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葬送

 そんな理不尽なことがあっていいのだろうか、とトウヤはこの世界のあり方があまりに厳しいと感じた。光烈の国で街の人々はこの病気についてあまり語らなかったその理由がよくわかる。魔毒に侵されたとはいえ、彼女はまだ人間だ。その人間を人間が殺す。


 今日現れた魔鬼獣だってもともとは人間だというのならば、今日の襲撃だけで一体どれだけの人間の命が奪われたというのだろう。ミラやエレグは何も思わなかったのだろうか。


 慣れてしまっているのだろうか。


 この世界は、この大陸は、ひどく残酷だ。六カ国の人々は戦争を繰り返し、命を奪い合っている。これからもそうだろう。そして魔鬼獣によって命を奪われ、そして魔鬼獣の命も奪う。そしてその魔鬼獣も元は人間だった、と。


 一体どれだけの命が奪われる世界なのだろう。


 これまで、そして、これからも。


 命は失われ続けるのだろうか。

「そろそろ、か」


 ミラがそんなことを言ってからすぐ後、父親が民家から姿を現した。両手に娘を抱えて。


 伝染する魔毒に侵される可能性など気にはしていないのだろう。


「娘を、カリンを、よろしくお願いします、魔導師さま」


「光闇の魔導師よ。村の広場にいって弔いをする。お前が彼女を運べ。筋肉男では、魔毒にやられる可能性がある。お前の大きすぎる器ならば、なんの問題もない」


 トウヤは自分にも六百年分の魔毒が蓄えられているのだということを思い出した。

「わかった」

 父親かカリンという娘を受け取り、広間へと歩いていく。


 もはや陽が落ちかけている夕暮れ時となった。村中を警戒して警備している水鱗の国の兵士たちが、エレグに対して敬礼をしていた。彼も水鱗の国では有名な兵士なのだろうか。

 エレグの顔が夕暮れに照らされてはっきりとしたコントラストを作っていた。彼だけではなく、みんな平等に夕暮れに照らされているのだ。この少女だって、同じだった。


 同じはずなのに、彼女はもうほとんど動いていない。


 誰かが歌を歌いはじめた。


 村の誰もが知っている、弔いの歌だった。


 いつの間にか魔導師たちを中心にして行列ができて、彼ら全員が歌いはじめた。

 やがて広間にたどり着いて、父親が泣き崩れる様子を、トウヤは傍目で見た。


 少女は 棺桶に入れられた。


 ――嘆くな愛しいひと  お前をひとりで見守ろう 遥かなるその空の向こう岸で ひとりで泣いても心は変わらん 時を結んで人人探せ も一度歩んで故郷を われはいざゆかん 痛みも別れもないまどろみ持って いつかみやげを届けよう はてはていくなら思い出ともに さらば愛し人よ ふたたび見舞うその日まで――


 歌はいつまでも繰り返された。誰もやめようとはしなかった。


 少女の棺桶が燃やされていく。


 ぼくはそれを見届ける。


 死んでいく者を見送ることも魔導師の役割なのだと、ミラが教えてくれた。


 やがて夜になって、棺桶が燃え尽きて、人々の歌も止んだ。


 僕にできることは見送ることだけ。


 ひどく無力だったが、そのことを悲しむ訳にはいかなかった。


 泣いてはいけない。


 僕がこの残酷な世界の、希望だというのなら。立ち止まってはいけないはずだから。




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