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大盾の学徒兵 ー大和魔法術学園 特別練成科ー  作者: 柴犬道
第二章・学園編(1年)
9/26

8.入学式とクラス分け

8話です!


 四月――それは新たな出会いがあり、新たな生活が始まる月であることが多い。それは、大和魔法術学園でも同様だ。


 桜舞う暖かな春の日、本来のサイズより少し大きい制服に身を包んだ少年少女達が、大和魔法術学園の中心にあるガラスのドームの一階、大講堂に集った。その数、ちょうど五〇〇名。高難度の筆記と混沌極めた実技試験を乗り越えた新入生達である。


 その新入生の一人に、幸雄も無事、加わっていた。



(――……見当たら無いな)



 座った席から亀のように首を伸ばして、幸雄は辺りを見回す。獣の耳が生えた獣人、黒髪の後頭部、特徴的な色の髪……実に多様だが、お目当ての色が見つからない。

 その姿は、全員が背を正して座る中、あまりに挙動不審である。


「……幸雄、どうした?」


 そう横から問いかけるのは、これまた無事に合格を手にした真一だ。

 ――ちなみにこの真一、合格発表後、SNSから探偵まで駆使し、幸雄と連絡を取っていた。そこまでして何をしたかといえば、合格報告とお礼だけなのが真一らしい。――

 試験当日に出来た奇妙な縁は、なんだかんだ今日の入学式までも続いている。



「いやー、司いないかなって思って。やっぱ多すぎてここからじゃ分からないな」


「ああ、あの子を探してたのか。確かにあの色は『色髪(いろがみ)』でも珍しいが……他にもたくさん居るからな。見つけにくいな」



 真一の言う『色髪』とは、大和人に基本的な黒髪や茶系統の髪色ではなく、元から体質的に異なる色になる毛髪のことだ。原因は定かでは無いが、『色髪』持ちの当人の魔力が影響しているという説が濃厚である。


 幸雄は、司の鈍色の色髪を探していたが、結局見つけられず、入学式が始まった。



 司会の教師が音頭を取り、入学式は着々と進んでいく。何度か、立っては礼をして座るを繰り返すと、来賓の紹介に祝辞が終わり、大和魔法術学園校長……大熊の挨拶が巡ってきた。


 一同起立、礼、着席。


 大人数の衣擦れでさざ波のような音が立ち、また講堂に静寂が戻る。

 大熊校長は笑顔を浮かべ、壇上から五〇〇名を見渡した。見えるのは、まだどこか幼さが残る少年少女。皆、これから始まる学園生活に思いを馳せているのが良く分かった。



「……辛い受験勉強を乗り越えて、無事、本校に入学した新入生の皆さん。おめでとうございます。本校に合格するまでの道のりは、ひっじょーーに険しかったでしょう。だが、皆さんは勝ち取った。素晴らしい努力です!私は皆さんを心より歓迎致します!――えー……ところで、皆さんは本校にどのような志を持って入学されたのでしょうか。軍の士官(エリート)になりたい、医者になりたい、技術者になりたい……様々でしょう。ですが、そんなんでは()()()()()?」



 瞬間、幸雄の背筋に冷たいものが走った。

 空気が張り詰め、殺気にも似た雰囲気が全員を包み込んでいた。大熊はそれでもにこにこと笑っている。



「……もっと、皆さんは想像しましょう。この大和魔法術学園で四年間、学ぶことがどういうことなのかをね。ここは、エリートコースに乗るための場所じゃないですよー?『入ったからもう安心』ではないんです。高等教育の厳しさは話に聞いてるでしょう?留年、退学、もちろんあります。全員が揃って卒業した年は長い歴史で一度たりとてありません。折れた者から消えていきます。いいですかー、想像して、覚悟してください。……大和魔法術学園に入ったということは、成功への確約ではありません。()()()()()()()()()を意味します。ここで競い、磨き、生き残った者が大和帝国を担う人材に成り得るのです――……それでは、君達が高き志を持ち、我が校で励んでいくことを心から期待しています」


「――大熊校長、ありがとうございました」



 拍手は無かった。それを許さぬ迫力が余韻として残っていた。

 飄々とした大熊が笑顔で言ったこと。その内容は多少なりとも浮き足だっていた新入生達を律するには充分過ぎる力を秘めていた。

 彼の言葉に誰もが恐れ、そして野心に火を灯す。その持ち前の勤勉さと達成意欲の高さが、学園で勝ち抜けと新入生を鼓舞していた。


 大熊は下がる前にもう一度、全員を見渡した。視線の先には、夢見る顔が、恐れや覚悟の表情に変わった新入生達がいる。


(……今年も頑張ってくれそうだ)


