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属性耐性




 光烈の国を出てからの旅は主に馬車での移動であった。


 目的地は水鱗の国である。


 馬車でゆったりと向かって約三日ほどはかかるということだった。


 そんな馬車の中でトウヤは何度かミラにこの大陸のことについて尋ねたが、あまりしっかりとした答えはもらえなかった。百聞は一見に如かずということを大事にしているらしく、そのの必要性が出てくるまでは物事を教えてくれないようであった。けちだなあ、とトウヤは何度も思った。


 一日目の長い馬車での時間はそんな感じで終わり、途中にある村で一泊することとなる。


 その村はとても平凡な村であった。


 畑の数がとても多く、牛や馬が多い。人の数が異常に少ない。


 宿屋『ほろり亭』も光烈の国で訪れた宿屋よりも建物が古く、用意されたベッドのシーツもやや黄ばんでいた。すぐに寝る気は失せて、夜になってしまった中、トウヤは宿の外へ出た。一人では危険ということで、ミラがついてきた。エレグは疲れていたらしく、すぐに寝てしまった。


「あの温泉は実に良かった。そのおかげか疲れなども一切感じないな。温泉というのは、魔導よりもよっぽど役に立つ人類の宝物だ」


 ミラはまだ馬車の中でもトウヤのことを一度も名前で呼ばなかった。トウヤが聞いている限りではエレグのことも一度も名前で呼んでいない。そもそも二人は火と水ということで相性が悪いのか、会話自体もあまり交わしていないように思う。一緒に旅をする者としてそれでいいのだろうか。ミラという人物は一体どんなこだわりを持って人を名前で呼ばないのだろう。


 まだ旅は始まったばかりで人の性格はまだ完全に把握できるはずもない。


 人となりか、と頭を悩ませる。


 そこでトウヤはまた聞いておきたいことを思い出した。ミラに関係することである。


「ミラの髪って、召喚された魔導師だから白髪なのか?」


 また答えてもらえないかと思ったが、ミラは以外とすんなり返事をした。


「そうだ。召喚されたのは随分前のことだが、その時から私の髪は白髪だったし、魔導宝具の属性は火だったから、両眼も真っ赤に染まった」


「ミラにも特性はあるんだよね? それってどんなものなの?」


 トウヤ自身の特性についてはまったく詳しく教えてもらえなかったので、ミラの特性についても教えてくれないかなと予想したが、まったくその通りだった。


「魔導師は特性については秘密にしておかなければならないものだ。なぜかというと、特性とは魔導師にとっての切り札であり、もっとも重要な代物だからだ。ゆえに、秘密だ」


 トウヤはその答えにあまり良い感情を持たなかった。


 仲間と思われていないのかもしれない、とミラという人物の冷たさを直に触ったかのようだった。


 トウヤはそんな感情を隠そうともせず、

「なんだか、何も教えてくれないよね」

 とはっきり不満を告げた。ミラは夜の帳を数歩歩いてから、トウヤに振り返った。振り返ると同時にどこかで獣が吠えた。すぐに静かになって、夜の沈黙が走る。


「ひとつだけ教えてやろう」

 そして言った次の瞬間、ミラの手から紅蓮の炎がほどばしった。

「うわっ!」


 驚いている内にその炎はみるみる地面を走り、トウヤの周囲を取り囲むようにして燃えた。


「これが私の魔導だ。魔導師にしか使うことができない、全てを焼き尽くす火炎」


 そんな説明をされている内にもバチ、バチ、と音を立てて火の手が大きくなっていく。火事になるのではないかと思いトウヤは焦ったが、ミラはまるで冷静な様子だ。


「熱いか? ただの炎ではないから私の意志で動く。ゆえに火事になる心配はない。だが普通の炎ではないがゆえに、その温度も高い。すべてを燃やし尽くすことができる魔導の炎だ。もう一度聞くが、どうだ、とても熱いか?」


 炎なのだ、熱いに決まっている。


 トウヤはそう思って慌てるばかりであった。


 だが、すぐに気が付いた。

「あ、あつ、くない! あんまり!」

 ミラはそれを聞いてにやりと笑った。


「それが属性というものだ。お前は水の属性を持っているはずだ。ゆえに火が弱点なのだ。だが同時にお前は火の属性も持ち合わせている。ゆえに、火が熱くない。さらにいうならばお前はこの大陸のどの属性に対しても耐性を持っているということになる。すべての属性を持つという利点はそこだ。お前はどの国の魔導師に対しても防御に関しては実に、有利だ」


