疑心暗鬼
奴らは唐突に現れた。
奴らはフィクション、仮想世界、作り物の世界の住人だった。
奴らは人間の敵で、英雄たる人々に倒されていく物語のやられ役。
奴らは鬼
奴らはついに現実世界に現れた。
20XX年三月 パプアニューギニアウェワクにて鬼の姿をした者が集団で発見される。
人間に攻撃を始めたため地元の方々の手により殲滅。
同四月 フィリピンサマール島にて発見。軍が派遣されるまで海辺が占領されたが、軍と交戦が始ると即座に殲滅させられた。
同四月 日本高知県にて発見される。こちらも自衛隊が即座に殲滅。
フィクションの産物である奴らがなぜ生まれ落ちたのか明確な理由は分からない。数体捕獲された鬼は殲滅して数時間後、灰となって消えて行った。
しかし一つ分かることは、陸に上陸した全ての鬼たちは、人間に大きな被害をもたらさずに、この物語からご退出させられた。
奴らはネットで世界終末論争を活発にした。その程度のことで鬼襲撃騒動は終わりを迎えた。
「ねえ、鬼襲撃騒動って覚えてる?」
目の前のただ黙々と新聞を読む女子に僕は口火を切る。
「えぇ覚えています。とても衝撃的なニュースでした。」
彫像のように動かずに、たまに新聞のページをめくることで辛うじて生存を確認できたの彼女が口を開いた。彼女は神楽坂 鈴香 かなり話しかけづらい雰囲気を纏っている。整った顔立ちも銀縁の眼鏡もその雰囲気を一層強い印象にする。真面目というかその容姿も相まって刃物のような少女だ。
最後の授業が終わった後、僕達二人は新聞部にいつも通り集まり部活動を行っていた。
部活動と言ってもそこまで大した物ではなく、せいぜい数年前から最近までに起こった事件を物色し、もう一度調べ直しまとめ、少し変わった風な見解を述べる。その程度の活動である。
そんな部活でもでもここは中々大きい部活で部員は37人程、全校が500人いるかいないか程のこの学校では大きい方だ。
そのためいつも数名のグループに分かれて活動している。
僕らは二人でグループを組み、次にまとめる記事を決めるために集まっていた。
「僕も見てたよあのニュース、驚いたよね」
「はい鬼などという存在が実際に存在するのであれば、今まで虚言とされてきたUFOの類の物や幽霊なども実在するのでは、と小さいながらも新聞を読み漁っていたのを覚えています」
彼女が自分の過去を話すのも珍しい。
「でその結果はどうだった?」
彼女はUFO等を信じるような人ではなかったはずだ。僕も信じているわけではないが彼女とは違い闇夜は怖いし、お化け屋敷は適度に運営側が望んだ正しい楽しみ方が出来ると思う。彼女がお化け屋敷で怖がるところは僕には想像できない。
「はい、結局鬼が存在したからと言って幽霊などが存在する理由には足りないことが分かりました」
「今の活動記事も決まっていないしさ、この鬼騒動をもう一回調べ直してみない? 神楽坂さんさえ良ければだけど」
「あれをですか」
彼女は表情こそ変わらないが少し声色が落ち込んだような気がする。昔もう調べたと言いたいのだろう。
「ほら昔と違った情報も出てくるかもしれないだろう?なんせ六,七年も昔の事件だ」
彼女は納得こそしてないような表情だったがそれ以外面白そうな記事も見つけることもできなかったのだろう。沈黙を貫いた。
僕はそれを了解と取り話を始める。
「と言ってもかなり昔でなおかつあまり面白くなかった事件なのは認めるよ。それじゃ三日間程でどうだろうか」
「なにがですか?」
「この事件を調べる期間。三日間この事件を調べてなにも出てこなかったら次の事件を調べ始めよう。そんな感じでいいかい?」
そうしたら彼女は少し雰囲気を戻して
「はい分かりました、ではそれまで頑張りましょう。」
そして二日の時間が経った。
僕らの首尾は
「上々とは言えませんね」
僕は首肯する。
残念なことに今日に至るまで、僕らあの事件の新たなる噂を一切合切耳にすることは出来なかった。
「まあまだあと一日もあるし」
「そうですねそろそろ次の記事を探そうかと思います」
「神楽坂さん?」
「冗談です」
彼女も冗談など言うのだなと意外に思ったのと、もう一つ無表情の冗談がこんなにも厄介だとはおもってもみなかった。
「まぁ難しいとは思いますがやると言ったのですから三日間は探しますよ」
これである、彼女は一見近寄りづらいのだが、一度味方につけてしまえばこの新聞部で彼女以上に信用できる人はあまりいない。
そうして僕らはすぐに帰路に着いた。
そして僕らに残された最終日深夜。
奴らはこの前陸の侵略路が駄目だったと学んだのだろうか。
奴らは空から降ってきた。
それは見ればとうてい鬼などと形容するようなものではなく、液状の物に目がついただけ。
俗に言うスライムのような物体だった。
そして奴らは唐突に空から押し寄せ。そのまま人類に攻撃の意思を示してきた。
なんてことはなく。
