、火竜の国、水鱗の国、機械土の国、風塵の国、光烈の国、闇牢の国と名付けられているが、この式のためにその六つの国全ての王とその側近が集められた。
側近たちは王の近くで直立して時がはじまるのを待っている。
その式場は光烈の国にある王城の一室であった。荘厳たる装飾がいたる所にされており、置かれているものもどれも高級で歴史ある物ばかりであった。今回の式のために使われる品々が長テーブルの上に置かれているが、その品にはどれも厳重な囲いがされていた。まるで触れることさえも許されぬかのような厳重な鍵がされているのである。
そして料理も置かれていた。光烈の国、一のシェフが腕によりをかけて作った、最高級の料理である。王であっても舌なめずりをしてしまいそうな、食欲をそそる匂いを発している。
六つの国のうちの代表、五つの国の王はすでに席に座り、あるものは目を瞑り、あるものは腕を組み、あるものは並べられている食事に目移りしていた。
それぞれが最後の一つの席に収まるべき、遅刻している、その一人を待っていた。
闇の王、その名をレイドウといった。
その遅刻している闇の王レイドウは、道に迷っていた。
側近が方向音痴だったのである。
それでもなんとか王城にはたどり着いたのだが、あまりに広いため何度も同じ道を行き来したりしている内に、約束の時間に遅れていた。通常ならば光烈の国に仕える兵士に道を聞けばいいだけの話だし、さらにいうならば道を案内してくれる兵士がいてもおかしくはないのだが、光と闇という反対の性質のせいで、彼らは話をすることすらも嫌っていた。
光と闇、火と水、風と土。
それぞれが逆の属性であるがために、それぞれがいがみ合っているのである。
この大陸ニルスオーラヴから戦争が終わらないのは、そういった属性の性質も重要な一因であった。長きに渡る戦争のせいで真逆の性質を持つ国々はさらに苛烈に争いあったし、真逆ではない、たとえば闇と火、といった間柄であっても嫌悪の感情はあった。それは王であっても、国民であっても同じである。すべての民がそういう感情を抱えているわけではないが、多くの者は戦争による心の荒廃を止めることは難しかった。
そういうわけで光烈の国の兵士とまだ一言も会話をしていないレイドウは、しかし彼は特殊であった。王の中でも唯一といっていいほど、属性というものに対してこだわりがなかった。
誰もが人間であり、この大陸に住まう全ての者が救われなくてはならない。
乱世を治めるまで戦いは続けるが、無意味な殺生はせず、すべての国の民にいつかは平和な世界を取り戻させる。
本気でそう考える、まさに善き王であった。
しかしそんな王も、敵地といっていい場所では、すべての人間から無視をされていた。
光の民は闇の王を嫌っていた。
ゆえに道案内さえもしてもらえず、さらに方向音痴な側近。
そういうわけで、彼の光烈の国への旅は苛烈なものであった。
しかしついにたどり着いたのである。
だいぶ遠回りはしたが、遅刻はしたが、彼は光闇式の会場、その扉へと両手を差し出し、そして両眼に備わる闇の色を輝かせ、大きく一歩前へと進んだ。
派手な装飾のされたそれが、何の音もたてず、やがて開く。
闇の王レイドウは、大きく息を吸い込んで、そして待ちぼうけの五人の王へと挨拶をした。
「闇牢の国代表、レイドウだ。皆の者、今回の式はよろしく頼む!」
闇の王は、無視された。