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大盾の学徒兵 ー大和魔法術学園 特別練成科ー  作者: 柴犬道
第二章・学園編(1年)
23/26

22.その瞳は招かれざる客を映す



「試作型拡張障壁『クロガネ』――起動!」


 幸雄がそう叫ぶと同時に、彼の持つ大盾が駆働音をたて、変化し始めた。

 半身を隠すほど大きな盾の表面は十字の切れ込みが入ると、四つの鉄面が滑る様に外側へずれ、一回り大きさを増した。その盾の縁をなぞる様に魔力の光が広がっていき、そして最後には、淡く輝きを放つ盾と化した。


 これが、()()()()()()()戦闘用魔道具ーー試作型拡張障壁『クロガネ』の姿だ。


「『クロガネ』……盾を大きくして何が変わるのか知らんが、面白そうだ」

「盾だからって油断するなよ、一輝(いつき)。全部防いで、前みたく引き分けにしてやるよ……!」


 薄笑いを浮かべる一輝に、幸雄が啖呵を切った。その途端、一輝の顔から笑みが消え、彼の持つ戦闘用魔道具『蒼角(そうかく)』の光が強くなる。


「その減らず口、首ごと焼き切ってやる」


 言うが早いか、一輝が蒼角を振った。


――具現魔法『三連(ドライ・)炎弾(フランメバル)


 蒼く光る牡鹿の角の先から、三発の炎弾が放たれた。

 戦闘用魔道具の強化を受けた炎弾は以前見たものよりも大きく、火力も強く、そして驚異的な速さで幸雄へと飛来する。

 上、右、左と迫りくる炎弾。しかし幸雄は慌てる事なく、盾を着弾に合わせて素早く振り、弾く。すると、硬い物同士をぶつけたような甲高い音をたて、炎弾が一つ残らずかき消えた。


(よし!『炎弾』くらいなら問題なく消せる!)


 上々な『クロガネ』の性能に幸雄は心の中で喝采した。一方で、一輝は違和感を覚えていた。「盾が頑丈すぎる」と。

 そう思うのも無理はない。一般的に用いられている盾型の戦闘用魔道具は、高級な物でさえ、一輝の『炎弾(フランメバル)』を五発防げれば良い方なのだ。

 だと言うのに、幸雄の『クロガネ』は、一輝の杖――『蒼角』で二倍以上に強化された『炎弾』を軽々と防いでいる。


「貴様のように、訳がわからん気色の悪い盾だな……『二連(ツヴァイ・)炎槍(フランメランツェ)』!」

「あぶねっ! そりゃどうも。いい褒め言葉だよ」


 炎弾より高火力の『二連炎槍』さえ、幸雄はクロガネで防いでみせた。

 彼が作った『クロガネ』は、言わずもがな、ただの盾ではない。既存の盾型戦闘用魔道具をベースに、『自動発動型魔法』に関するタチアナの研究成果と、幸雄の祖父――本城正幸(ほんじょうまさゆき)仕込みの魔道具製作技術をふんだんに盛り込んだ、幸雄専用装備なのである。

 そしてその本質は、一輝が見た様な盾の変形ではなく、『自動防御』の魔力消費の効率化、および、盾にまで自動防御の作用を付与することにあった。


 一月近いタチアナとの自動発動型魔法研究により、幸雄の『自動防御』についておおよそ判明したことが三つある。

 一つは、他者からの具現魔法に対して発動すること。

 もう一つは、見えない防御障壁が幸雄の体を包み込む様に、常に展開していること。

 最後に一つ、弱点とも言える点が、物理攻撃に対しては作用しないということだ。


 そこでタチアナは、物理防御を補うために盾を用い、それに『自動防御』の効果を付与することで魔法防御をも可能にしようと考えた。そして、今後必要となる幸雄の戦闘用魔道具に『クロガネ』の開発を提案したのだ。

 幸雄とタチアナは、学園の潤沢な設備を活用して研究と並行しながらクロガネの作成に取り掛かり、結果、盾を幸雄の肉体の一部だと誤認させる魔法陣を組み込むことによって、盾の表面まで『自動防御』の防御範囲を拡張することに成功したのである。

 故に、付けられた名称が『試作型()()()()クロガネ』ーー字の如く、『自動防御』の障壁を盾にまで広げる装備であり、物理防御と魔法防御を両立するという研究の先駆けなのだ。


 そのクロガネを構え、何発もの具現魔法を、幸雄はことごとく(ふせ)いでいく。防ぐたびに指輪から魔力が減る感覚がするが、素手で魔法を受けていた今までに比べれば微々たるものだ。


