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水鱗の国将軍ラングザード


 エレグの作る料理は本当においしいと思う。


 とりわけ彼の料理をいっぱい食べるのは、ミラである。


 不老不死の癖に育ち盛りの少女のようにがつがつと食べて、大皿一杯に盛り付けられた鶏肉をあっという間にほとんど骨にしてしまうのだ。


 この鶏肉の味付けも最高だったが、さすがにミラほどは食べられないと思った。


「食事とは……はむはむ……とても重要なものだ……はむ…‥いいか……たくさん食べれば食べるほど……魔導も…‥武練術も……強く……はむはむ……うぐっ!」


 口いっぱいにほおばっていた彼女の顔がみるみる青ざめていく。


 喉に詰まらせたらしい。


 慌てて手元にあった水をぐびぐびと飲み込んで、ぷはーっと大きく息をついた。


「まあ、魔導も武練術も使えない僕としては、食事は普通でいいかな」


「ふん。面白くないやつだ」


 食事を終えた後、トウヤはエレグの食器の片付けなどを手伝い、出発のため荷物をまとめた。


 そして『ほろり亭』を出ようとした時、訪問者が現れた。


 派手な装飾のされている銀色の鎧を身にまとった、青色の瞳をしている男である。長髪の金髪で、身長も高いし、何より目を引いたのは彼のその美貌であった。男でも感心するほどに美しいと呼べる顔つきをしていた。ミラはイケメンに興味を持つのかな、と様子を伺ってみたが、何の興味もなさそうな両眼でぼんやりと男を見ていた。


 明らかに村人ではない。十中八九、魔鬼獣が現れた際に援軍に現れた水鱗の国の兵士かなにかであろう。


 それはどうやらエレグの知り合いらしかった。


「久しぶりだな。元気にしていたか、エレグ」

「ラングザードか」

 すぐに二人は会話をはじめた。


 そして今回の事件に関して不自然な点があったということを聞かされた。


「行方不明になっている村人の数があまりにも多すぎる。死体も見つからないから、魔鬼獣に殺された訳でもないようだ。そして昨日の襲撃で村の中に突然現れた人型の魔鬼獣、あれは群れとは別の場所から突如として現れた。つまり、行方不明になった村人は、全員、その魔鬼獣だったのではないかという結論になった。今回の事件、あれだけの数の魔鬼獣が現れたことも違和感があるが、それ以上に不自然なのは、村人が魔鬼獣になった数があまりに多すぎることだ。光闇の眼となって病に伏するならわかるが、彼らは突然魔鬼獣になったように思う。なにか、おかしい」

「この村は水鱗の国の領地だ。調査は、お前たちが続けるべきだ。魔鬼獣に関する事件は増える一方。いよいよ、対策を取らねば手遅れになるだろう」


「世界を救うのは光闇の魔導師の役割だろう? そこに座っている彼が、そうなのか」

「そうだ」

 そう聞かされるとすぐにラングザードはトウヤに向かって一礼する。


 そして、別の話をはじめた。


「数日後、水鱗の国で武道大会が開かれることになった。水鱗の国で誰が一番すぐれた武練術の使い手なのかを決める戦いだ。優勝すれば賞金も出る。腕試しをするにはもっとも適した催しだ」 


「それが、どうかしたのか?」


「実は私もこの大会に参加するように王から命令されてね。それで、どうせでるならライバルが必要だと思ったんだ。どんな戦いにおいても好敵手が一人いるだけで闘争心が沸くというものだろう? そこでエレグ、お前と長年の決着をつけたいのだ」


「俺はただの兵士。お前は将軍だ。勝負にはならんだろう」


「大会に出るとなれば地位などまったく関係のない代物だ。武練術の腕前に関していえば、私とお前は互角といったところだろう。……大会への参加条件は水鱗の国の出身であるということだけだ。これからお前たちは水鱗の国に来るのだろう? ならば、どちらが上か、決めてみるのも面白そうじゃないか、エレグ」


「……気が向いたらな」


「私の用件はこれだけだ。時間を取らせてしまってすまなかったな。では、失礼する」


 ラングザードは足早に去っていった。

「参加するの?」

 トウヤが尋ねると、エレグは腕を組んで、しばし考えるような様子になった。


「どうだろうな。昔から騒がしい場所は苦手なんだ。お祭りのような人が集まる騒ぎには絶対参加しないような人生を送ってきた。大会に出場すれば騒がしい上に、見世物のように注目されることになるだろう」

「ラングザードって人は、強いの?」

「やつは武練術も極めているし、その上頭の回転もはやい。だからあの年齢で水鱗の国で将軍をつとめられるのだ。武練術だけで見れば互角でも、総合的に考えてみれば勝てる訳のない相手だろうな」


「勝てないから逃げるのか、筋肉男」

 ミラが口を挟んできた。エレグは首を横に振る。

「いろいろと考えているだけだ」

 馬車の運転手がやってきて、そろそろ出発させてくれとせがんできた。


 会話はそれが理由で終わり、三人は馬車に乗り込んだ。


 どうにしろまだしばらくは馬車に揺られることになるのだから、エレグが考える時間はいくらでもあるのだ。


 馬車が発進し、レゴス村がみるみる遠ざかっていく。

 


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