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少女の運命


 魔鬼獣はその後、さらに増えた。南の谷底から湧き出るようにして子鬼が大勢現れたのだ。ミラにとってそれを焼き払うことは造作もないことだったが、後に別の方角から子鬼の大群が現れていたということもわかった。しかし、その大群も問題なく撃退された。


 水鱗の国の軍隊が、援軍としてレゴス村に到着し、それらを倒したのである。


 そういうわけで、村には大きな被害は生まれなかった。


 しかし問題はあった。


 また犠牲者もいた。


 レゴス村の一角にある民家。そこに三人は呼ばれた。そしてベッドに横たわる病人を見ることとなる。魔鬼獣による魔毒の影響だということは、この大陸に住んでいる誰にもわかることだった。魔毒による病気にかかった場合、必ずその病を発生した者は、光闇の両眼になるからである。


 その病人の両眼は、トウヤが持つのと同じ、光闇の両眼そのものであった。

 まだ見たところ十、四、五歳の少女である。

 彼女の息はぜいぜいと荒い。意識ももうろうとしている様子だった。


「どうして娘が、魔毒に侵されなくてはならないんだ」


 彼女の父親が悲痛な声で言うのを、他の誰もが沈黙して聞くばかりであった。


 魔毒にかかった者が出たということ。


 それは村中でもう噂になっていたから、村人はどの者も暗い顔をしていた。


 一旦三人は民家から外に出た。家族だけで最後の別れをするということで、少し時間をくれという父親の願いであった。


「家族はあの父親だけらしい。娘とふたり暮らしだったそうだ」


 エレグは暗い表情でいった。


「二人だけか。つまり、これからはひとりきり……か」


 ミラは何かを思案するかのように眼を瞑った。


「まだ亡くなると決まったわけじゃ……」 

「いや、彼女は殺される」

「殺される?」

 何かがおかしい、とトウヤは訝しんだ。


 ミラもエレグも出会ってから一番の暗い表情を見せていた。


 少女にこれからなにが起こるのか、二人は知っているのだ。

「教えてくれ、ミラ」

 ミラは、わかった、と短く言ってから彼に魔鬼獣、そして魔毒についての説明をはじめた。




「魔鬼獣とは遥か昔からこの世界に生息している獣です。それは殺されない限り生き続ける、無限の命を持った凶暴な化物です。それらは大陸外に無数に生息しているらしいのですが、この大陸にそれらの無数の大群が攻め入ってくるようなことは、滅多にありません。今日のような出来事は珍しいことだと思ってくれていいでしょう。


 ですが、近頃、魔鬼獣が突如として村や町を襲うというケースが報告されることが増えています。その理由は判明してはいませんが、まあ、一説では各国に一つある『象徴』が力を弱めてきているからではないか、とも言われています。象徴は魔鬼獣を遠ざけ、大陸に蔓延するはずの魔毒を吸収してくれます。ゆえに溜め込んだ毒を百年に一度排出しなければなりません。それによって生まれるのが魔導宝具です。これは以前も少し話しましたね。


 さて、少し話が脱線しましたので、魔鬼獣についてもう少し話しましょう。あなたはどうやら見たようですが、魔鬼獣には光闇の両眼が備わっています。あなたと同じ、光と闇のその両眼。つまり、魔鬼獣にも六属性が備わっていると言われています。ゆえにあの化物たちにも属性耐性がありますが、今回のような数ばかり多い貧弱な魔鬼獣であれば、私の強力な魔導で問題なく焼き払うことができます。


 では、なぜ彼らには光闇の両眼があるのか。それは実はよくわかっていません。大陸の外に何かがある。それはおそらく間違いないのですが、誰も大陸の外へ調査に行くこともできませんから、解明はされていません。では、なぜあの魔毒に侵された少女が光闇の両眼をしていたのか。それも解明はされていませんが、仮定の話では、魔毒の性質によるものだとされています。


 魔毒とは六属性を含んだ毒なのだという仮説です。だから魔毒に侵されたものは六属性を手にし、光闇の両眼を持つのです。それは一見良いことなのですが、問題はその先です。魔毒に侵されすぎると、人間は、魔鬼獣になるのです。つまり、魔鬼獣という化物は、元々は人間そのものなのだということです。


 大陸の外にいる魔鬼獣たちも、元々は人間だったのではないかといわれていますが、それが事実かどうかはわかりません。なぜ世界が魔毒に侵され、数多く存在したであろう人間がすべて魔鬼獣になってしまったのか。それは人間がこの大陸に閉じ込められている限り、わからないことなのです。


 そういうわけで、このまま魔毒に侵された少女を放置してしまえば、必ず魔鬼獣になって人間を襲います。一体だけならば微量ですが、魔毒を振りまくこともしてしまいます。魔毒に侵された者を、治すことはできません。ゆえに、殺さなくてはならないのです。それがいたいけな少女の、運命なのです」

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