 大熊は満足げに頷いた。毎年こうして発破をかけるのが、彼等に対する一種の通過儀礼なのだ。

 ここで危機感を覚える者は、簡単には挫折しない。

 それは校長としての経験と三〇年前の実体験から言えることである。同じように脅されて、不安を覚えたのが鮮明に思い出されて懐かしかった。


 大熊はまたにこりと微笑むと、一礼して下がっていく。

 司会はそれを認めると、張り詰めた空気など気にせず、入学式の残りを進めるのだった。



     ※     ※     ※



「……疲れた」


「ああ……疲れたな」


 六角形をした校舎の内側、中庭の一角にある芝生に幸雄と真一が座り込んでいる。入学式は既に終わり、後は張り出されたクラスを確認して帰るだけでいいのだが、二人は動けなかった。

 未だに混雑している掲示板に行きたくないのも理由だが、それ以上に校長の話後の精神的疲労が大きい。あのピリピリと張り詰めた冷たい空間は、なかなかの苦行だった。



「『更なる競争の始まり』か……。当たり前の事なのに、改めて言われるとなんか、キツいな」


 掲示板の人混みをぼんやりと眺めながら、幸雄は大熊の言葉を思い出す。「成功への確約ではない」と言うのも全くその通りだ。


「不安か?」


「……俺は『魔力なし』だからな。不安ばっかだよ。でも、この俺が入れたんだ……やっとスタート地点に立てたんだから、後はひたすらやるだけだ」


 幸雄は笑う。

 大熊の言葉は、入学したばかりでどこか浮かれていた自分に、現実を突きつける厳しいものだった。だが、それが無ければいつか足元を掬われることになったかもしれない。そう考えば今は身の引き締まる思いがした。

 


「お前は強いな……そうだ幸雄、俺に勉強を教えてくれ。テスト前に」


「真一は座学が不安かー。同じ授業があれば教えてやるよ」


「では、被らない授業はちゃんと受けよう」


「全部ちゃんと受けろ」


 二人は腰を上げると、少し人だかりが減った掲示板に向かって歩き出した。軽口を叩きながら掲示板の前までくると、二人はそれぞれの(コース)に分かれクラス分けの紙面に向き合った。


――大和魔法術学園では、三つの科がある。

 一つ目が、戦闘的な魔法の扱いも多く学習する“普通魔法科”だ。士官学校的な側面もあり、軍への入隊を志すものが比較的多い。


 二つ目が、魔道具の開発、製作、研究について学ぶことが出来る“魔道技術科”である。もちろん魔法の授業もあるが、メインは工学系の授業となる。幸雄の祖父、正幸はこの科に在籍していたらしい。


 そして三つ目が、具現魔法の中でも難度の高い治癒系統の学習を行う“医療魔法科”だ。いわゆる医学部の様なものであり、衛生兵として従軍し、医者の資格を取る者や学園の大学に進んで資格を取る者もいる。


 三科とも大和帝国が定める修業四年制で、教育の質・用意された設備・難度、どれも国内最高である。


 そして幸雄は魔道技術科で、真一は普通魔法科だ。

 二人はしばらく紙面を見つめていたが、先に真一が首を傾げた。


「――……ない」


 続いて幸雄も、「ない」と呟き、二人は顔を見合わせる。


「幸雄も、名前無いのか?」


「お前もか!」


 どういう訳か、自分達が合格したはずの科のクラス分けに名前が記載されていなかった。互いが互いの名前を探してみたりもしたが、それでも……無い。

 何故だ、まさか合格通知のミスかと二人して頭を抱えていると、ざわめきの中から気になる言葉を二人の耳が拾った。



「おい……なんだこれ?」

「こんな(コース)あったか?四つ目じゃん。つーか、八人!?これで一クラス?」

「何でこの八人だけこの科なんだろうな」

「ダメダメだったんじゃねーの!?」

「ははっ!それだったら悲惨すぎるなー」



――『四つ目の科』なるものがあるらしい。


 幸雄と真一は、引き寄せられるように声の方向へと向かう。そこは掲示板の隅、仰々しく張り出された三科のクラス分けに少し離れて、人目を避けるように張り出されていた。




「「――特別練成科……?」」



 読み上げる声が重なった。

 目の前には、A3サイズの紙が一枚。そして、紙面には『特別練成科』の文字とその下に八人の名前がある。


 その中にしっかりと、『本城幸雄』と『鳥羽真一』……そして『天道司』。そう記されていた。


 第8話を読んで下さり、ありがとうございました。

 無事入学です。そして、配される謎の四つ目の科『特別練成科』やっとこの字が出せました!笑

 ちなみに、この世界では高校は四年制ということになってます。1年生で16歳、卒業年度には19歳ですね。留年とかしやすいので二十歳を超えての卒業は良くあることです。

 高校卒業後、すぐ働く人が多く、大学行く人はそこそこって感じです!

 以上のようなイメージを持ってお読み下さい。


では、また次回に。ご意見ご感想お待ちしております。

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