捨てる人材 -2-
(山下課長も変なことを言いだすな。俄かには信じがたい話だ)
平田は開発部へ向かう道すがら、そんなことを思っていた。
(人間をシュレッダーにかけるだなんて、、そんなことがこの日本で許されているものか)
平田は開発部に入室する直前に、ふと思いたち、トイレに入ることにした。
そして個室に入るとスマートフォンを使って、”社員 破棄”と検索した。
しかし、それについての記事は驚くほどに見つからなかった。
ただ、山下の言うことが正しいということは、調べる内に分かってきた。
何度か検索ワードを変更して検索を進めていると、”会社都合による退職社員への特別処置法案”というものが去年可決され、今年から施行されていることが分かった。
詳しく見ていくと”該当社員の受諾があれば、情報の秘匿を目的とした超法規的措置を行ってもよい”と記述してある。
(おいおい、超法規的措置って……それで、殺してもいいってことになるのか……まさか?)
平田の顔から血の気が引いた。じゃあ、今から俺がやろうとしていることって……
「死刑……宣告……?」
冗談じゃない。道理で山下課長がやりたがらないわけだ、と平田は合点がいった。
(この国はおかしくなってしまったんじゃないのか……?)
こんなことが許されるはずはない、と平田はひどく動揺した。
(どうしてもっとメディアはこのことを大きく取り上げないんだ?こんなの大ニュースだろう)
ネットで検索をしているときから違和感を感じていたのだ。
余りにもこの法案について取り上げている記事が少なすぎる。
この法案の可決や施行時期、概要などを浅く取り上げる記事は存在したが、批評を下す記事などはまるで存在しなかった。
(もしかして、政府が情報を規制しているのだろうか……?)
ひどく恐ろしいことに自分が巻き込まれてしまったのではないか、という疑念が平田の胸の内でぐるぐると回る。
そうやって暫くの間個室に籠りきりでいると、こんこん と個室のドアを叩く音がした。
捨てる人材 -2- -終-