「それが、僕の特性?」


「違う。特性とは別の話だ。……だが一つ、はっきりとした欠点も持っているのだ。……リーダー、ちょっと魔導を唱えてみろ。そうだな、火に有効な水の魔導でいいだろう。お前には水の属性は当然、備わっているのだぞ。やってみろ、水の魔導だ」


「どうやれば唱えられるのかわからないんだけど」

「水よ、出ろっ、てっ感じだ」

「そんな適当な」

「まあ試してみろ。もしかしたら水が出るかもしれない」

「……やってみるけど」」

 トウヤはなんとなくのイメージをしてみる。そして先ほどのミラが魔導を使った瞬間を、脳裏で思い出してみる。手はどんな形をしていたか、どんな表情をしていたか……。


 そして強く念じる。

 出ろっ、水!


「……唱える呪文とか、ないの?」

「ない」

「出る気配が一切ないんだけど、コツというか、練習が必要なんじゃあ……」

「違う。そういうことではない」

「じゃあ何かが足りないということかな?」


「……出ない理由については、おおよそ想像通りといったところだ。これは何も私だけが想像していたことではない。多くの人間が、お前には水の魔導は使えないだろうと想像していた」

「水、だけ?」

「もうわかっているだろう?」


 すぐにひらめいた。


 その問いかけに対しての答えがトウヤの勘通りだとしたら、それは……


 少し、ショックだ。


「僕は魔導師でありながら、魔導が使えない」


 その理由もなんとなくわかった。トウヤは目を瞑り、そして目を開けた。炎が消えていた。


 夜の沈黙が痛いほどだった。やけに今日は寒いのだ、と今になって気がついた。


 ミラが説明をはじめる。


「簡単なことだ。魔導宝具には属性が備わっている。例えば火竜の国にある象徴から生まれた魔導宝具には火の属性が備わっている。単純な話だな。だから私は召喚された時から火の魔導が使えた。当然、他の属性の魔導は使えないし、火という属性の反対である水に対してひどく弱い。もちろん水に対して強いということでもあるがな。火と水、風と土、光と闇、それら六つの属性がこの大陸には存在する。さて、では、六属性を持っている者はどうなるか。つまり、お前のことなのだが……」


「すべての属性が互いに打ち消し合うから、どの魔導も使えない」


 ミラはうっすらと微笑む。


「それがお前の、特筆すべき点であり、そして弱点だ。すべての魔導の属性を備えているがゆえに、守りが堅く、攻めが弱い。魔導に対する抵抗力は著しいが、魔導師でありながら魔導を唱えることができない」

「……それって、戦えるの?」


「それ自体は強くもないが弱くもないといったところか。……そうだな、お前が強くなれるかどうかに関してだけ言わせてもらうなら、はっきりと言っておくと、その可能性は非常に高いとだけいっておこう。お前は強くなれる。おそらく、この大陸中の誰よりもな」


「……まさか、特性があるからかな」


「ふむ。察しの良さだけはなかなかのものだな、お前は。……その勘の良さのほうびとして教えてやろう。そうだ、特性というお前の特徴が、お前をおそらく最強にする。だが、これもわかっておく必要があるのだが、お前にはまだ特性がないのだ。その特性を手にすることこそが、お前にとって重要なことであり、最優先事項であるということは言うまでもない」


「特性とは魔導師にとっての切り札。秘密にしなければならないこと」


「そうだ。ゆえに私の特性も秘密だ。……まあ、いつかは知ることにはなるだろうが、それは先の話だ。…今日はもう遅い。明日も馬車で移動だ。宿に戻ってさっさと寝るぞ。眠気が襲ってくれば黄ばんだスーツのことなど気にもせず眠れるだろう。あの筋肉男のようにすやすやとな」


 筋肉男とはエレグのことだろうか。

 やはり、ミラは名前を呼ばない。それは僕たちと一定の距離を保つためだろうか。

 エレグに関してもそうだが、ミラという人物は必要なことしか喋らない。だから馬車の中ではほとんど会話もなかった。


 エレグからはそれでもどこか暖かみというものを感じるのだが、ミラにはそれがない。


 火の魔導師の癖に、とてもひんやりとしている。


 なにが理由なのかはわからないが、一つだけたしかなことがある。


 この人は、見た目は子供だが、頭脳は大人、だ。

「さあ、寝るぞ」

「うん」


 多分、僕より遥かに年上だ。こんなにちっこいのに。


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