「ーー蒼角限定基礎魔法『焦舞(しょうぶ)』」


 すると、具現魔法で押し続けても意味が無いと判断したのか、一輝が一息に間合いを詰めた。彼は、輝く蒼角を流れる様に操り、突き、払い、振り下ろす。

 先程までと打って変わって変幻自在な棒術に、幸雄は必死に合わせることしか出来ない。一打受けるごとに手が痺れ、蒼角が宿す炎熱がクロガネに焦げ跡をつけた。


「ほう、やはり貴様には基礎魔法の方が効くらしい……。どうした、さっきより動きが悪いぞ」

「うるせぇ、蹴られたとこが痛ぇんだよ!」


 一輝の言葉に幸雄が吠える。

 幸雄の盾は、ほぼ全身を隠せるほど大きいために重い。接近戦で振り回すには不向きだ。だが、重い分、体当たりの威力は増すというもの。


「油断するなって言ったろ!」


 一瞬の隙を突き、体重をのせ盾を前に突き出せば、受けそこねた一輝が大きくバランスを崩した。すぐさま拳銃を引き抜き、一輝の脚を狙って発砲する。

 しかし、蒼角の炎で弾丸を防ぎつつ、大きく飛び退いた一輝には一発も当たらなかった。


「惜しかったなぁ、本城ぉ」


 煽る様に語尾を伸ばし、再び一輝が蒼角を振り上げる。

 幸雄もまた、迎え撃つべくクロガネを突き上げた。



     ※     ※     ※



「深森は、魔法で左右を塞いで。翔子、そのまま路地で追い詰めて!私が、()()()わ!」


 インカム越しに二人の「了解」が響く。

 それを確かめると、涼は自身の大弓型の魔道具の弦を引き絞り、


「具現魔法『痛み(プファイルデス)の矢(シュメルツェス)』」


矢を放った。

 白く輝く魔力の矢が、空を裂いて遙か彼方へと飛んでいく。そして、矢は意思を持つかの様に建物の間を縫い、その威力を落とすことなく、とある路地へと迫り――


「真一くん!()()()()!」


ーー必死に刀を振るう真一の左肩を射抜いた。


「ぐっ……!」

「また大当たりだ、涼!おらおら真一!気合入れろぉ!」


 血が一滴も出ない、ただ純粋な激痛によろめく真一。その隙を逃さんと、翔子が怒涛の乱打を仕掛けていく。

 既に片足にも矢を受けた真一は、得意の基礎魔法も活かせず、防戦一方だ。


「真一くん!今、回復を……」

「させないよ〜!」

「くっ……!もう!退いてください、剣くん!」


 和水が真一に駆け寄ろうとすれば、小動物の様な素早さで剣が割り込み、双刃を振り下ろしてくるので、連携する暇もない。

 ビルから投げ出された後、具現魔法『絞め殺しの(エルヴュクテ)無花果(ファイゲ)』の拘束を解いたところまでは良かったが、二班の統率の取れた動きに和水と真一は翻弄されっぱなしだ。

 さらに、一班の二人が少しでも気を抜こうものなら、何処からともなく涼の矢が飛んできた。


「もう!一体何処から撃ってきてるんですか!?」


 和水の叫びに答える者はいない。その代わりに、何本もの「痛み」の塊の様な矢が降り注いだ。



(……まさか、こんな遠くから射ってるとは思わないでしょ)


 悔しそうに叫ぶ和水の顔を感じながら、涼はほくそ笑む。

 彼女は彼らが戦う場所から離れたーー直線距離で三◯◯メートル以上はある建物の屋上にいた。……そう。彼女はこれだけ遠くの、的が見えもしない場所から全ての矢を放ち、当てているのだ。

 そんな離れ業を実現させているのが、一つの具現魔法と彼女の持つ大弓である。


 その具現魔法の名は『視覚(フィジオーネン)共有(タイレン)』。他者の目に施した魔力のレンズを通して、その人物が見ている視界を共有する術だ。

 涼はこの具現魔法を使って翔子と剣の目を借り、和水と真一を捉えていた。瞳を閉じれば、目蓋の裏に必死の表情の二人が、まるで目の前にいるかの様に浮かんでくる。


(どう?姿の見えない敵に、一方的に射掛けられるのは)


