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資格


 目を覚ますと地面があった。

 起き上がる。どれくらい眠っていたのかドウヤは判然としなかった。


 夢を見る前と同じように、大きな水晶が目の前にある。


 今の夢を見るということが大切なことだったのだろうか。


 何かが変わった感じもしないが。

「祈って……」

 トウヤは祈ってみる。

「願って……」

 トウヤは願ってみる。

「語り合う……」

 トウヤはどうすれば語り合えるかわからない。


 結局、その場に数分とどまったが、特に大きな変化は起こらなかった。仕方がないのでその水晶を一瞥してから、トウヤは元の部屋へと扉を開けて戻る。


 そこにはブロッコルとエレグの姿はなく、ミラだけが待っていた。


「なんで二人はいないの?」


 トウヤが尋ねるとミラは答えた。


「兵士が来て、水の王クリアが呼んでいるということで、二人共先に出て行った」

「そうか……ところで、ミラ」

「ここで立ち止まって話していても時間の無駄だ。歩きながら話すぞ」

「……わかった」


 部屋を出て、神殿の通路を歩いていく。


 トウヤはまず、自分は何か変わったのかどうかを聞いてみた。


 ミラは短く答える。


「資格だ」


 初めて聞くことであった。トウヤはミラの言葉を待った。いつもどおり説明してくれると思ったからだ。だがミラは何も説明してくれない。よくよく見ると、どこか不機嫌そうであった。


 そうか、ここは水の属性の地。その象徴のある神殿。


 ミラにとっては相性が最悪な場所なのだ。


 そう気がついたトウヤは無理をして質問に答えてもらおうともしなかったが、神殿を出たあたりでミラがようやく語りだした。ふぅ、と息をついていたから、やはり辛かったのだろう。


「資格とはすなわち、鍵だ。閉じている属性を開く鍵。封印されし魔導を呼び覚ますもの。つまり魔導師は資格を与えられなければ魔導を唱えることはできない。魔導宝具によって召喚され、資格を得て、はじめて人は魔導師になる」


 トウヤはその内容を聞いて、期待した。


「じゃあ、僕も魔導を使えるように……」 


 すぐにミラは首を横に振った。


「資格があっても、相反する属性を持っているために魔導は打ち消される。ゆえに資格は持っていても発動はできないだろうな」

「試してみてもいい?」

「…‥気が済むまで、やってみればいい」


 そういうわけでトウヤは立ち止まって気合をいれた。そして、

「はああああああ」

 と力を込めてから、両手を突き出して、水よ、と集中しながら心で叫んだ。


 ちょろり、ともならない。


 その後も何度か繰り返すが、やはりなにも発生しない。

「時間の無駄だな」

 ミラに呆れられてから、トウヤは諦めてとぼとぼと歩き出す。


 まだ言っておくことがあった。

「夢を見たんだ」

 夢なのに内容ははっきりと覚えていた。資格を得るという行為はきっと夢を見ることによって成立することなのだ、と予想していた。


 だが、ミラは予想外の反応をした。


「夢? なんだそれは」


 紅蓮の魔導師でも知らない現象。それがその夢を見るという行為であった。


 魔導師は資格を得て魔導を使えるようになる。それは水晶に願えば叶うということだった。


 今までどんな魔導師も、夢などを見たケースはないとのことだった。


「前代未聞の魔導師だからな。何か普通と違う事が起こっても、それは不自然なことではない。夢、か……ふん、まあ、象徴が何かを言いたがっているのかもな……」


 ミラは興味深そうだった。


 そこでトウヤは思い当たった。結局、魔導も使えないというのなら、僕はなんのために資格を得たのだろうか、と。


 そのことを尋ねてみると、なんでもないことのようにミラは答えた。


「すべての属性の資格を得た時、なにか世界にとって、良いことが起こるとされている」


「はあ……?」


 どことなくはっきりとしないというか、大昔から伝わる伝説からでも引っ張ってきたのかと疑いたくなるような、確信を得ない内容だと思った。


「そうだ。人々は信じている。ゆえに光闇の魔導師は救世主だと言われているのだ。いいか、光闇の魔導師という存在自体が伝説のようなものだった。それが今、この世に召喚されたということは、それにまつわる他の伝説も本当なのではないかと信じるに値するようになるということだ。人々は終わらぬ争いに疲れている。たとえ伝説のような話であっても、人々は信じたくなるのだ。救世主の存在を、戦争の終結を、人々は求めている」

 





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