奴らはただ二人の学生の頭の内部に侵入した。
彼女は今日も部室にいた。彼女を連れだし話があることを伝えると「私も話がありました」と意外な返答が帰ってきた。話の内容まで同じだったのだから驚きだ。
まず頭の中に鬼らしき物が入ってきたらしい。そして頭の中には漠然と今鬼が頭に入ってきたという言葉が浮かんだこと。
他の友人などに聞いたところ全くそんなものはいなかったという全く同じ回答しか見つけることは出来なかった。神楽坂さんも似たような結果だったらしい。
「何で皆さん全く見てないのでしょうか」
「そんなのこっちが聞きたいよ」
僕ら以外の人達はそんな物は見ていないと言い僕らの発言を妄言だと笑っていた。
「とりあえず僕等の頭の中に奴らは入ってきたんでしょ?」
「そうですね、頭もかなり重いような気がします」
頭が重そうに、それがどうしたという表情で彼女は僕を見つめる。それよりほかの人と違う記憶がある方が問題だというように。
「じゃあ専門家に聞いてみようよ」
「専門家? 誰も覚えてすらいないことに専門家がいるんですか?」
「そっちじゃない問題はもう一つあるだろう? そっちの専門家さ専門家なら」
鬼の専門家を探す必要はないのだ。奴らは脳にいるのだから。脳の専門家ならこの町にもいる。
「で俺様のとこ来たと」
「そゆこと頼むよおじさん」
僕の叔父は脳外科なのだが、素行が悪く患者からの評判はすこぶる悪い。
「だからおじさんって呼ぶんじゃねえ何度も言ってるだろう。呼ぶんならドクターとかそういうかっこいいのにしろ。」
と中々に面倒な人だが、手術含め仕事を始めればまじめな人なのだ。まじめなはずだ。
「まあお前らは金は払ってるからな。身内とその彼女とはいえ、無碍に扱うわけにはいかんだよなあ」
金さえなければ無碍に扱うような言い方だな。まあいい神楽坂さんとの彼女発言も彼女が触れないから無視した。
僕の叔父はとても面倒な性格をしている。
「よろしくお願いします」
「仕方ねえよろしくお願いされてやる。ほらそこに横になれ」
そして全員が横になり診断が始まった。
「ほい全員簡単に頭ん中みせてもらった」
頭の中を見る、嫌な表現だ勿論そういう意味ではないのだが。出来るのならば頭の中は誰にでもバレずに生きていきたい。
それとは別に緊張が走る一瞬だが、どんな結果が出るのだろうか。
「なんも異常はなかったな。お前らの頭の中は至って健全だよかったな」
叔父が皮肉交じりに言う。
そこに噛み付くのは神楽坂さんだ
「待ってください頭の中に異物が入ってきたんです。何もないのはおかしいでしょう」
「いやその通りだ。しかしレントゲンにもお前らの頭には異常は一切見つからない。異物なんてもっての他だな」
なおも彼女は噛み付こうとこちらを見るが、僕はこの程度で叔父がミスをするような医者ではないことは知っていた。
叔父は困ったように頭を書きながら。
「しかしお前ら以外それを見たって言ったやつもいなかったんだろ、その鬼とやらは」
叔父は笑いながら話した。
「じゃあその鬼はお前らの精神的な物なんじゃないか?」
僕らの頭にはこの言葉は深く残った。
結局その日は各自帰宅する運びとなった。
そして夜、布団にもぐりつつ今日のことに思考を巡らせると、おかしいのは世間ではなく僕らなのではという思考に辿り着いてしまった。
実際のところ他の人。僕らが聞いただけでも数十人はいるはずなのだが、その人達には見えず、鬼について調べていた僕ら二人のみに見えているらしい正体不明な頭鬼達。
頭に住み着いたこれは鬼だといつの間にか思い込んでいた。そんな根拠はなにもないのに。
いつの間にかもしかしたら奴らは、僕らの中で疑念が沸いてしまったから起こった幻影なのではないか。などと考えていた。
僕らの頭に住み着いたあれは、非現実的な鬼を疑う鬼。疑心暗鬼なのかもしれない。
そう考えたらふと頭が軽くなったような気がした。
ということで疑心暗鬼最後まで読んでいただきありがとうございます水根 鳴海です。
ここでの投稿も二回目ということで、一回目とかなり時間が空いてしまいましたが。話すこともないので今回の作品についてでも。
今回の作品はあるイベントに提出した短編を手直ししたのちここに上げたものになります。何が言いたいかといいますと、前回作品よりも自分色が薄いわけですよ、目の前に読む人がいるので。なのでこの水根とか言うアホはどんなの書くんじゃボケェっていう人は前作執行猶予のほうもぜひ読んでみてください。
それでは今回はこの辺で最後に少し謝辞を
今回編集や推敲関わっていただいた先輩含む友人の皆さま前回引き続きありがとうございます。次回からもよろしくお願いします。
イベント参加していた皆さまお疲れさまでした。参加していただきありがとうございました。
今回はそんな感じで終わらせていただきます。読了ありがとうございました。
いつもあなたの斜め後ろに 水根 鳴海