 再び弦を引き絞り『痛みの矢』を放てば、純白の矢は、今まで放った矢と同じ様に複雑な軌跡を描いて、和水の足を射抜いた。

 目で標的を捉え、インカム越しの報告で多少の位置調整を行えば、矢を当てることは可能だ。大弓型の戦闘用魔道具だからこそ、それができた。

 涼の持つ弓型は銃型などと比べて、射程は短く、魔法強化力は劣り、使いこなすにも熟達を要する。しかし、それらの欠点を補って余り有る長所が、自由度と汎用性の高さだ。

 放った矢に意識を集中して操れば、障害物を避けて死角に矢を当てることが出来る。こんな芸当ができるのは弓型くらいなのだ。

 もちろん疲れるし魔力も使うが、三◯◯メートル程の距離ならば、涼にとってなんら問題はない。


(本気でやれば、そのうち一キロくらいいけるかも……おっと、今は戦闘中。集中、集中!)


 雑念を振り払い、涼は最後の一矢にすべく、剣の目を借りて狙いを定めた。

 狙うは和水の頭。激痛だけを与える具現魔法『痛みの矢』であれば死にはしない。気絶するだけだ。


 限界まで引き絞り、指を放す。純白の矢が軌跡を描いて飛んでいく。

 さあ、そろそろ当たるかというその時ーー突然、剣の目との接続が切れた。


(接続が切れた!?ちょっとどうなってるの?)


 涼は急いで翔子の視界へと切り替える。

 走っているのか、彼女の視界は激しくぶれていた。

 酔いそうになるのを耐えながら、必死で目を凝らせば、視界の片隅に和水が倒れているのが見えた。


(よし。当たったみたいね……って、なんで深森まで倒れてるのよ!?)


 何故か和水のそばに、つい先ほどまで視界を繋げていた剣までもが、倒れていた。倒れている理由は分からない。誤射をする様な下手な操作はしていないはずだ。

 驚いたのも束の間、翔子の視線が別のところへと向き、視界から二人の姿が消える。

 涼は慌ててインカムの通信ボタンを押した。


「ちょっと翔子!何が起きてるの!?」

「涼……べ!……こん、ありえ…!」


 焦る様な声が聞こえた気がした。

 だが、それはザーッというノイズとハウリングの様な不協和音に阻まれ、すぐ聞こえなくなる。

 そしてその瞬間、視界にも変化が起きていた。

 激しく揺れていた翔子の視界が一瞬安定したかと思うと、翔子の脚と遠ざかる地面が映り、すぐさま大きく回転して青い空が見えた。


(ーーなに……()?)


 次に視界に現れたのは、大きな両翼の影。

 その影がひと薙した途端、翔子の視界は激しく乱れた。まるで録画中のカメラを落とした様に、上も下も分からないほど世界が回り、暗転するーーとうとう、翔子との接続も切れてしまった。




 それからしばらくの間、涼は必死で担任の美樹(みき)に連絡を取ろうと試みた。しかし、あのノイズと不協和音が鳴り響くだけであり、一向に連絡がつく気配はない。


「あぁもう!やばいことになってるのに!」


 苛立ち、何度も通信ボタンを押すが、状況は変わらなかった。

 とりあえず落ち着けと自分に言い聞かせ、涼は頭を整理する。翔子が遭遇し、彼女の目を通して自分が見た鳥ーーあれはきっと()()だと、涼は確信していた。


(あんなデカい、ただの鳥がいるわけないでしょ……)


 『魔獣』あるいは『魔物』と総称される、生態系から外れた危険生物。

 通説では、魔力の濃い自然の中で、高い魔力を持つ動物が突然変異することにより生まれると言われているが、いまだそのほとんどが謎につつまれており、古今東西、人間の営みを語る上で必ず登場する存在。

 そして、この世で唯一、()()()()()()()()()()()()()()()()生物だ。


(きっと、あれは怪鳥種……。正体までは分からなかったけど、今、ここが危険なのは間違いない)


 涼は脚に魔力を集中すると、屋上の縁を蹴り、屋上から屋上へと飛び移った。

 翔子たちのもとへ急ごうかと悩んだが、その前に目指すは、一輝と幸雄の所だ。幸い、先程まで『炎槍(フランメランツェ)』の火柱が見えていたから場所の予想はついた。

 この緊急事態を伝えなければならない。それに、共に行動した方が安全だ。


「みんな、無事でいてよね……!」


 祈る様に呟き、涼は再び力強く地を蹴った。


テンポがよい文章したい!


かといって軽すぎる文体も苦手なんですよね。

塩梅が難しいところです。日々勉強頑張ります

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